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幕末カタナ・ガール  作者: 子父澤 緊
下坂之章
243/404

カッパ島の決斗 其之参

こういうことには目端めはしく三十郎は、一発で浪士組の頭目とうもくを見抜き、近藤勇にうやうやしく一礼した。

「局長殿、ソレガシ谷三十郎、備中松山藩板倉家中まつやまはんいたくらけかちゅうの者にございます。先ほど、浪士組加盟を申し出たところ」

近藤は、軽く目を見開いた。

「ほう。板倉勝静いたくらかつきよ様の御家中ごかちゅうですか」

「以後、お見知りおきを」


「ふん、出たよ。局長殿の俗物ぞくぶつ根性が…」

土方歳三が、聴こえよがしに皮肉ひにくるのを、近藤がジロリとにらみつけた。


たしかに、近藤には家格かかく肩書かたがきに弱いところがなくもなかったが、

のちに現れる新選組のライバル、旗本はたもと部隊「見廻組みまわりぐみ」を例に引くまでもなく、親藩しんぱん雄藩ゆうはんの家臣をようする部隊というのは、おのずと重要な役目を割り振られる。


土方は、小さく両手を挙げた。

「おっと、そう怖い顔するなよ。箔付はくづけも必要だ。だろ?それは、俺も理解してる」

封建ほうけん社会においては、それが現実だった。

しかし、この話の前提は、谷三十郎が今でも備中松山にせきを置いていればのことである。


もちろん、その辺りの事情に通じている原田左之助が、黙っているはずもない。

「こらこらこら!故郷くにの話はそれで終わりか?まだ、続きがあんだろ…」

三十郎は、詰め寄る原田のくびに腕を回して、グイッと引き寄せた。

「まあ、まてまて、左之助ぇ。お前の言いたいことは分かっている。が。すでにソレガシの名は、あの芳名録ほうめいろく(しる)されておるし、此処ここはもう剣技を試される場だ。百聞ひゃくぶんは一見にかずと言うから、まずは幹部のお歴々(れきれき)にはソレガシの腕前うでまえを見てから、ご判断願はんだんねがっても遅くないだろ?」

「また、いつもの屁理屈へりくつケムに巻こうったって、そうは…」

三十郎は、突っかかる原田の耳元に口を寄せ、くさい息でささやいた。

「なあ、取り引きといこうじゃないか?弟子時代のお前の不行状(ふぎょうじょう)は、黙っといてやろう。お互い、忘れたい過去のことはソッとしておかないか?」

「あーっ!てめ、俺をおどそうってのか?」

原田は、ますますヒートアップした。が。

「覚えてるかあ!?お前がさあ!あみだ池で、何処どこぞの御家人ごけにんのバカ息子をボッコボコにしたときは、ありゃモミ消すのに苦労したなあ!ソレガシ、アチコチから金を借りて…」

「う、うわあ!だ、だ、だ、黙れ!」

あわてふためく原田に、三十郎は歯をみせて微笑ほほえみかけた。

「追っつけ、お前の師匠ししょうである弟の万太郎も来るんだ。一緒に働きたいだろ?な?」

「…は、はい」


スゴスゴ戻ってきた原田に、永倉が肩を寄せた。

「なんだよ?なんの話してた?」

「い、いやあ、別に…」

原田は、きまりが悪そうに眼をらした。



河原では、中村金吾や佐々木愛次郎ら、新入りの隊士が、長持ながもち演壇(えんだん)の前で手を叩き、浪士たちを集めはじめる。

「はあい、じゃあこっちに並んでえ!」


河合耆三郎を引率いんそつしてきた神田菊かんだきくが、恐る恐る幹部たちの集まる土手に近づいてきた。

「あの~、兄もこの試合には、出させて頂けるのでしょうか?」

「もちろんですとも!」

真っ先に答えて、菊に飛びつこうとする永倉の後ろえりを、原田が素早くつかんだ。

「ダレ!?」

「あ、こちら、新妻にいづまのお菊ちゃん!ささ、ご案内しましょ」

原田は、イソイソと菊の背を押す永倉に追いすがった。

「お菊ちゃんは知ってるよ!その後ろにいる、幽霊ゆうれいみたいのは…あ、おい!」

あっさり振り切られて、原田はがっくり肩を落とした。

「今度は人妻だと。あいつの女好きにも困ったもんだね」

主催者しゅさいしゃたる沖田総司は、大げさにため息をついた。

たるんどるなあ」

「…そういえばお前さあ、あのおいちって美人の後家ごけと付き合ってんの?」


浪士たちの派手ハデなチャンバラを期待していた原田も、前置きの長さに飽きてきたらしい。

沖田にちょっかいを出し始めた。

「なんでそんなこと原田さんに言わなきゃなんないんですか」

沖田は、警戒けいかいした。


実は、試衛館しえいかん時代にも、互いに憎からずおもう相手がいたものの、身分違みぶんちがいを理由に引き裂かれたいやな思い出がある。


近藤は、沖田に試衛館を継がせようと考えていたから、相手の氏素性うじすじょうこだわった。


だが、原田はそんなお家事情いえじじょうなど知るよしもない。

「いいじゃんか、別に減るもんじゃなし。教えろよ!」

「原田さんに言ったら、みんなにしゃべるでしょ?」

「バカおまえ、…しゃべるよ」

「ほらあ!」

「だから、それの何が問題なんだよ!」

「そしたら永倉さんもバレるでしょ!」

「だろうな。だって俺、あいつに最初に言うもん、きっと」

「わたしは、殺されますよ!」

「ていうか、おまえ!じゃあ付き合ってんじゃねえかよ!」

「…付き合ってませんよ」

「なんなの、じゃあ余計な心配すんなよ」

「そんなの分かんないでしょ!付き合うことになるかも知れないじゃない」

「付き合いたいんだな?」

「いや別に!」

「あーもうイライラする!めんどくさい奴だなあ!」

「ていうかさあ、なんで今聞くかなあ、そんなこと」


原田はニヤニヤしながら、沖田の鎖骨さこつあたりを拳骨げんこつ小突こづいた。

「痛ったいなあ!小突こづくことないでしょ!」

沖田は、反射的に手にしていた竹刀しないで、原田の頭をコツンと叩き返す。

「あ!おまえ、竹刀でぶったな!」

「そっちが先だろ!」

とうとう、二人は竹刀で激しく打ち合い始めた。

「この!このやろ!」


集められた浪士たちは、幹部たちの内輪揉うちわもめを、呆気あっけに取られてながめている。


しかし、やりを取っては天下無敵てんかむてきの原田左之助も、剣技では天才沖田総司に及ばない。

沖田の大人気おとなげない突きで、背中から地面に叩きつけられた。

「痛ってえ!クソが!まだ勝負はついてねえぞ!」

「ハハハ、あー、負け惜しみは見苦しい」


藤堂平助がサッと前に出て、醜態しゅうたいを取りつくろうように、両手を頭上で何度も交差させた。

「よんどころなき事情により、私が進行を続けさせていただきますが!

とまあ、このように試合を行ってもらって。こっち(原田を指して)、負けた方が退場。そういうアレで行きますから、よろしく!」

原田は、さらにそれがかんさわったらしく、

「なんだと平助、てめえ!なにがコッチだ!上級者は三本勝負なんだよ!」

と叫んで、沖田の頭に拳骨げんこつを落とした。

「痛ってえ!何すんだ!」

沖田がまた掴みかかろうとするところへ、藤堂が割って入り、

「まあまあ…うわ、オレまでなぐることねえだろ!」

止めに入ろうとしたが、案の定、巻き込まれた。

「やんのかコラ!」

頭に血の上った藤堂を、沖田がさらにあおる。

「いいぞ、平助!やっちまえ!」

原田は、とうとう槍を持ち出した。

「てめーら、二人がかりで卑怯ひきょうだぞ!やりなら、絶対てめえらなんぞに負けねえんだおらぁ!!」



騒ぎを嫌って三間さんげん(5.5M)ほど後方から成り行きを見ていた土方は、指揮官しきかん相応ふさわしい冷静な裁断さいだんを下した。

「島田さん。あの三人をつまみ出せ」


「はいよ」


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