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幕末カタナ・ガール  作者: 子父澤 緊
下坂之章
237/404

今弁慶、徘徊御免 其之弐

ところが、その浪士組の責任者えらいさん

すなわち、局長近藤勇と副長山南敬介、土方歳三は、沖田総司に常安橋会所を連れ出されようとしていた。


「…うん、…うん、わかった」

何処どこからともなくやってきた新入隊士の中村金吾が、沖田総司に何事か耳打ちしている。

沖田は数度うなずき、中村の話を聴き終えると、ニヤリとして幹部たちに手を叩いた。

「ハイハイハイ!じゃあ近藤局長、山南、土方両副長、次の会場にご案内しましょう」


「なんだそれ!」

さっきまでケンカしていた近藤と土方の声が重なった。


「それなりに頭数あたまかずそろったことなので、次は河川敷かせんじきで、実技試験に移ります」

ウソだろ、芳名録それは真っ白だったじゃないか」

鼻であしらう井上源三郎の前に、

沖田は、床几しょうぎの下から出したもう一冊の芳名録ほうめいろくをドンと置いた。

「こっちはね、名前、埋まってますから。えへ︎」

近藤が、忌々(いまいま)に土方をにらんだ。

「ケッ!そりゃあ、あんな詐欺サギみてえな勧誘かんゆうをすりゃあな」


「で。いいこと思いついたんですよ。聞きたい?」

沖田は三人の顔色を代わる代わるうかがった。


「…聞いて欲しいんだろ?」

土方が渋々(しぶしぶ)答えると、沖田は口元を芳名録で隠した。

「うふふ。ひ・み・つ❤︎」

土方の頬が引きつった。

「て、てめえ、最近、いちいち言い方がムカつくんだよ…」


「はい、じゃあ行きますよ。源さんも来る?ほら林さんも付いてきて」

先ほど、受付を済ませたばかりの林信太郎の手をとると、

沖田はスタスタと先に立って、堂島川の方へ歩き始めた。


「行っちまったよ。先生方、どうするんだい」

井上がたずねると、

近藤と土方、山南は、(みな)まゆを寄せながら顔を見合わせた。

しかし、

「待ってました!やっとチャンバラか!ほらほら!旦那方だんながたも行こうぜ!」

原田左之助が三人の背中をグイグイ押してかすので、

「と、とにかく言うとおりにしましょう」

という山南の意見で、気乗りしないままゾロゾロ付いて行くことになった。



相変わらず、通りを挟んだ向こうで様子をうかがっていた谷三十郎が、ひたいに手をかざして伸びあがった。

「ヤヤ!河合くん!土方のヤツ、連れ立って何処どこかへ行くようだ」

「さっき入っていった、浪士やヤリを持った怖そうなひとも一緒です」

「いまです!じゅくしたり!」

三十郎は、近藤一行が立ち去るのを確認するや、会所へと足早に歩きだした。


…要するに故郷での不祥事ふしょうじを知られている原田左之助がいなくなるのを待っていたのだった。


「いま?え?今なの?」

河合耆三郎かわいきさぶろうは、訳も分からず後を追う。



ところで。

河合耆三郎かわいきさぶろうの妹神田菊(かんだきく)は、永倉新八に追い回され、

中之島に建ち並ぶ蔵屋敷くらやしきの門を、

徳島藩、丸亀藩、肥後藩、鹿島藩、杵築きづき藩、津山藩と通り過ぎ、

角を曲がった路地を抜けて、

今度は、各藩の裏木戸うらきどを逆方向に横切り、

この一画をぐるりと一周して、戻ってきた。


そして、なにわ筋に出たところで、近藤勇一行にバッタリ出くわし、

息を切らしながら助けを求めた。

「おサムライ様、た、助けてください」


近藤は、さすがにこういう時でも動じない。

「どうしました」

得体えたいの知れない浪人に、追われているんです」

沖田総司は、新入りの林信太郎を振り返り、ここぞとばかりに胸をらした。

「こうやって困ってる町の人たちを不逞浪士ふていろうしから守るのも私たちの仕事です」

「なるほど。ではここは拙者せっしゃに任せてください」

林は、やる気を見せた。

土方歳三が薄く微笑む。

「面白いな。じゃあお手並てな拝見はいけんしようじゃねえか」

「は!」

いきり立って鯉口こいくちを切る林の腕に、原田左之助が手を置いた。

「いやいや、兄ちゃん。いきなり刃傷沙汰にんじょうざたってのは、流石さすがにさ。ホレ、この木太刀きだちを貸してやっから」

「なるほど、かたじけない」

林は、木太刀きだち八相はっそうに構え、菊を襲った不逞浪士ふていろうしつじから姿を現すのを待った。


言うだけのことはあって、その立ち姿はどうに入っている。


「あんなもんでブン殴ったら刀とおんなじくらい危なくないですか?」

沖田が口を挟んだが、原田は気にも留めない。


そこへ、蔵屋敷くらやしきのなまこ壁から、

鼻の下を伸ばして飛び出てきたのが、


…永倉新八であった。


気負いった林は、一直線に向かっていく。

それが、先ほどまで自分を勧誘していた男とは気づきもしなかった。


「でやー!」

「…ねえったら、ちょっと待ちなさいってば、おネエちゃ…うわー!なんだなんだ!」

とっさに身体からだらせて木刀を交わしたものの、

永倉は、そのまま尻餅しりもちをついた。


「この破廉恥ハレンチ不届ふとどき者めが…」

林は殺気を込めて、さらに振りかぶったが、

ここでようやく、何か違和感を覚えたようだ。


「ん?この顔、何処どこかで見た気が…ええい!このに及んでまどうべからず!一意専心いちいせんしん剣心一如けんしんいちにょ!キエーーーッ!」


「わ、わ、わ!待った待った待ったー!」

沖田総司があわてて飛び出し、

永倉におおいかぶさるようにして、必死で林を制した。


「すす、すみません!林さん!これ、身内でしたあ!」

「は?はあ…」

林は、中途半端ちゅうとはんぱに木太刀を突き出したまま、立ちくした。


土方歳三が、腕組みして、ひっくり返っている永倉を見下ろす。

「…なにやってんだ、お前?」


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