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幕末カタナ・ガール  作者: 子父澤 緊
変遷之章
180/404

Trouble Sleeping Pt.5

原田は(ハシ)をとめて、(わん)から顔を上げ、急に刺すような眼で琴の顔をジッと見つめた。

「なるほど…あの野郎が言ってた野良猫(ノラネコ)ってのは、あんたのことか。んで?…あんたこそ、あんなとこで何をしてたんだい」

「あの男をつけてました。そうしたら、黒谷の本陣(金戒光明寺)に入って行ったので」

「入って行ったのでって…どうやって忍び込んだんだか知らねえが、ずいぶん大胆なことやらかすな。あんた、あの男の正体を知ってんのか?」

「そうね。売り出し中の侠客(きょうかく)とか…」

原田はせせら笑うような表情で、残りの飯をかきこんだ。

「ふうん。ずいぶんとまた顔の広いこったな」

「別に知り合いというわけじゃありません。ただあの男には、少し聴きたいことがあって」

「へっ!ヤクザ(もん)に何を聴くってんだよ?」


二人は互いに手の内を見せようとしない。


「…ある人物のことを」

「なーるほど。あの男、色々余計なことを知ってそうだもんな。で、あんたの調べてる、そのある人ってのも堅気(カタギ)じゃねえのか?」

「どうかな。私が知りたいのも、その人物の素性すじょう…いや彼の役割です」

「役割?そいつは役者かなんかか?ふん、どっちにしろ堅気かたぎの商売じゃねえがな」

「ズルいわ。私にばかりしゃべらせて」

琴は、悪戯いたずらっぽい目で原田をにらんだ。

原田はそれを軽く受け流し、湯呑ゆのみのお茶を飲み干した。

御馳走ごっそさん…ゲフ。なに、たいしたこた聞いてねんだ。木屋町にあるどこぞの宿に怪しげな土佐者とさものが出入りしたとかどうとか…そこしか聴き取れなかった。なんなのかね、ありゃ?会津にも、お庭番衆(おにわばんしゅう)(諜報組織)みたいのがいるのか?」

土佐者とさもの?それは…」

爪楊枝(つまようじ)で歯をせせる原田の眼が、さらに鋭さを増した。

「おいおい、俺がそれを知ってたとして、洗いざらいしゃべるほど、あんたのことを信用してるとでも?…コナクソ!小骨こぼねはさまって取れやしねえ。だいたいさ…あんた、ほんとに俺たちの味方みかたなの?」

琴は、つい先ほど仙吉にも同じことを言われたのを思い出して苦笑にがわらいした。

「さあ?敵とか味方とか、そういう風に分けて考えたことはないです」

「じゃあ、なんでそんなことを聞く?」

「…」

原田はしばらく待ったのち、楊枝ようじをくわえたままの口元に笑みを作った。

「ダンマリかよ、ちぇ」

その問いに答える代わりに、琴は自説じせつ開陳(かいちん)した。

「あの男が京都守護職きょうとしゅごしょく密偵(みってい)だとして、会津の公用方(こうようがた)から内偵ないていを命じられている場所があるとすれば、やっぱり、そこは攘夷派のかくということになるのかしら?」

「さてどうだか?なんにせよ今から行って、ちょっくらそこを(のぞ)いてみりゃ分かんだろ」

「一人で?」

「他に誰かいるように見えるか?」

「そんなのダメに決まってるでしょ。危ないわ」

原田は床几(しょうぎ)にペタリと両方の腕を重ね、そのうえに(あご)を乗せた。

「こればっかりは、性分しょうぶんてヤツでな。気になったことは、その日のうちにハッキリさせとかなきゃ、モヤモヤして眠れねえんだよ」

「原田さん…」

原田はその先を言わせまいとするように言葉をかぶせた。

「まあ、近藤さんに話したところで、勝手なことすんなってドヤされんのがオチだしな。それに、俺の思い過ごしかもしれねえ。だろ?」


「じゃあ、私もついて行きます」

「は~ん?女だてらに威勢いせいのいいこったねえ?」

原田はそう言って天井をあおいだが、

琴は、おおいかぶさるように身を乗り出して念を押した。

「いいですよね?」

原田は答えるより先に、(ふところ)へ手を突っ込んで立ち上がった。

「別にかまやしねえよ。…よお、ここに勘定かんじょうおいとくぜ?釣りはとっときな!」


琴は伏し目がちに微笑んで、あとに続いた。

が、そのとき。

原田が振り返りざま、琴の肩を(つか)んだ。

「おっと、あんたが先だ」

不意ふいを突かれたとはいえ、身構みがまえるいとますら与えず体の自由をうばった原田左之助の俊敏(しゅんびん)さに、琴は驚愕(きょうがく)した。

ひょうきんな言動にまどわされがちだが、この男も近藤勇に選ばれた豪傑(ごうけつ)のひとりだということに、今更ながら気づく。

背の高い原田は、琴を見下ろすようにニヤリと笑った。

わりいな?まだあんたに気を許したわけじゃねえんだ。後ろからグサリとやられたんじゃ(たま)んねえからな」

「…大袈裟(おおげさ)ね」

琴はため息をつき、言われるまま(さき)に立って歩きだした。


こうして、中沢琴と原田左之助は、奇妙なえんから連れ立って木屋町に向かうことになった。


はずだったが。


そこへ背後から2人を呼び止める声が聞こえた。


「お侍さん、これ、全然()れへん!まむし、二百文にひゃくもんどす」


振り返ると、飯屋めしや下働したばたらきの娘が暖簾(のれん)をかき分けて顔を出している。


「に、に、二百文にひゃくもんて!ボッタクリじゃねーか?!」

ここまで何ごとにも動じなかった原田が、眼を白黒シロクロさせて狼狽(うろた)える。

琴は、無言のまま財布さいふから銀貨を2枚出して、娘の手のひらにせた。

原田は決まり悪そうにその様子を見ながら、モゴモゴと言い訳をはじめた。

「い、いいか!?ほんの一時(いっとき)立て替えてもらうだけだからな!この程度の貸しで信用されたとか思うなよ?」


「ええ、期待してない。返済は、出世払しゅっせばらいで結構よ。原田先生」


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