表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

第03話『アルバイトの始まり』12/5修正

 エクストラ・チップ。それは人間の身体にGSチップを挿入することで、初めて地球の力『ガイアパワー』が完全制御されたことになる覚醒したチップ。同時に人類が地球の一端に触れることが許された証だと言っても良い。

 現在、判明されているのはアルファベット文字によるA〜Zまでの26種類がある。エクストラ・チップのアルファベットは同じ文字が現れない。この2点は確定している。

 現在、進也は『D』『E』『I』『P』の4種類を持っている。しかし、GSチップを人々に配る黒幕たちも既に幾つか手に入れている。全てを揃えることで起こることは、平和をもたらすか、破滅を呼ぶか、全ては人間次第……。





 ノーフェッドによる襲撃から数日後、前日の奏時高校は一部修理が必要な箇所もあったが、大体は大工などの専門家によって修繕されて登校できるようになっていた。翌日の巨大ノーフェッド襲撃を受けた奏時警察署もまた同じように修繕されていて、警察官たちが働いている。そんな事件が起こっても、人々は生活をしており生きている。そんな空気が流れているかのように、中央区で奏時市のシンボルの巨大な時計塔は、東西南北の区に今日もまた鳴り響くのであった。


「おはよう、親父。朝食買ってきたよ」


「おはよう、進也。いつも済まないな」


「良いって。さあ、食べようよ」


 奏時市西区にある小さなアパート風花荘102号室。そこに住んでいる上野家2人は朝の挨拶をしていた。時計塔の音が遠くから微かに聞こえてくる。2人がいる居間には、長方形テーブルの周りは、引っ越してで持ってきた段ボールが置かれたままである。車椅子に乗る秀樹にとっては辛い現状であるが、少しでも広い部屋を提供してくださった隣101号室の大家には頭が下がる。


「いただきます」


「いただきます」


「……まあまあだな」


「……うん」


 進也が椅子に座り、秀樹は車椅子のまま朝食を取り始める。2人が食事しているのは、進也が朝早くに起きてから買ってきたコンビニ弁当だ。風花荘より徒歩5分の場所にコンビニはあるため、まあまあ温もりは残っている。しかし、今の食事風景を進也の母親である早苗が見たら、一瞬にして悲しむのが目に見える。それでも、調理とは程遠い男2人は、早苗が消えた1年前からコンビニ弁当を続けるのであった。





「おはようございます、上野くん」


「おはよう、松下さん」


 午前8時。里美は102号室の扉を開いて外に出る。奏時高校の制服であるブレザーを着ており、風花荘から出て行こうとしていた。いつものように祖母の徹子も一緒である。すると、101号室からたまたま出てきた進也に気付いた里美は、朝の挨拶をした。


「行ってきます。おばあちゃん、上野くん」


「いってらっしゃいじゃ」


「い、いってらっしゃい……」


 進也の気配に気付いた徹子が誘ってきて、何故か一緒に見送ることになった。里美は進也がいることが嬉しく笑顔を向けるなか、進也は見送るという行為が懐かしく感じてしまい、思わず戸惑ってしまう。そんな進也の気持ちに気付かない里美は、手を振って奏時高校へ歩いていくのであった。


「なんて言うか、良い気分ですね」


「そうじゃろ。朝は早く起きるのが一番じゃ。かわいい里美も見れるしのぅ」


「なっ!? 松下さんは関係ないです!! 確かに、かわいい……ですけど……っ」


「ほっほっほ、青春じゃのぅ」


 里美が見えなくなるまで見送る2人。進也は徹子のからかいを聞いて、顔全体がトマトのように真っ赤になる。とても人間を越えた怪物ノーフェッドと戦う同一人物には見えない。徹子は進也の年相応の素直な姿が見れて、満足して笑っているのであった。





「おはようございます、理名ちゃん」


「おはよう、里美ちゃん」


 奏時高校3年3組の教室、里美と理名がいつものように挨拶する。委員長の理名は、誰よりも早く登校している。里美が学生鞄から教科書などを出していると、同じクラスの人間が登校してくる。久しぶりの学校なのか、元気いっぱいの少女もいれば、面倒くさそうな少年もいる。


「久しぶりの学校よね。しっかし、田山先生が言っていた噂、マジだったのは驚いたわ。警察署にも巨大怪物まで出たってね」


「怖いですね。でも、警察官の皆さんのおかげで解決できて良かったです」


「それにしても、あの白いヤツは誰だったかな?」


「そ、そうですね。誰なんでしょう」


 里美は言いそうになったのを何とか口を閉じることが出来た。進也がフュージョナーであることを口止めされているのだ。ノーフェッドは人間が変化する怪物。もしも、バレてしまったら進也だけでなく、周りの人間も襲われる可能性がある。もちろん、里美も言いふらすつもりは全く無い。助けてもらったこともあるが、進也に危険な目に合って欲しくないと考えているからだ。


「里美ちゃん、何を考えているのかな? ひょっとして、男?」


「ち、違います、何でもありませんっ!!」


「まあいいっか。それより新しい洋菓子屋が、南区でオープンしたらしいわ」


「本当ですか!?」


 理名にとって里美は妹のような存在で、ついつい過保護になってしまう。里美は、からかわれるが、気分が悪くなるようなことは言われていないので、あまり怒りはしない。話題が変わって洋菓子屋について聞き、笑顔になって理名に場所を教えてもらうのであった。





「フュージョナー……。ようやく牙を向いてきたか、上野秀樹」


「どうしますか、統王社長。すでにGSチップを新しい使用者に渡しています」


 明るい日常に潜む影。闇に包まれた部屋の中で、1人の男が椅子に腰掛けている。目の前には奏時市の街を模型にして並べた巨大な正方形のテーブルがある。それを眺めているのは、上唇に無精髭を生やして頬が隠れるほど肩まで髪を伸ばしている男──統王正延(すおう まさのぶ)がいた。


「君に任せる。GSチップの覚醒には人間の感情が必要だ。場合によってはエターナルの使用者を消しても構わない」


「分かりました。邪魔者は排除して、利用者は生命の一滴が無くなるまで利用します」


「期待しているよ、キー」


 ここは奏時市が発展している最先端の技術を誇る会社ガイアチューンズ。統王はGSチップを配る首領であり、進也が復讐する張本人でもあった。統王社長に報告しているのは、藍色の怪物キー・ノーフェッドである。統王の前では、いつものような言動ではなく改まった態度だった。そして、左手にはアルファベットの小文字『b』が描かれてあるGSチップを持っているのであった。





「進也くん、風花荘の住民の皆さんに挨拶へ行くかのぅ。紹介はワシがするのじゃ」


「分かりました。でも、すごいですね。階段を簡単に登れるなんて」


「ほっほっほ、何のこれしき。足腰を鍛えるのに、ちょうど良いんじゃ」


 同時刻、太陽が真上に昇って気温が高くなっている頃、進也と徹子は風花荘の階段を上がって2階に向かう。徹子は老人とは思えない華麗な足並みで登っている。風花荘に住んでいる人間に挨拶するのである。車椅子で階段を移動できない秀樹の分まで進也が挨拶する。


「今日は銀川さんしか居ない日じゃ」


 ピンポーーン♪


 徹子は備え付けられたインターホンのボタンを押した。すると、どこにでもあるような音が流れてきた。風花荘は電子機器が少し古くて、無線で受け答えが出来ない鳴らすだけのインターホンであるため、中にいる人が外に出なければいけないのだ。新しい電子機器にすると、どうしても大きなお金が必要なため、現在はアパートの人に説明もした上での保留中である。


「どんな人ですか?」


「簡単に言うじゃと………」


 ガチャっと鍵を開ける音がする。進也は扉が開く前、徹子に挨拶する住民のことを聞いてみた。徐々に開いてくる扉、徹子は進也に分かりやすい言葉を考えていると、扉は全て開かれた。


「ほわああああーーーーーーっ!!」


「筋肉じゃ」


 そこには凄まじい雄叫びをあげながら、上半身裸で素人でも見たら分かる筋肉を身に着けた巨漢な男性が現れた。左手には銀色に輝くダンベルを握りしめており、徹子が一言で現した人間が進也の前に居るのであった。





「すまねえな、今トレーニングの真っ最中だったんだ」


「ほっほっほ、構わんよ。いつもいつもご苦労様じゃ」


「そいつは?」


「引っ越してきたばかりの新しい住民じゃ」


 鉄郎は左手に持っていた銀色のダンベルをテーブルの上に置いて、徹子たちを招き入れた。鉄郎の部屋は、たくさんのトレーニング器具が置かれており、2階の床は大丈夫なのかと心配するぐらいの大きくて重そうな物もある。その努力の結晶として金色に輝くトロフィーや盾、額に入れて飾ってある賞状などがある。鉄郎は白いタオルで汗を拭き、徹子の隣にいる見慣れない少年について質問する。


「銀川鉄郎だ、よろしくな」


「上野進也です、よろしくお願いします」


 鉄郎が上半身裸の上に白のタンクトップを着ているなか、進也は鉄郎の部屋にあったトレーニング器具を眺めていた。徹子に呼ばれて挨拶をする。鉄郎と進也が、がっしりと握手をすると、進也の自分より小さな手に触れた鉄郎の眼の色が変わった。


「お前……、俺と同じか」


「へっ?」


「俺には分かる。その手のマメ跡、並々ならぬ努力をしてきたらしいな」


「あ、ありがとうございます……」


 鉄郎が進也の手を見た。進也の小さな手には鉄郎自身が経験してきた跡が残っていた。進也はノーフェッドを倒すために1年間トレーニングをしてきた。決して他人から褒められるために行ってきたのでは無いが、素直に褒められて思わず素で答えてしまった。


「気分が良いぜ!! うらららららららああああーーーーーーーっ!!」


「おぉっ」


 自身と同じ仲間を見つけてテンションが上がった鉄郎は、己の筋肉を誇示するためにせっかく着た白のタンクトップを自ら引きちぎった。テンションが上がると上半身裸になるのが、鉄郎の癖である。そして、近くにあった少し軽めの棒を頭の上で振り回し始めた。進也と徹子は頭を下げながら鉄郎を見つめている。


「ほっほっほ、流石は風車運送の社員じゃ」


「すごい筋肉ですね、かっこいい」


「ありがとな!! ほわあああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」


「おーーーーっ」


 奏時市へ引っ越してきた時の風車運送トラックに乗っていた運転手の仲間が銀川であり、風花荘の住人だと知った進也。徹子が説明するのを聞きながら、進也は強くなるという意味で関心を持ち始めた。長身で引き締まった肉体を持った男性──銀川鉄郎(ぎんかわ てつろう)の筋肉自慢は進也が帰るまで、しばらく続くのであった。





「世間は意外と狭いものじゃ。進也くんが引っ越しを頼んだ風車運送は奏時市でも一二を争う会社だからのぅ」


「そうですね」


 進也は秀樹がいる部屋に帰ってきた。徹子も一緒に帰っており、世間話をしている。風車運送は、奏時市でも有名な会社であり、就職するには筋肉さえあれば、どんな人間でも雇うという器が広い会社である。進也は徹子の話を聞いていると、いきなり玄関の扉が開いた。


「邪魔するぜ!!」


「銀川さん!?」


「筋肉仲間であるお前の親父さんの顔が見たくなってな。興味があったし車椅子って聞いたから、挨拶に来たぜ」


 何と先ほど進也が挨拶をしてきた銀川がやって来た。いきなり現れて驚く進也をよそに銀川は言葉通り、進也の父親にも興味を持ったのだ。


「筋肉仲間って何だ、進也?」


「ほっほっほ、いつの間にか仲間になっておるのぅ」


 2階へ挨拶に行くことが出来ない車椅子に座っている秀樹は、玄関から聞こえてくる鉄郎の筋肉仲間という言葉に首を傾げ、徹子は微笑ましい光景に笑っている。


「むっ!!」


「んっ!!」


「「出来る……っ!!」」


「何が……じゃ」


 進也と一緒に玄関から部屋に入ってきた鉄郎。そこで目に入ったのは車椅子ながら、男の中の男の目をしている秀樹。どうやら秀樹も同じように感じ取ったらしく向かいあった秀樹と鉄郎、お互いに身体から熱い炎が燃え上がったように見えている。流石の徹子も男同士の共鳴は分からなかった。


「なんか、すみません」


「ここの上腕二等筋が……、ヒラメ筋が……」


「なるほど……。しかし、基礎である腹筋や背筋を……」


 進也は徹子に何故か謝る。男の友情を感じ取って握手する秀樹と鉄郎は、とりあえず仲は良くなった。筋肉トークをしながら鉄郎のトレーニングや仕事の話を聞く内に秀樹が思い付いた。


「さて、今の俺たちに収入は無い。家賃は徹子さんに特別に安くしてもらっているが、食費など必要だ。進也、お前にアルバイトを命じる」


「へっ」


 進也は一瞬、口を大きく開けて止まってしまった。父親は何を言っているんだと、頭が理解して整理するのに時間が掛かった。貯金を削っていく食費、このままでは無くなっていく。お金は、稼がなければ絶対に増えることはないのだ。そして、人間が生活するにはお金は必ず必要である。


「銀川さんのところは、どうじゃ」


「進也、せっかくだから行ってこい」


「人手が多いほうが助かるぜ、午後から南区での仕事だ。頑張ろうな、進也!!」


「皆さん、勝手に決めないでよーーーーっ!!」


 話を聞いていた徹子は鉄郎が働く風車運送を提案してみる。秀樹は知り合いがいるほうが心配が少なくなると考えて同意する。鉄郎も先ほど筋肉仲間になった進也なら、一緒に汗を流しあって働くことが出来ると本能で感じとり、午後から行われる奏時市南区の仕事に進也を連れていくことにした。あれやこれやと決まっていくことに、進也は思わず身体いっぱい使って部屋中に叫ぶのであった。





「ただいまです。おばあちゃん、上野くん」


「お帰りじゃ」


「あっ、お帰りなさい。松下さん」


 午後1時。太陽が西に傾き始めた頃、奏時高校から里美が帰ってきた。今日は最近ノーフェッドが現れたばかりなので、念のため早く下校できるように午前中授業だった。里美は外にいた徹子と進也に帰宅の挨拶をして、進也は朝とは違って何とか自然に挨拶を返すことが出来た。


「気になっていたけど」


「何ですか?」


「松下さんの髪、すごく綺麗だね」


「あ、ありがとうございます。ここの住民の赤松さんって人に、教えてもらいました」


 帰宅の挨拶を終えて、進也は里美の黒髪について褒め始めた。里美の腰まである黒髪ストレートヘアは、綺麗に真っ直ぐ流れ落ちてる。進也の嘘偽りが全く無い純粋な褒め言葉に、顔だけでなく耳まで真っ赤になる里美。

 毎日手入れしているストレートヘアは、風花荘に住んでいる女性モデル、赤松から教わったものであった。親友の理名など女性から褒められる時がある。しかし、男性から褒められるのは初めてであったため、里美は嬉しく感じた。


「おれ、午後から奏時市の南区で、銀川さんのお手伝いに行くんだ」


「南区ですか!! 近くに新しい洋菓子屋さんがオープンしたのが在りますので、わたしも一緒に行っていいですか?」


「里美は、相変わらずシュークリームが好きじゃのぅ」


 進也が南区に行くと聞いて、真っ赤になっていた里美は笑顔になる。洋菓子が好きで、特にシュークリームが大好きである。それを知っている徹子は苦笑する。何故なら昔にシュークリームを買ってこなかっただけで泣いたり、自分で買いに行くなど危なっかしいことがあったからである。こうして、各々準備をして南区に向かうのであった。





「到着〜〜」


「おおっ」


「上野くんは初めてでしたね。ここが南区です」


 西区の風花荘より鉄郎の自動車で約30分。進也と里美を乗せた自動車は住宅街を通り抜けて高速道路を走り、住宅が少なくなって工場が増えてきたところで着いた場所が南区である。南区は山など自然が多い東区までとは言えないが、それなりの自然がある。南を向くと、地平線が見えるほど何もない自然の海が見える。漁業に行く人の漁船も置かれており、そこで釣れる魚は美味しいと評判だ。


「親方、手伝いを1人連れて来たぞ!! 良いよな?」


「よ、よろしくお願いします……!!」


「オウッ、鉄郎の薦めなら歓迎だぜ!!」


 南区で進也が訪れたのは鉄郎が働いている風車運送の支社である。東西南北に設置されている支社は、各区域で地域密着型の人々へのサービスによって優秀な成績を納めているのだ。ちなみに本社は高層ビルが建ち並ぶ有名な北区にある。鉄郎が進也を紹介した人物は、ねじり鉢巻きが似合っている筋肉質な男性で周りからは親方と呼ばれている渡辺(わたなべ)である。白いTシャツを着ており、まさしく工事現場のおっちゃんと勘違いするような見かけだ。


「上野くん、わたしは洋菓子屋さんに行ってきます」


「気をつけてね」


「コレか?」


「ちちち、違います!! お隣の女の子ですっ!!」


 里美は進也に挨拶して、新しく出来た洋菓子屋に行くことにした。今日の服装は、膝まである純白ワンピースの上に桃色カーディガンを着て、細い腰が分かる茶色のベルトを巻いている。進也が里美を見送った後、小指のみを突き上げて「お前の女か?」と聞いてくる渡辺親方に対して、進也は首や両手をぶんぶんと左右に振って否定する。渡辺親方は、初対面でもお似合いだったので、大人として温かく見守ろうと思ったが、ニヤリと笑って突っ込んでいくことにした。


「ほぉ〜、そのわりには顔が真っ赤だぞ」


「うぅっ〜〜」


「親方、そこまでにしてくださいな。からかい過ぎは良くない」


「へいへい」


 渡辺親方のからかいに、お湯でも沸きそうなくらい真っ赤になっている進也。流石にやりすぎだと見て、鉄郎が仲裁に入った。水を差された渡辺親方は、つまらなそうにして会社に入って行った。


「大丈夫か、進也?」


「すみません。何故か自分でも驚くほど、心臓がドキドキしちゃって……」


「まあ、それは置いといて作業するか!!」


「はい!!」


 進也は里美のことを聞かれて、何故か真っ赤になったのが不思議であった。その理由を何となく察した鉄郎であったが、現在は仕事に集中ということで一先ず頭を切り替えて、進也を連れて会社に入る。

 風車運送の支社は2階建てである。入って直ぐは受付があって、会社に来る人間を迎えてる。受付を過ぎると業務用のソファーや机が置かれている。ここでお客様の要望や会社の発展について相談しているのだ。1階の扉の向こう側、右奥はトレーニング室になっており、左奥はロッカーが並んでいる。


「根性あるな!!」


「これでも鍛えています」


「運べ、運べ!!」


 ロッカールームで緑色の作業着に着替え終わった進也は、さっそく現場で働くことになった。同じように作業着を着ている鉄郎に連れてもらって、支社の裏側にある倉庫にやって来た。

 ここで進也は荷物運びを手伝うのだ。段ボール型の荷物と言っても、1人で運べる軽い物から複数人が力を合わせてやっと運べる重い物もある。それらをトラックに載せる作業は時間を経つほど、身体への疲労が出てくる。しかし、進也はノーフェッドとの戦いに備えたトレーニングのおかげで、何とか運んでいる。


「最近の若い者は根性が無いなかで、良い人材を見つけたな、鉄郎!!」


「オウッ、進也とは筋肉仲間だからな!!」


「い、いつの間に……。仲間は嬉しいですけど、筋肉は恥ずかしい……」


「野郎ども、全部載せたら各地へ出発だ!!」


「「「アザーーーーースッ!!」」」


 運び始めて1時間、もはや進也は運ぶだけで精一杯だった。決して鉄郎たちのように、簡単に重い荷物を持ち上げることを続けるのは出来ない。しかし、弱音を吐かないで汗水を流して懸命に働く姿を渡辺親方に気に入られた。鉄郎も進也が褒められたことを自分のように嬉しくなっており、筋肉仲間になったことを自慢をしている。そんな自慢を聞いていた進也は、流石に筋肉は外してほしいと苦笑いしている。そんな仲間たちの笑い声を聞いた渡辺親方の指示のもと、風車運送のトラックの準備が完了するのであった。





「銀川さん、どこに行くのですか?」


「届け先は、南区にある複数の住宅だな。ここからだと、15分ぐらいで簡単に着けるぞ」


 風車運送の支社から、たくさんのトラックが出ていく。その中の1つに運転席に鉄郎が助手席に進也が乗っている。自分が荷物を載せたトラックが走っており、シートベルトを着ける進也はちょっと楽しみになった。周りに車が無くてスピードを上げながら、しばらく走っていると、鉄郎が突然おかしなことを言った。


「何だ、ありゃ。着ぐるみか?」


「えっ?」


 進也たちが乗る風車運送のトラックが走る先に、道の真ん中で何かが立っている。赤褐色の身体に猛牛の頭部、格闘戦に秀でた大きな両腕、その右手には巨大なハンマーが特徴的。鉄郎が着ぐるみと勘違いしたその姿は、進也がよく知っている怪物であった。


「あれは、ノーフェッド!! 銀川さん、避けて!!」


「ブオオオォォォッ!!」


「お、おう!! くっ、危ねぇぇぇっ!!」


 猛牛の怪物バッファロー・ノーフェッドは、腰を落として頭を下げ頭部にある2本の角を向けてトラックに向かって突撃してきた。鉄郎は自身の筋力を使用して、無理やりハンドルを右に切った。バッファローの突撃をギリギリ避けたトラックは、急ブレーキをかけて止まった。周りに車が無くて、別の事故が起こらなかったのは幸いだった。


「だ、大丈夫か、進也……」


「はい、大丈夫です。よっと」


「あれが最近ニュースで報道されている化け物ってやつか。…………っておい進也、危ないぞ!!」


 鉄郎は急ブレーキをかけて身体が反動で響いているなかで、隣に座っていた進也を心配する。その進也は身体を起こしてシートベルトを外している途中だった。そして、鉄郎はノーフェッドについて思い出しているなか、進也が降りているのに気付いて大声で叫ぶ。


「銀川さん、おれは大丈夫です」


「あんな化け物、大丈夫じゃねえ!! こっちに来い、早く逃げるぞ!!」


「アイツが化け物なら、おれは化け物退治の戦士です」


 鉄郎が一緒に逃げると叫ぶなか、バッファロー・ノーフェッドは近づいてくる。進也はアルファベット『E』が表面に描かれているGSチップを取り出した。


『レディ?』


「認証、エターナル!!」


『エクストラ・チップ チェックイン』


 進也はGSチップを左手首に着けてあるGFウォッチに差し込んだ。いつものように、白い身体になって腕が赤く染まり、背中に黒いマントが現れて耳も赤くなって、最後は眼が橙色に発光して、エターナル・フュージョナーに変化したのである。


「マジか……、だが無理するなよ。逃げたい時は逃げていいからな!!」


「……銀川さん。おれはノーフェッド相手に逃げません……行きます!!」


 鉄郎は進也が変化した姿に驚きながらも心配する。それを聞いた進也ことエターナルは、バッファロー・ノーフェッドへ立ち向かって行った。しかし、鉄郎から見たその姿は勇敢に見えるが、危なっかしくも見えるのであった。





「はあぁっ!!」


「お前、何者だ」


「エターナル・フュージョナー!!」


「フュージョナー……? そんな名は知らないな。だが、俺の筋肉が疼くぜ」


 エターナルは地面を蹴り、跳躍しながら赤い右手に力を込めて殴ろうとする。しかし、バッファローが人間の何倍ものある太い筋肉の左手で受け止め、進也の正体を聞いてきた。エターナルが素直に宣言したのを聞いたバッファローには心当たりが無かったが、自慢の筋力を試せると右手に持ったハンマーに力を込めた。


「ブオオオオォォォォォッ!!」


「マジか!?」


 ハンマーの攻撃に気付いたエターナルは掴まれている赤い右手を無理やり離して、後ろに退いて攻撃を避けた。ハンマーは後ろにあったコンクリートの壁を砕いた。バッファローは粉々に散らばった欠片を踏みつけて、こちらに来る。


「力強いな、それなら」


『アイアン チェックイン』


「ブオオオオォォォォォッ!!」


「はぁっ!!」


 エターナルは力の強さに差があると感じ取り、アルファベット『I』が表面に描かれているチップをGFウォッチに差し込んだ。エターナルの身体は銀色に輝き、鉄の能力を身に付けて再び立ち向かう。バッファローは赤褐色のガイアパワーを纏ったハンマーを振り回して、エターナルの左腰に当てようとしたが左手で押さえられた。アイアンの能力のおかげで、お互いの力が互角になった。


「風車運送は俺にとって迷惑だ、邪魔をするな」


「理由が何だろうとノーフェッド、お前たちはおれが倒す!!」


 バッファロー・ノーフェッドは風車運送について話すが、エターナルはノーフェッドを倒すことしか考えていない。ノーフェッドのハンマーが振り落とされ、フュージョナーの赤い腕の連撃が交わっていく。復讐心を持っている進也が徐々に押し始めている。





「苦戦しているね。そんなバッファローくんには、助っ人を用意したよ」


 地上より風が強く吹き荒れるビルの屋上。そこにはエターナルとバッファローが戦っているのを高みの見物しているのは藍色の怪物キー・ノーフェッドがいた。

 フュージョナーに少し押されぎみなバッファローに対して、困った顔をしているように見える。キー・ノーフェッドは、アルファベット『JT』と表面に描かれたチップを取り出した。それをエターナルが使用するGFウォッチに似た腕時計に差し込んだ。


『ジャンク・トルーパー』


「本日のサービス、レッツゴー♪」


 キー・ノーフェッドの周りに、廃棄物など錆びた歯車やネジが身体中で回っている人型、銅色の怪物ジャンク・トルーパーが5人出現する。この怪物たちは少量のガイアパワーで造り上げた機械兵士である。そして、ビルの屋上から飛び降りた。


「何だ、コイツら……!?」


「フュージョナー コワセ コワセ コワセ」


「どうやら、こちらの味方みたいだな。行くぞ、フュージョナーとやら」


 空から突然現れたジャンク・トルーパーたちに、エターナルは戸惑う。フュージョナーに敵対していることから、バッファローは味方であると確信している。ジャンク・トルーパーたちは、身体にある錆びた歯車やネジを自ら外して、ガイアパワーで組み換えて銅色の剣にした。しかし、それが能力であることをエターナルは知らない。


「がんばってね、バッファローくん」


 バッファローを応援してビルの屋上にいる。キー・ノーフェッドは誰にも気付かれずに去って行った。





「コワセ コワセ コワセ」


「くっ……」


「ブオオオオォォォォッ!!」


「危な!?」


 機械兵士ジャンク・トルーパーたちは銅色の剣で斬りかかる。エターナルが避けると、代わりに道路にある植木を斬った。避けた先にはバッファローの赤褐色ガイアパワーを纏ったハンマーが迫っており、アイアンの能力で銀色に変化したマントで防ぐ。怪物たちの連携攻撃に、エターナルは防戦一方である。


「厄介だ……。新しいチップ、使ってみるか」


『ダガー チェックイン』


 武器を持っていないエターナルは、先日手に入れたアルファベット『D』が表面に描かれているチップをGFウォッチに差し込んだ。すると、右手に傭兵が使用するような小型ながらも鋭い剣先がある短剣が現れ、持ち手の黒いグリップを握りしめた。今までの素手から武器による攻撃手段で構えた。


「ふっ、はぁ!!」


「ガガガガッ!?」


「ブオオォォッ!?」


 ダガーの能力は防戦一方だったエターナルにとって幸福である。アイアンの能力を身に付けたまま、ジャンク・トルーパーたちを斬り始めて反撃するのであった。





「〜〜〜♪♪」


「ありがとうございましたーー」


 進也ことエターナルが戦っている頃、里美は新しく開店した洋菓子店『クイーン』で大好物のシュークリームを買い物にしてきて上機嫌である。右手には持ってきたシュークリームが入った白い鞄を持っている。


「あれ? ……あっ、良かったです」


 里美が右手に持っていた白い鞄が無い。どうやらシュークリームを買って上の空だったから落としていた。しかし、すぐ歩いてきた後ろだったので簡単に発見した。何とか見つけてホッとして取ろうとした里美だが、次の瞬間恐怖のドン底に落とされた。


「コワセ コワセ コワセ」


「きゃああああーーーーーーっ!!」


 目の前に進也が戦っているはずの機械兵士ジャンク・トルーパーがいた。何も知らない里美は、突然現れた怪物に恐怖を感じて悲鳴をあげた。





「松下さん!?」


『アイアン チェックアウト』


「コワセ コワセ コワセ」


「ぐわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 居ないはずの里美に驚く進也ことエターナル。実はノーフェッドたちと戦っている間に、銀川と一緒にいた場所からかなり移動していたのだ。そして、里美が行っていた洋菓子店の近くまで来たのである。里美の危機に、エターナルは速さを上げるためにパワー重視のアイアンを解除して庇った。ジャンク・トルーパーによる銅色の剣が黒いマントを貫き、背中に痛みが走った。


「上野くん!!」


「いいから、早く逃げて!!」


「で、でも……」


 進也の鈍い悲鳴を聞いてから、自分が助かったことを知った里美。進也が逃げるように叫ぶが、目の前には落とした白い鞄がある。中には大切な物が入っているため、何とか拾いたいのだ。里美は、うつ伏せになりながらも必死に手を伸ばす。


「おりゃあああ!!」


「ブオオオォォォォッ」


「あ………」


 エターナルが立ち上がり、ジャンク・トルーパーたちを蹴り飛ばす。そこに好機と考えたバッファローが突進してきたのを何とか受け止めながら勢いを利用して投げ飛ばした。しかし、突進してきたバッファローによって里美の白い鞄が踏み潰された。買ってきたシュークリームや持ってきた他の物が滅茶苦茶になった。


「早く逃げろ!!」


「このままでは風車運送を潰すガイアパワーとやらが無くなるな。……今のうちだ」


 バッファロー・ノーフェッドはエターナルから与えられていた痛みや、先ほどからハンマーに使用して身体のガイアパワーが足りないことを考え、機械兵士ジャンク・トルーパーたちに任せて、この場を去っていった。


「くそっ、邪魔だぁぁぁぁ!!」


『オーバーライド』


 バッファローが去って行くのを目撃したエターナルは、ジャンク・トルーパーたちを倒すために必殺技を発動するGFウォッチのボタンを押した。無機質の電子音声が鳴り響き、右手に握りしめてる短剣が灰色に輝き出す。


「ブラスターカット!!」


「ガガガガガガガガガガガガ!?」


「せりゃああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 エターナルが灰色に輝いた短剣を1人ずつ斬り裂いていき、機械兵士ジャンク・トルーパーたちは身体を保てなくなって、鈍い機械音を鳴らしながら消滅した。しかし、肝心のバッファロー・ノーフェッドには逃げられた。


「くそぉぉっ!!」


『エクストラ・チップ チェックアウト』


「上野くん……その……」


「逃がしちゃったじゃないか!! 何で早く逃げなかったの!!」


 悔しがるエターナルはGSチップを抜き取り、フュージョナーの変化を解除して人間の姿に戻った。そのまま進也は戸惑っている里美に近づいて怒り始めた。里美が逃げていれば、自分は勝てていたと思っている。


「わたし……その……」


「松下さんなんか、もう知らない!!」


「上野くん……」


 里美が現れたせいで、バッファロー・ノーフェッドを逃がしたのは事実だ。里美は進也がノーフェッドと戦うことを知っているから罪悪感を感じて、何故早く逃げなかった理由を言い出したくても言えない。そんな里美の気持ちを考えていない、もしくは気付けない進也は里美の言い分を聞かないまま怒るのであった。

再び現れたブラック進ちゃん。果たして、里美ちゃんと進也くんは仲直り出来るのか。


後半に続く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ