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第02話『風花荘にようこそ』11/4修正

「はじめまして、上野進也です。17歳です」


「こちらこそ、はじめまして、松下里美です。わたしも17歳です」


 午後6時。すっかり日が傾いて山に隠れかけて夜になろうとしている奏時市。先ほどのノーフェッドという人間が変化した怪人の事件、しかも里美の通う男子生徒によるものは多くの人々に恐怖を与えた。しかし、ここにいる少年──上野進也によって事件は解決。助けられた少女──松下里美。まさかの再会であった。

 進也と里美は、お互い頭を下げて挨拶している。丁寧にしているあたり、お互いの家族の子育てが良いことを示している。


「松下さん、って呼んでいいですか?」


「はい。わたしは上野くん、って呼びますね」


「うん、良いよ。よろしくね、松下さん」


 さっそく呼び名を決める進也と里美。里美にとっては、助けられたこともあって進也には好印象を持っている。しかし、それだけではなくて何となくだが、今まで会ってきた男の子と違って話しやすいのだ。会話など控えめな性格だが、進也に対しては自分から話せている。よく分からないが、ちょっとだけ嬉しい。


「まさか、引っ越してきた場所が松下さんの住んでいるアパートとは思わなかった」


「ここは、おばあちゃんが大家をしています。わたしの実家は奏時高校の場所から少し遠いので、おばあちゃんと一緒にアパートで生活しています」


「へえ〜、良いおばあちゃんだね」


 里美と同様に、話しやすいと感じていたのは進也も同じであった。母親を失った1年前の出来事『ロストタイム』から、ずっと修行してきた。母親を消した怪人──漆黒の怪物と呼んでいる進也は、そいつから母親を取り戻す復讐心を持ちながら生きている。

 しかし、何故か里美と会話していると落ち着ける。その気持ちに、少しだけ疑問を感じる進也であった。


「いきなり仲良くなりましたな」


「ほっほっほ、2人ともどこか似ているしのぅ」


 風花荘の玄関で進也と里美の様子を見ている2人の人間。車椅子に乗っている進也の父親──秀樹は隣にいる老人と会話していた。老人といっても、よぼよぼな身体や精神ではなく、しゃきしゃきした雰囲気を持っているのは里美の祖母──徹子である。

 秀樹と徹子は、お互いの子どもたちの仲の良さに気分が良かった。進也たちと違って、年を重ねている2人だからこそ分かる。2人が感じること、それは進也と里美の雰囲気が似ているのだ。


「上野くん。引っ越して来たってことは、奏時高校に転校ですか?」


「ん? おれは高校には通ってないよ。奏時高校にも通う気は無いから」


「えっ?」


 何を言っているの? と言わんばかりの進也の返事に、里美は戸惑ってしまう。確かに高校は義務教育ではないため、通わない人間がいてもおかしくはない。しかし、里美は印象的に真面目そうな進也が通っていないと聞いて不思議であった。

 進也は進也で質問の意味が理解していない。GSチップを配る黒幕、すなわち漆黒の怪物を倒すために奏時市にやって来たのだ。高校なんかに行っている暇が無い。


「きっと、事情があるのじゃ。良かったら教えてほしいのぅ」


 里美が戸惑い、進也が首を傾げる様子を察した徹子がフォローした。2人は出会ったばっかりでお互いのことを何も知らない。ならば、徹子は話し合うのが一番であると考える。何事もコミュニケーションが大切であると、いくつもの年を重ねた徹子の気配りだ。


「親父……」


「里美ちゃんを襲った相手や、進也が変化する姿、そして奏時市の状況を教えておいたほうが良いだろうな」


 進也は徹子の言葉に不安を感じる。敵はどこにいるか分からない。ノーフェッドは人間が変化した怪物なので、父親以外の人間を信用しにくいのだ。秀樹はそんな進也の考えを読みとる。息子が里美たちを信用できるように、自分がかけ橋になれば良い。そして、これからお世話になる里美たちに、ノーフェッドの危険を教えておくことが大切と考えた。


「上野さんらの部屋は、まだ荷物だらけ。ワシらの部屋に来るのじゃ」


「上野くん、どうぞ」


「お邪魔します」


 徹子の案内で風花荘101号室に移動する。外見からは分からないが、意外と部屋内は広々している。徹子いわく大家の権利も含まれており、他の部屋と比べたら広いほうである。進也たちは靴を脱いで部屋に入ってみる。部屋の奥は里美の部屋で、勉強机やベッドが置かれている。なかには部屋着などもあって、里美は見られると恥ずかしいので、直ぐに部屋の扉を閉めた。


「お茶じゃ」


「ありがとうございます」


「改めて自己紹介しよう、進也の父親の上野秀樹だ。よろしく、松下ちゃん」


「よろしくお願いします、上野さん」


 秀樹は里美に挨拶する。今、4人がいるのは客間の部屋である。畳がひかれて、和風の雰囲気が漂っている。大家の部屋は、いくつもの部屋があって住民と話し合うのにも使用されている。

 お茶を用意した徹子が進也を里美の部屋に入れようとして、恥ずかしがる2人をからかったのは、お約束であった。


「上野くん、あの怪物は何だったのですか?」


「奴らはノーフェッド。GSチップで人間が変化する怪物だよ」


 里美が一番初めに知りたかったこと、それはノーフェッドについてである。突然、奏時高校に現れて人々を襲った記憶が蘇る。里美は思い出して身体が震えていた。進也は里美の様子に気付くことが出来ないまま、怪人の説明をする。


「……人間が……!?」


「ノーフェッドを動かしている原動力は、人間の欲望に喜怒哀楽の感情を基本にして、そこに地球の力を混ぜて活動することが出来ます」


 驚く里美を見て、秀樹はノーフェッドについて説明し始めた。例をあげると、ダガー・ノーフェッドになった天野の場合は、自分を冷ややかな目で見る周りの人間を己で斬りたいという想いが、地球の力と共鳴したのである。


「地球の力じゃと?」


「私たちはガイアパワーと呼んでいます。偶然、発見されて未知なるエネルギーです。そのガイアパワーを秘めた小型電子機器。それがノーフェッドになる物──ガイア・シンクロ・チップ、通称GSチップです」


 年を重ねた徹子ですら疑うほど、現実離れした会話が続けられる。徹子が入れたお茶を飲んで、秀樹はノーフェッドに変化する仕組みについて説明する。未知なるエネルギー、ガイアパワーが人間を変化させるのだ。確かに現代技術で人間を怪物に変化させるなど、与太話にも程がある。


「おれもGSチップを使用して戦っているよ」


「上野くんも……そのノーフェッド、みたいに……なっちゃうのですか?」


「……!!」


 進也もGSチップを使用して戦っていることを聞いた里美の何気ない質問に空気が変わった。里美はフュージョナーとノーフェッドについては知らない。戦っていた姿もノーフェッドだと考えた。すると、優しい表情だった進也の顔が変わった。


「……はぁ!? あんな奴らと一緒にしないで!! おれはフュージョナー、奴らを潰すために……!!」


「ひゃあぁ……」


「進也、落ち着け!! 里美ちゃんが怖がっているぞ!! 今のお前はフュージョナーの名を汚している……!!」


 進也が机を叩いたことで、お茶が入ったコップがこぼれる。ノーフェッドのことになると、感情が抑えきれなくなるのだ。唯一、癒し系の進也が怒ってしまう悪い点で、里美が怖がってしまった。息子を注意する秀樹が、何とか進也を落ち着かせる。


「はぁ、はぁ、はぁ……、親父ごめんなさい……」


「謝るなら、俺じゃない。松下ちゃんだ」


「松下さん……。ごめん、なさい……」


「上野くん……。わたしのほうこそ、変なこと言って……ごめんなさい……」


 進也は父親の秀樹に謝るが、秀樹は里美に謝罪をするように話す。怖がらせたのは自分であると気づいた進也は、里美に頭を下げる。里美も自分の言葉で進也を怒らせたと気づいており、頭を下げる。どちらも素直に謝っている似た者同士の2人を見ながら、こぼれたお茶をタオルで拭く徹子。


「秀樹さん、どっちも謝ったのじゃ。話題を変えて、上野くんが戦う姿について教えてほしいのぅ」


「ありがとうございます、徹子さん。進也の姿はフュージョナーと言います。ノーフェッドと違う点は、安全にGSチップを使用することが出来ます」


「ノーフェッド……フュージョナー……かのぅ、長く生きてきたが不思議な出来事じゃ」


 徹子は秀樹に新しい話題を進める。里美が誤解した進也の姿フュージョナーについて説明を求めた。秀樹はGSチップの使用方法が安全であることを伝える。GSチップを直接、人体と接触する方法のノーフェッドは、ガイアパワーを制御することは困難である。新しい言葉や出来事に徹子は、思わず自身の生きてきた時間を思い出すのであった。


「ノーフェッドに対抗するため、そして安全にGSチップを使用するために私が開発したのが、このGFウォッチです。進也、見せてやれ」


「分かった。ついでに相棒も紹介するね」


『フェニックス チェックイン』


 秀樹が開発したGFウォッチ、正式名称はガイア・フュージョン・ウォッチである。1年前の出来事『ロストタイム』で、漆黒の怪物も似たような腕時計をしていたが、進也の腕時計は秀樹特製である。

 進也は、アルファベット『P』の文字が表面に描かれているGSチップを、左手首に着けているGFウォッチに差し込んだ。


「キュイ〜♪」


「わあっ」


「ほぅ、ありがたや、ありがたや」


 金色の瞳に赤い身体を覆う大きな翼がある不死鳥のキューが進也の左肩に現れる。キューにとって、左肩は座り心地が良いらしいのだ。里美は先ほど遠くから見ていたが、実際に間近で行われると驚き、徹子は何故か手を合わせて拝んでいる。宗教かなんかと勘違いしているのだ。


「キュイ♪」


「ひゃっ、くすぐったいです」


「珍しいな、進也以外の人間にフェニックスが近寄るとは」


 進也に呼ばれて嬉しく自由に飛び回っていたキューだが、里美のほうに飛んでいき頬に触れたり、黒髪の頭で座り込むなど好き勝手に遊んでいる。

 その様子を見て秀樹は珍しそうにしていた。キューは人間を選ぶことがあって、どんなに優しそうに見える人間でも心が汚れていたら、決して自分から近づいていかないのだ。つまり、里美はキューに認められたことになる。


「かわいいですね。この子の名前は何ですか?」


「キューだよ」


「キューちゃん、よろしくね」


「キュ〜イ〜♪」


 ちょっぴり暗くなる雰囲気があったが、キューによって和むのであった。





「固い話は、ここまでにして夕御飯でもどうじゃ? 食材なども買っておらんのじゃろ」


「すみません、お世話になります」


「余り物ですけど、良かったら食べてください」


 色んな会話をしていると、すっかり夕御飯を食事する時間帯になっていた。徹子は秀樹たちを誘って、一緒に食べるように促した。進也と秀樹は、さすがに食事に困っていたので、ありがたく夕御飯をいただくことにする。里美は、おかずを電子レンジで温めたりするなど、てきぱきと動くのであった。


「「「「いただきます」」」」


「ところで進也、相手のGSチップはどうした?」


「……………あーーーーーーっ!!」


 きちんと手を合わせて食事する4人。余り物だと言うが、美味しく感じる。しばらくして、秀樹が気になっていた天野のGSチップについて進也に聞いてみると、進也は食事中にも関わらず、思わず声を大きくして叫んでしまった。地元の警察が来たため、GSチップの回収が出来なかった。


「GSチップの存在を知らないだろうが、現場に残しているのは警察が回収したかもな」


「事情を説明したら分かってくれますよ」


「ワシの知り合いにも連絡しておくからのぅ」


 落ち込む進也に、秀樹が冷静に警察の動きを推理する。里美は進也を励まして、徹子は警察にいる知り合いに連絡してくれる。みんな、自分のために動いてくれたことに感謝した進也は決意する。


「皆さん、ありがとうございます。よし決めた、明日に行こう!!」


「その意気じゃ」


「ところで進也、警察署の場所を知っているのか?」


「あっ……」


 進也は握りこぶしを作り決意して、徹子がご飯が入ったままの茶碗を持ち上げて応援する。しかし、またもや秀樹の最もな意見で進也は口を開けたまま停止した。自分たちは引っ越してきたばっかり、今日の電気バイクで奏時市を走り回っていたが、ほんの少ししか記憶に無かった。


「上野くん、引っ越して来たばっかりですから、わたしが案内しますね」


「……いいの?」


「もちろんです!!」


「よ、よろしくお願いします…」


 再び落ち込む進也へ、里美が声をかける。遠慮がちな進也に対して、里美は任さてくださいと胸を張る勢いだ。進也が里美にお礼を言って、すっかり話し込んでいる間に夕御飯が終わって「ごちそうさま」と手を合わせて食事を終えるのであった。


「進也ーー、ご馳走になったから食器ぐらい洗っとけよーー」


「親父だって、ご馳走になったくせに」


「手伝いたい気持ちはあるが、車椅子だと届かないんだよ」


「はーーーいっ、分かった」


 進也は食べ終わった食器を台所へ持っていき片付けていると、居間で徹子と会話している秀樹から声をかけられた。何で自分だけと文句をちょっぴり言う進也に、秀樹は車椅子という権力を使用して面白そうに笑っている。足が動かしにくい不自由な身体なのに笑顔な話し方を聞いて、進也はしぶしぶ食器を洗うことにした。


「ふふっ、お父さんと仲良しですね。上野くん、わたしも手伝います」


「いいよ、ご馳走になったから」


「2人で洗ったほうが早いですよ」


「あ、ありがとう……」


 進也が食器を洗おうとスポンジに洗剤を付けていると、隣に里美がやって来た。遠慮がちな進也に対して、里美は効率的という正論を加えて手伝っていく。里美にお礼を言った進也は2人で食器を洗う。居間からチラッと秀樹と徹子が見る限り、癒し系仲良しカップルにしか見えない微笑ましい光景は、2人には内緒である。





「ここまでだ」


「黙秘を続けても意味は無いからな」


「…………………」


 同時刻、狭い部屋でガタイの良い男性たちが、椅子に座っている少年を尋問していた。しかし、少年は俯いて黙り続けており、今日は駄目だなと諦めた警察官たちは去って行った。その少年は、ノーフェッドに変化していた天野だ。天野はエターナルに倒されて気絶した後、警察署で目覚めた。身体など怪我がないため、そのまま取調室に連行されたのであった。


「入れ」


「…………………」


 ずっと俯いて黙秘を続けている天野を牢屋に入れる警察官。きちんと鍵を掛けて去って行った。そして誰も居なくなったのを確認した天野は、今までの苛立ちや鬱憤(うっぷん)を吐き出すように天井に向かって叫んだ。


「ふざけんじゃねぇよぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!! 何で俺が捕まっているんだよ、全然強くねぇじゃねぇか!! あの野郎、今度会ったら斬りつけてやる……」


「それって、ボクのこと?」


「!!」


 叫び続けるなかで、いきなり声が聞こえてきた。天野が忘れはしないGSチップをくれた怪物の声だ。その声の持ち主は、関係者以外は誰も入ることが出来ない入り口の扉から普通に入ってきたのだ。少し前に見た記憶通り、藍色のプレートが全身に刺さっていて、エターナルが使用していたGFウォッチに似た腕時計をしている。


「おめぇは、あの時の!? よくも、ノコノコと来やがったな!!」


「ボクは、ただのノーフェッドだって。これ、きみのチップでしょう?」


 警察官が回収したはずの天野のGSチップを何故か藍色の怪物ことキー・ノーフェッドが持っていた。アルファベット『D』の文字が表面に浮かんでいるGSチップを、キー・ノーフェッドは牢屋にいる天野に渡した。何故持っていたのか天野はどうでも良かった。


「おぉっ、ありがてえ。だが、あんなヤツがいるなんて聞いてねえぞ!! このチップも、アイツには全く効かなかったぜ!!」


「フュージョナーね。あれはボクも予想外だったよ。分かった、分かったよ、お詫びにサービス。きみのチップの錠を外してあげる」


 問題は、自身を邪魔をしたエターナル・フュージョナーだ。文句を言う天野だが、キー・ノーフェッドも流石に予想外だったらしく、簡単に謝っている。文句を聞くのに飽きてきたのか、鍵型の銃を取り出して天野に向けた。


「っ……!! 何の真似だ……」


「特別サービス♪」


 銃を向けられて流石に警戒する天野。しかし、キー・ノーフェッドはそんな天野の気持ちも考えずに引き金を引いた。ノーフェッドという怪物の顔の下で、恐らく笑いながらパンッ、パンッと天野の身体に鍵を撃ちこんだ。


「あん? 痛くねぇ、何だ……!? それどころか力が溢れてきやがる!!」


「またね」


「ウオオオォォォーーーーーーーーッ!!」


 痛みが襲ってくると考えていた天野だが、全く痛みは来なかった。むしろ、身体の奥から凄まじいパワーを感じている。不気味に笑う天野を見て満足したのか、キー・ノーフェッドは既に去っていた。天野の身体から溢れる灰色のガイアパワーが、夜の警察署の一部の牢屋という部屋で満たされるのであった。





「ここが警察か」


「尋ねてみましょう」


 翌朝、進也は里美の案内で奏時市の警察署に来ていた。場所は風花荘から少し離れており、電気バイクに2人乗りで行くことにした。何故か風花荘から送り出される時、秀樹と徹子がニヤニヤした表情をしたまま、手を振っていたのは分からないが、今は関係ないかと頭をぶるぶる振る進也。そんな進也を首を傾けて、頭にクエスチョンマークを浮かべながら歩く里美。ちなみに警察官が少し苦手な進也は、里美の後ろで歩いている。


「こちらです」


 事前に徹子から聞いていた男性の警察官は2人を案内する。里美は奏時高校の制服で来ており、襲われた際に私物を落としてしまったという、秀樹が考えてくれたアイデアだ。これなら、怪しまれることもなくてGSチップを回収できると進也と里美は思っていた。


「無い……」


「無いですね……」


 奏時高校怪物事件と看板に書かれた部屋へ案内されて、進也と里美は現場に残っていた私物を探し始める。進也は元々知っており、里美は昨夜に見たので大体は分かる。1つ1つ丁寧に見て回るが、なかなか見つからない。


「現場に残っていたのは、これだけです。ただ、1つだけ新人警察官が紛失しまらしいのです。小さなチップみたいな物でして、必死に探させています」


「それだ!!」


 男性警察官が何気なく話した言葉の中に、自分たちが探していたGSチップの情報を手に入れた。詳しい事情は話せないが、その新人警察官の元に案内してくれることになった。





「今日は吐いてもらうぞ、お前さんが襲った理由。そして、あれは何なんだ」


「ノ……ェッド……」


「は!?」


「ノーフェッド!!」


「どわぁ!?」


 進也と里美が新人警察官の元に向かっているころ、天野は再び取調室で尋問されていた。2人の警察官が昨日と同じように質問しようとしたところ、天野は左手に持っていたGSチップを使用した。昨日の余った怒りをぶつけるように警察官を斬りつけて天野は脱出した。





「中居君」


「はっ、課長!! すみません、見つかっておりません」


 青い帽子を被り敬礼をした新人警察官──中居退牙(なかい たいが)は、進也たちとは少しだけ年上な見た目で少年というより青年だ。髪型は短髪で耳の周りはバリカンを使用した後があるなど、短髪にこだわりがあるようである。この警察官がGSチップを紛失したらしく、さっそく進也は無くした場所などを尋ねようとした瞬間、事件は起こった。


「化け物だーーーーーーーっ!!」


 取調室から脱出できた警察官が、近くにあった壁に取り付けてある非常ベルを押して鳴らした。警察署内でジリジリと鳴り響く。この緊急時に、色んな部屋から人々が逃げて行くなか、中居警察官だけは周りの人々とは違う対応を取った。


「オレに任せろ!!」


「よせ、中居君!!」


「ウオオォォォォッ!!」


「なぁっ!!」


 進也と里美は、案内してくれた警察官と共に警察署から抜け出そうとしていた。白い煙のなか、通路のど真ん中で拳銃を右手に構えている中居警察官の目に映ったのは、人間を超えた姿である灰色の怪物ダガー・ノーフェッドであった。


「化け物め、これでもくらえ!!」


「………ァン?」


 一瞬だけ怖じ気づいた中居警察官だったが、持ち前の正義感を燃やしてダガー・ノーフェッドに向かって銃弾を撃つ。しかし、その熱い気持ちとは裏腹に、ノーフェッドの身体には全く傷がついていない。すると、進也の携帯電話が鳴り響いた。


《進也、ノーフェッドの反応だ。場所は……》


「親父、目の前にいるよ。今から倒すから」


《分かった、油断するなよ》


 進也は秀樹と簡単に電話で会話した後、通話を終えてポケットに直す。GSチップを取り出して、里美に声をかける。


「上野くん!!」


「任せて。松下さんは、おれの側からなるべく離れないでね。とにかく奴をここから離す。その後は警察官の皆さんと一緒に居てね」


「はい、気をつけてくださいね」


「あ、ありがとう……」


 進也がGFウォッチを構えて戦闘態勢する。里美にこれから行うことを伝えておく。進也を心配する里美は、気遣うぐらいしか出来ないので声をかける。しかし、進也は父親以外から心配されるなど久しくなかったので、思わず素で答えてしまった。進也の言葉に満足した里美は、中居警察官たちと一緒に集まる。


『レディ?』


「認証、エターナル!!」


『エクストラ・チップ チェックイン』


 進也はアルファベット『E』の文字が表面に描かれているGSチップをGFウォッチに差し込んで、エターナル・フュージョナーに変化した。橙色の眼に白い身体、赤い拳で黒いマントを整える。


「何だ、あれは!?」


「味方です。それだけは分かっているので信じてください!!」


 中居警察官たちはエターナル・フュージョナーになった進也に対して驚きや警戒態度をするが、里美が簡単に事情を理解してもらおうと必死に話している。進也の知らないところで、サポートする里美であった。





「てめぇ、また現れやがったな!!」


「そっちこそ、またノーフェッドに変化したのか」


「フン、昨日とは一味も二味も違うぜ」


 天野ことダガー・ノーフェッドは、昨日敗北した原因のエターナルを見つめた。進也ことエターナルが同じように挑発するなか、灰色の身体であるダガー・ノーフェッドの両腕がダガーに変化して、さらに両足が先端の鋭い棘が現れた。


「これは覚醒か……!? それとも……」


「今回は、てめぇの相手をする気はねえ!! 昨日、生き残った奏時高校の人間を一人残らず斬ってやるぜ」


「あっ」


 エターナルが目の前で起こった現象を考えている隙に、ダガー・ノーフェッドは警察署を飛び出して、街に向かって走り出した。昨日とは違って、足の棘がスパイクの代わりをしており、スピードがある。エターナルは電気バイク『エターナライザー』に乗りこみ追いかけた。


「やあぁぁっ!!」


「グゥッ!?」


 車が通っている道路を平然と走っていくノーフェッド。突然目の前に現れた灰色の怪物に対向車などが、ブレーキをかけてギリギリで止まるなか、エターナルは間を通って切り抜ける。そして、対向車などが来ないタイミングを伺い、ノーフェッドに追い付き真正面に回り込む。素早くハンドルを動かしてエンジン全開で近くにあった広い空き地まで、ノーフェッドをぶっ飛ばした。


「全身武器か、それならこれだ」


『アイアン チェックイン』


 バイクから降りたエターナルは、アルファベット『I』の文字が表面に描かれているGSチップをGFウォッチに差し込んだ。アイアンは身体を鉄のように硬く出来、白い身体が銀色に輝いている。速さは下がるが、攻撃と防御を上げる1対1のタイマン専用のチップだ。


「らぁ、らぁ、おりゃあぁぁ!!」


「ムグ、ブルゥ、ガァッ!?」


 ダガー・ノーフェッドは何とか態勢を直して、奏時高校に行く前に、目の前にいる邪魔者エターナルを倒すことを決めた。何度も両手のナイフを斬りつけるが、アイアンの能力を身につけたエターナルの身体に弾かれるばかりだ。エターナルは、銀色に輝く拳をがら空きになったお腹に殴りつける。一つ一つが重い一撃にノーフェッドは膝をついた。


「こんなところで……、また負けてたまるかぁ!! な、何だ、身体が、ウオオォォァァァァァーーーーー!?」


「うわあああぁぁっ!?」


「ヴヴヴヴゥゥ……ヴヴォォォォオォォォォ!!」


 天野は再び敗北しようとしていた。また警察官が自分を見下す、奏時高校の生徒や先生が冷たい視線を浴びさせる、誰も自分を見てくれない、天野の思考は負の感情に支配していく。その思考にGSチップに宿るガイアパワーが反応して身体が灰色に輝きだした。その波動が外に出ていき、直撃したエターナルは後ろに弾き飛ばされた。受け身に失敗して、うつ伏せで倒れ何とか顔だけを見上げると、ダガー・巨大ノーフェッドに変化していた。


『アイアン チェックアウト』


「……巨大化!? 一体どうなっているんだ……って電話? もしもし、親父?」


《進也、ガイアパワーの暴走を感知した。アレの使用を許可する》


 アイアンのGSチップが強制解除するほどのガイアパワーは、先ほどの人間より少し大きい身長だったノーフェッドに対して、今のノーフェッドはビル10階の高さにまである巨大さだ。両手のナイフも、ビルなど一振りで簡単に真っ二つに出来る大きさで、流石の進也も戸惑っている。すると、秀樹からの電話が鳴り通話して、目の前の現象がガイアパワーの暴走であると説明を聞いて、とっておきの許可を得た。


「了解。ありがとう、親父。キュー、出番だよ」


《気をつけてな》


『フェニックス チェックイン』


 心配する秀樹との通話を終えたエターナルは、停めてあった電気バイク『エターナライザー』に乗り込み、フェニックスのGSチップを差し込んだ。


「人機合体」


「キュ〜〜イ〜〜っ!!」


 進也とキューの声に合わせて、電気バイクが左右に分かれる。バイクは不死鳥のような赤い鳥型になっていき、エターナルの背中に張り付く。黒いマントは消えて、白い両腕両足に赤い輪が嵌め込まれ、エターナルの頭に赤い鳥の顔を被って完了。これぞエターナライザー人機合体である。


「行くよ、キュー!!」


「キュイ!!」


 閉じた一対の赤い翼が背中に現れて、エターナルの意志に反応して赤い翼が広がる。地面を3つの爪がある両足で蹴りあげ飛翔する。不死鳥のキューもやる気満々で、ガイアパワーが身体中に溢れ出して暴れ始めたダガー・巨大ノーフェッドの顔へ真正面に向かっていく。


「ヴヴヴヴァァァァ……!!」


「うわっ!!」


 飛翔しているエターナルに気付いたダガー・巨大ノーフェッドは右手の鋭い刃を振り下ろす。ギリギリまで引き付けて避けるが、左手の鋭い刃が横から迫り来る。エターナルは、赤い翼で前方に加速して攻撃範囲から外れた。目の前にはノーフェッドの野蛮な顔がある。


「ファイヤー!!」


「キュイ!!」


 エターナル・フェニックス形態は、頭の上にある赤い鳥頭の口から灼熱の炎をノーフェッドの眼に向かって一直線に吹いた。ダガー・巨大ノーフェッドは左眼に火傷を負うなか、エターナルは赤い翼を動かして右眼にも炎を放った。眼の見えないノーフェッドの巨大な身体を、足元から両手の爪を使用して円を描いて斬りさきながら上昇していく。端から見ると、赤い竜巻がノーフェッドを囲いこんでいるようだ。


「さあ、お前に罰を与えよう」


『オーバーライド』


「ブラスターヒートブレイク!!」


 エターナルは、上昇し続けて巨大ノーフェッドより遥か上空で停止する。GFウォッチの赤いボタンを押して、必殺技の電子音声が鳴り響く。空中で加速して、本物の鳥のような速度で下降して突撃する。不死鳥を模した赤い炎を纏いながら、ダガー・巨大ノーフェッドの顔面に向かって両足蹴りを叩き込んだ。


「やあああああああああぁぁっ!!」


「グォォォォ……ォォォォーーッ!!」


『エクストラ・チップ チェックアウト』


 エターナル・フェニックス形態の必殺技が直撃したダガー・巨大ノーフェッドは、膨大な痛みにガイアパワーで造られた身体が耐えきれず、悲鳴をあげて爆発した。爆発の中から出てきた電気バイク『エターナライザー』に戻ったバイクと、フュージョナーから人間に戻った進也が着地した。


「アルファベット『D』ダガーか。26まで、まだまだか」


「こ…の、正義の味方……気取りが……」


「おれは、お前たちノーフェッドに復讐するために戦っているのだから、正義とは程遠いよ」


「……ちっ…………」


 バイクから降りた進也は、天野が使用していたGSチップを拾う。服や顔が傷だらけで倒れこみ、進也を見上げて睨む天野。負け惜しみを言ってみたが、進也は否定した。何も考えておらず、ただ救うだけの善人かと思っていたが、どちらかというと自分に似たタイプだったことに満足したのか、天野は心地よく気絶した。巨大ダガー・ノーフェッドを撃破して、今度こそGSチップの回収に成功するのであった。





「警察官さんたちも協力してくれるそうです。特に中居さんがすごかったですね」


「はぁ…、協力は嬉しいけど。警察官は、正義感たっぷりで苦手なんだよ……」


 風花荘に帰ってきた進也と里美は、ノーフェッドの後片付けを警察に任せていた。天野は素直に自供しており、唯一GSチップを貰った記憶が無い以外は全て認めているそうだ。ちなみに中居警察官とは、進也が苦手とする正義感の塊で、フュージョナーについて聞きにきた時は全力で逃げたくらいだ。


「上野くん、もう一度ここで自己紹介しましょう。ノーフェッドも含めて言ってください」


「えっ!?」


「わたしから言いますね。奏時高校に通っていて、ここ風花荘の大家の孫、松下里美です。改めて、よろしくお願いします」


「えっと……、ノーフェッドという怪物を退治するため、奏時市に来ました上野進也です。こちらこそ……、よろしくお願いします」


 風花荘の玄関で、改めて頭を下げて挨拶する進也と里美。何度もしたようだが、やはりお互いに知らないことがあったので納得することで、事情を知っておきたいし、知って欲しかった。こうして、進也の奏時市のごく小さなアパートである風花荘の生活が始まるのであった。


後半でした。この物語は前編・後編の2話完結型ですが、よろしくお願いします。


フェニックス形態は、ロッ〇マンエグゼ6のファ〇ザービースト・ロック〇ンがイメージです。

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