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第01話『運命の出会い』11/4修正

 奏時市(かなとし)。ここは名前の通り、時間が音楽のように奏でる街である。奏時市には5つの区に分けられている。

 北区には企業ビルが数多くあり、街の発展に欠かせない。車が頻繁に動いており、奏時市の人々6割が仕事のために北区へ行く。

 東区では自然が豊かで山がある。空気が綺麗で川が透き通るほど、田舎であるために高齢者が多く住んでいる。季節ごとに様々な景色を見られる。

 西区は成人に満たない子どもたちが通う学校が多くある。幼稚園から大学まで、あらゆる世代に応じている。春には桜が綺麗に咲いている。

 南区は海に面しており、風が気持ち良い。海風を利用した風力発電も盛んで、環境にも優しい。夏は海の家が並び海水浴に来る人が多い。

 中央には巨大な時計塔だけがある。奏時市のシンボルであり、頂上まで昇ると東西南北の区を見通すことが出来る高さである。一番古い建造物であり、観光客や見学ツアーが行われる大変貴重な歴史を人々と歩んできている。



「おばあちゃん、行ってきます」


 6月の中頃。高層ビルが建て並ぶ北区が見えて、少し離れた西区に建物がある。そこは現代の周りに比べ、少し古いがしっかりとした造りの、趣のあるアパート、その門の横には『風花荘(ふうかそう)』という大きく書かれた表札が掲げられている。

 その門には女の子がいた。艶のある黒髪が背中の腰の近くまではあるストレートヘア。白い肌の小顔に黒い両眼、桜色の唇。小さなネクタイをしており、左胸ポケットには赤い風車の紋章があるブレザー。その風車を押し上げる胸の膨らみがあり、世間体から見ると美しいより『かわいい』が当てはまる。

 奏時高校(かなとこうこう)の制服を着て大和撫子を連想させる3年生──松下里美(まつした さとみ)である。


「車に気をつけてのぅ〜」


「はーいっ」


 里美に注意をしているのは、白髪で幾つもの年を重ねてきたシワがあり、里美の祖母である松下徹子(まつした てつこ)だ。

 徹子の夫は既に他界しており、現在は風花荘の大家をして静かに余生を送っている。

 1つだけ欲を言えば、孫の里美の幸せを願っていることだ。そんな徹子は里美をいつものように、風花荘から見送っていった。





「ふわぁぁ〜」


 時同じく、風花荘から少し離れた場所では風車運送のトラックが、自然豊かな木が両側に並ぶ道路を走っている。

 ショートヘアで両耳が被さるほどの黒髪。前髪が短く、おでこが見える下には優しそうな両眼の(まぶた)が閉じかかっており、シートベルトを付けて助手席に座っている少年──上野進也は眠気を感じて欠伸をする。

 昨日からずっと座りっぱなしなので、なかなか辛い。隣にいるガタイの良い運転手は、夢の中に入りそうな進也に声をかけた。


「お客さん。もうすぐ着くから、そろそろ起きろよ」


「は〜い」


 トラックはやがて西区の市街地に入り、登校してくる制服姿の高校生や仕事に行くサラリーマンやOLを見かけ始めた。次々とすれ違うなか、奏時高校に向かって歩道を歩いていく里美と、車道を走る引っ越して来たトラックに乗る進也がすれ違うのであった。





「おはようございます、理名ちゃん」


「おはよう、里美ちゃん」


 奏時市公立高校。通称、奏高(かなこう)。西区の高校の中で数多くの生徒がいるマンモス校である。

 中学の卒業生のだいたいは、そのまま奏高に進学するため、生徒同士が顔見知りであることが多い。

 校訓は、生徒の個性を尊重して明るく温かい学校生活を目指している。進学率は高く、有名な大学を目指す生徒も多い。


「1時間目って何だっけ?」


「数学ですね」


 里美は3年3組の生徒である。そして、里美が挨拶して会話するのは同じクラスであり昔からの親友──佐藤理名(さとう りな)だ。

 茶髪なショートカットで、里美と比べると胸は控えめである。趣味はカメラ撮影という持ち主だ。里美が和風だとすれば、理名は洋風が似合う。


「起立、礼!!」


「「「先生、おはようございます」」」


「みんな、おはよう」


「着席!!」


 担任の田山先生がやって来て、委員長の理名の号令で朝の挨拶をした。田山先生は、四角い眼鏡をかけて髪型を7対3で分けるという典型的な真面目人間だ。良くも無く悪いも無く普通である。身体つきは細身であって、あまり運動はしていないのが分かる。デスクワークが中心の学校生活だ。


「近頃、奏時市に不審者が目撃されている。噂では何やら怪しい物を配っているらしい。高校3年生のみんなも注意するように」


「理名ちゃん、怖いですね」


「何を言っているの、里美ちゃん。あんな噂、嘘っぱちに決まっているわ」


 最近、奏時市で流行し始めた謎のチップ。デジタルカメラで使用するSDカードっぽい小型電子機器。噂によると、何でも人間の肉体を変化させる。里美のように信じる者もいれば、理名みたいに信じない者もいる。身近に目撃者がいないので、はっきりしない。


「それと、天野。あとで職員室に来い。昨日の喧嘩について先生と話し合おう」


「ちっ」


 田山先生に呼び出された天野という生徒。不良というカテゴリに当てはまる。昨日、後輩の2年生に喧嘩していたのがバレた。天野は、苛立ちを感情に現し、舌打ちまでした。田山先生が出ていき、周りの生徒の空気が少し悪くなりながら、1時間目の授業に入るのであった。





「お客さん、着きましたよ」


「ここが、おれの新しい家……」


 一方、里美が奏時高校で授業を受けている頃、進也は新しく住むアパート──風花荘(ふうかそう)に到着していた。引っ越し業者の人達が続々と集結して、トラックから引っ越し荷物を降ろしていく。


「はじめまして、上野進也です」


「父親の秀樹です。よろしくお願いします」


「ほっほっほ、こちらこそ。よろしくお願いするのじゃ」


 上野進也は、風花荘の大家である徹子に挨拶する。隣では肩にかかるぐらいのセミロングで、進也を少し大人にした秀樹も同じように挨拶する。秀樹は車椅子に乗っている。親子揃っての丁寧な挨拶に徹子は、優しい笑顔を微笑みながら新しい住民を快く迎えるのであった。





「クソがっ!!」


 昼休み、奏時高校の生徒である天野は、物に怒りをぶつけていた。蹴り飛ばしたゴミ箱から空き缶などのゴミがこぼれ落ちる。何故、自分の思い通りにならないと自問自答するばかりだ。呼び出しに応じず、野球部の部室裏で苛立っていた。


「ふ〜ん、きみは物に当たって怒りを解消するんだ」


「誰だ!!」


 急に声をかけられ、振り返った天野。そこにいたのは人間に近い姿であるが、人外の怪物であった。


「ば、化け物……」


「きみ、苛立っているよね。どうして、自分の思い通りにならないかって」


 全身に藍色のプレートが刺さっている姿で、野球部の部室の屋根に座っている怪物。尻餅をついて震えている天野を見下げながら、天野の心情を話していく。怪物に自身の心情を読まれて、ようやく立ち上がり警戒する天野。


「てめぇ、何者だ?」


「ボクはノーフェッド。それ以外の何者でもないよ。だけど、きみは特別だよ」


 天野の敵意のこもった視線を向けられながらも、左手首に腕時計を着けている怪物は屋根から降りて右手にあったチップを投げた。持ち前の反射神経で思わず受け止めた天野。


「これは…?」


「それを使えば、調子に乗っている人間を潰すことが出来るよ。ボクのように人間を超えた力が手に入る」


「へへ……面白そうじゃねえか」


 説明を聞くとニヤリと不適な表情を見せる天野。目の前にいるのは人間とは違う怪物。自身も同じように怪物になれれば、腐りきった現実から解放されると考えた。


「それじゃあ、今から使い方を教えてあげる」


 天野は、昼休みに怪しいものを貰ってしまった。怪物という悪魔の誘惑によって、不審者の噂が現実に起こり始めるのであった。





「里美ちゃん、それでね……あむっ、なかなか良いバイトで……あむっ……」


「ご飯がこぼれていますよ、理名ちゃん」


 天野がチップを貰っている頃、里美と理名は一緒に昼御飯を食べている。理名は食べながら会話しているため、里美の指摘通りご飯がこぼれ落ちる。里美はお茶を渡した。


「はい、どうぞ」


「ぷはぁ、ありがとう。本当に里美ちゃんは良い子ね。あたしが男なら絶対に嫁に貰うわよ」


「り、理名ちゃん……」


 理名の言う通り、里美は優しい女の子だ。活発性格で委員長まで務めるな理名とは違って、里美は控えめなためにクラスでは目立ちにくいものの、癒し系というジャンルに当てはまるため、意外と隠れファンが多いのだ。


「まあ、周りの男は里美ちゃんの外見しか興味ないみたいだし。天野みたいな奴は論外よ」


「理名ちゃん、あまり皆さんを悪く言わないでほしいです」


 ただ、隠れファンも里美の外見から発する癒しや、ふっくらした胸しか見ておらず、里美が優しいという一面しか見ていない。優しい以外の性格の里美は、理名ぐらいしか知らないのだ。


「本当に良い子だわ、泣けてきちゃう。良い相手が見つかるまで守ってあげるからね!!」


「あ、ありがとうございます……」


 決意をして立ち上がり、むぎゅっと抱きつく理名。そんな理名を里美は苦笑しながらも、友達思いの理名に対して嬉しく思うのであった。





「先生よぉ」


「どうした、天野? 昨日の喧嘩について反省してくれたのか」


 放課後、田山先生がいる職員室にやって来た天野。入った瞬間、周りから自身を冷たい視線が降り注ぐ。普段なら苛立ちを感じていたが、現在は違う。むしろ、今から行うことにわくわくして笑顔が出そうになる。


「一度、先生ってヤツを斬ってみたかったんだよ!!」


「何を馬鹿なことを言っている、天…」


「ノーフェッド」


 天野はチップに向かって叫ぶと、身体が灰色の光に包まれた。田山先生の目の前にいたのは、天野という人間ではなく、GSチップという異形の身体を手にいれた怪物ノーフェッドだった。


「うわあ!?」


「ラアッ!!」


「ぅぁあ……」


 天野は右腕が巨大な刃を持っている灰色の怪物ダガー・ノーフェッドに変化して、先ほど注意されたのを恨んでいた田山先生を真正面から斬る。血まみれで地面に倒れた姿を見て、怪物の顔の下で笑ってしまった。


「田山先生!!」


「きゃあああああぁぁっ!!」


 女性の悲鳴を合図に職員室はパニックとなった。ダガー・ノーフェッドによる右腕の刃が暴れまわる。先ほどから冷たい視線を出していた先生や生徒を中心にどんどん暴れ、次々に倒れる生徒。まさに地獄絵図であった。





「んっ?」


 進也は奏時市を電気バイクで走っていた。お気に入りのヘルメットを被っている。これから生活する街なので、色々と見ておきたい。特に中央区の巨大な時計塔に興味を持っていた。ピリリと鳴り、ポケットから携帯電話を取り出して電気バイクのハンドル部分に差し込んだ。これでスピーカー機能で話せる。


「もしもし?」


《進也、ノーフェッドの反応だ》


「何だって!!」


《場所は奏時高校。大至急、向かってくれ》


「分かった!!」


 風花荘にいる秀樹は特殊な携帯電話から息子に話している。エネルギーの感知を秀樹から連絡があり、赤い不死鳥のイラストが描かれた電気バイク『エターナライザー』のグリップを引き、スピードを上げて現場に急ぐのであった。





「最高だ、最高だぜ、この力!!」


「きゃあっ!!」


「里美ちゃん!!」


 天野ことダガー・ノーフェッドは職員室を抜け出し、運動場まで来ていた。騒ぎを聞き、避難していた理名と里美であるが、次々と斬られる生徒や用務員を見てしまい恐怖を感じた里美が躓いてしまったのだ。刃に襲われかけた里美は目を閉じるしかなかった。すると、暗闇のなか耳に聞こえてきたのは何かのエンジン音だった。


「はぁっ!!」


 進也は人々が混乱しているなか、無理やり奏時高校に入ったきた。ノーフェッドに襲われている女の子が見えたので最速スピードを出した電気バイクで突撃して、里美を助けたのだ。ダガー・ノーフェッドは突然の奇襲攻撃に対応できず、人々が居ない場所まで飛んで行った。


「どわあああああ!?」


「よっと、大丈夫ですか?」


「あ、ありがとうございます……」


 ヘルメットを脱いで里美の安否を確認する進也。救われた里美は、先ほどの恐怖から逃れたことを何とか理解しようとしている。


「里美ちゃん、こっちよ!!」


「あの人が!!」


「いいから、早く急ぐわよ……!!」


 ノーフェッドが居なくなったのを見て、里美と一緒に逃げる理名。里美は助けてくれた進也の心配をしているが、理名に引っ張られて行った。見送った進也は、ダガー・ノーフェッドに目を向ける。


「運が良いのか、悪いのか。いきなり、ノーフェッドに会えるなんて」


「あぁん?」


「まあ、いいや。運が良かったことにするか」


 バイクを停めて、ノーフェッドに近づきながら、進也はチップを取り出した。先ほど天野が貰ったチップと同じである。このチップの正式名称はガイア・シンクロ・チップ、通称GSチップ。最近、奏時市で噂の代物だ。進也が持っているのは表面にアルファベット『E』の文字が描かれている。


「てめぇも、ノーフェッドか?」


「違う。ノーフェッドなんかに間違われたくない。おれは……フュージョナーだ」


 左手首に着けてある腕時計を起動した。普段は時計機能としてデジタル数字が映っているが、現在は特殊な英語が並んでいる。他の腕時計と違っているのは四角い赤いボタンが表面にある。この腕時計の正式名称はガイア・フュージョン・ウォッチ、通称GFウォッチ。先ほど天野にGSチップを渡した怪物も似たような腕時計をしていた。


『レディ?』


「認証、エターナル!!」


『エクストラ・チップ チェックイン』


 進也はGFウォッチにGSチップを差し込んだ。無機質な男性のような電子音声が聞こえると、身体が白い鎧に包まれ、背中には黒いマントが現れる。夕日のような明るい赤色が両腕を染める。最後に顔も白く包まれ両耳は赤くなり、進也の眼が映る橙色の透き通ったゴーグルが装着された。橙色のゴーグルが発光して、全ての外装が終了した。


「さあ、お前に罰を与えよう」


「てめぇは、一体」


 自分と同じようにGSチップで変化した存在に驚く天野。味方であると一瞬考えたが、毎日喧嘩してきた天野だからこそ、明らかに進也がこちらに敵意を出しているのが分かる。


「おれはエターナル・フュージョナーだ」


「フュージョナー? 何だ、それは!?」


「親父が、ノーフェッドと区別するために考えてくれた大事な名前だよ」


 フュージョナーと名乗る進也。ノーフェッドに対して悪い印象を持っており、間違えられただけで心外だと考えている。そんな進也のために父親が考えてくれた名前がフュージョナーであった。そして、父親を尊敬している進也はこの名前がお気に入りである。





「里美ちゃん、危ないわよ!!」


「あれは…、何ですか……?」


「分からない……とりあえず、写真だけ撮っておくわ」


 少し離れて避難できた里美と理名。他の生徒たちは遠くに避難して周りには誰もいない。里美は現在自身が見ている光景に、頭の理解が追い付いていなかった。どちらも人間から怪物に変わっているが、助けてくれた男の子の方が見た目は怖くないと感じる。一方の理名は携帯電話で撮影しており、野次馬根性丸出しである。





「フュージョナーか何だか知らねえが、邪魔だあぁ!!」


「ふっ、はっ!!」


 ダガー・ノーフェッドは右腕の刃を構えて、進也が変化したエターナルに突撃してくる。怪物に変化とはいえ、人型に近い姿ではない。足の速さは遅く、エターナルは赤い拳を構えて相手のタイミングに合わせ殴っていく。


「オラァ!!」


 ダガー・ノーフェッドは、殴られながらもエターナルに灰色の刃を斬り込んだ。しかし、先ほど人間たちを斬り込み、血まみれになった光景とは全く違っている。白い外装部分に切れ目が出来るだけで、天野自身が思うイメージ通りにはなっていない。


「ウアァァ……」


「はああぁぁっ!!」


 むしろ、エターナルが殴る赤い拳が天野自身の身体に痛みが走っていた。先ほどの人間たちの抵抗では、全く痛みを感じなかったので、初めての痛みに戸惑いを隠せない。チップを手に入れた自分は最強なのだ、と考え改めて右腕の灰色の刃を再びエターナルに向かって斬り込み始めた。


「ウラァ!!」


「よっ」


 エターナルは、灰色の刃が届く攻撃範囲から一旦退避した。身体能力が強化されているため、ほんの少し足に力を入れるだけで簡単に退ける。相手の武器は思っている以上に厄介と考えた進也は、GSチップを取り出した。


「頼もしき助っ人、呼ぶか」


『フェニックス チェックイン』


 エターナルは、アルファベット『P』の文字が描かれたGSチップを左手首に着けてあるGFウォッチに差し込んだ。チップの記録を読み込んだ腕時計は、エターナルの左肩に何かを現した。


「キュイ〜♪」


「鳥!?」


 エターナルの左肩に乗っているのは、永遠の時を生きるとされる伝説上の鳥、不死鳥である。最も本物の不死鳥ではなく、不死鳥という記録を実体化させたデータだが、進也の頼もしき相棒だ。呼ばれたのが嬉しかったのか、良い鳴き声を出している。


「正確にはデータだけどね。行くよ、キュー!!」


「キュイ!!」


 キューと呼ばれた不死鳥は、金色の瞳に全身が赤く鋭い(くちばし)、美しい翼を舞っている。赤い炎を纏いながら空を飛び、目にも止まらぬ速さでノーフェッドを撹乱させている。ちなみにキューという名前は鳴き声から決めたものだ。


「はっ!!」


「キュイ!!」


「おりゃあああああっ!!」


 ダガー・ノーフェッドがキューの目隠しで戸惑っている隙に、エターナルは右足で渾身のキックを蹴りこんだ。今まで以上に痛みを感じたノーフェッドは、耐えきれずに体勢が崩れて転がっていった。


「グアアアアァッ!!」


「助かったよ、ありがとう」


「キュイ♪」


『フェニックス チェックアウト』


 キューにお礼を言ってから、腕時計にある不死鳥のチップを抜き取り、嬉しそうに鳴くキューは消えていった。相手の身体の動きが鈍っている。そろそろ、トドメをするタイミングであるため、集中力を高めていく。


「グッ……」


「これで最後だ」


『オーバーライド』


 左手首に着けてある腕時計の赤いボタンを右人差し指で押すと、腕時計から電子音声が鳴り響き、エターナルはノーフェッドに向かって走り出した。距離が縮まると、左足に渾身の力を込めてノーフェッドへ跳ぶ。


「ブラスタースマッシュ!!」


 身体を空中で左にひねりながら、白いエネルギーを右足に纏う。やがて、身体全体が白い渦に包まれていき、小型の白い竜巻が横に迫っているようだ。エターナルは、猛スピードでノーフェッドを右足で蹴り込んだのだ。


「はああぁっ!!」


「ぐわああああァァっ!!」


 エターナルは、ノーフェッドの腹に蹴り込んだ真っ直ぐに伸びきった右足に力を込める。右膝を曲げて再び力を込めて、跳んだ場所に戻った。背を向けたエターナルの背後でダガー・ノーフェッドは悲鳴を上げながら爆発した。


『エクストラ・チップ チェックアウト』


「あぁ……」


 エターナルはGSチップを抜き取り、電子音声が鳴りながら進也に戻った。強制的に人間へ戻って、虚しく渇いた声をあげた天野からGSチップが現れた。先ほど天野が怪物から貰ったチップと異なるのは、チップの表面にアルファベットの文字が描かれている。


「さて、奴のチップを回しゅ……」


「警察だ!! 全員その場で動くな!!」


「やばっ!!」


「待て!!」


 GSチップを回収しようとした矢先、地元の警察官たちが現れた。しかし、事情を知る進也はノーフェッドを話すことなく警察から逃げるようにバイクで去っていく。警察は追いかけようとするが、すでに進也は現場から消えたのであった。





「行っちゃったです。あの人すごかったですね、理名ちゃん」


「あっちも怪物みたいになったけど、どう見ても人間に近い姿だったわ。少なくとも、こっちの怪物100%よりはマシなようね」


 里美と理名は、幸いにも怪我などなく無事に生き残った。救急車など来て怪我人を運んでいる。GSチップを使用していた天野は警察官たちによって捕まっている。気絶した天野はパトカーに連行されるのであった。こうして、本日の奏時高校の大騒動は過ぎたのであった。





「ただいま〜」


「お帰り、里美。大変じゃったみたいのぅ。ちょうど良かった、新しい住民さんじゃ」


 里美は風花荘に帰宅する。理名とは途中まで一緒に帰り、理名の一軒家の前で別れた。奏時高校はノーフェッド騒ぎで警察官たちがいる。その騒ぎはテレビでも放送されていたため、徹子も知っていた。


「「あっ」」


 徹子に呼ばれてやって来たのは先ほどノーフェッドから助けてくれた進也であった。お互いに先ほど出会って顔は知っていたが、進也は警察が来て逃げた。まさか、もう一度会えるとは思っていなかった。


「何で、あなたがここに?」


「えっと、引っ越してきて今日から住むから。じゃあ、あなたは?」


「ここは、わたしの家です」


 里美は進也に質問して、進也も里美に質問する。2人とも状況を何とか理解しようとしていた。


「「…………………………」」


「「えぇーーーーーっ!?」」


 一瞬、無言になった後、驚きあう。奏時市という広い広い街で風花荘という小さなアパートで再会する進也と里美。2人の運命が動き出すのであった。

執筆速度はゆっくりです。暇潰しに読んでください。


この物語は2話完結型で、前半終了です。


後半に続く。

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