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プロローグ

 満月が出ている夜の海岸。風が吹き荒れ、波の音がする。波打ち際では、3人の人間がいる。茶髪の男性、長髪の女性そして、黒髪の少年である。

 そこに突然、光が照らされた。その光の元は如何にも高級な紫の車が走ってくる。3人の離れた場所に停まり、場違いな高級車から男性が降りてきた。濃い口ひげが印象的である。

 先にいた3人の人間に近づき、歩きながら挨拶を済ませて、何かを語り始める男性。ところが話している内に、先にいた人間たちと言い争いになってきた。

 高級車から降りてきた男性、対峙している人間たちも、感情をむき出しにしていることから、お互いの主張を譲る気が無いのが分かる。


「お前の言っていることは、全て間違っている!!」


「話し合いなど、下らなかったな。所詮、貴様と我とは相容れない!!」


 どうやら平和的に解決が出来なかったようだ。高級車に乗ってきた人間のほうは、怒りの表情を3人にむき出し、デジタルカメラで使うSDカードの大きさはあるチップを取り出した。

 アルファベット『S』の大文字が表面に描かれているチップを左手首に着けてある腕時計に差し込むとチップを取り込み、何と人間の身体から怪物に変化した。


「バケモノ!?」


「お前……!!」


「あなた、そこまで……」


 対峙していた3人の人間、実は家族である。チップで変化した怪物を見て、少年は普通では信じられない光景に眼を見開き尻餅を付く。対して、少年の父親と思われる男性は驚くことなく鋭い眼光で漆黒の怪物を睨み付ける。対して、品格のある少年の母親と思われる女性は漆黒の怪物を見つめて悲しい表情をしている。

 そんな3人の様子など気にせず、殺気を出してくる男性が変化した漆黒の怪物が鈍い足音を発てて近づいてくる。


「もういい。お前たちの一番大切な息子を奪ってやる」


「息子は関係ないわ、下がって進也!!」


「知ったことか」


 蒼白い炎に包まれた、黒い西洋甲冑のような姿をしており、右手には巨大な黄金の剣を持っている怪物は、自分の外見を見て尻餅をついている少年を狙う。

 男性と女性を絶望に落とすのに最も簡単な方法だからだ。そんな思惑を考える怪物が黄金の剣から放った光刃に、真っ先に反応して進也と呼んだ息子を庇った女性。


「秀樹さん……きゃあああああっ!!」


「早苗ェェェェェェーーーーッ!!」


「お袋ォォォォォォーーーーッ!!」


 漆黒の怪物が持っている黄金の剣によって空が歪み始め、女性の身体が赤い空間に吸い込まれていく。息子である進也は手を伸ばして母親の手を掴もうとするが、全く届かない。

 赤い空間からは逃れられないと感じた母親の早苗は、左手首に巻いている腕時計を外し、息子に投げ捨てた。夫と進也の叫びもむなしく、早苗が目の前で消滅した。


「余計な邪魔が入ったな。だが次こそ、お前の番だ。己の力の無力さに怒れ、母親の消失に哀しめ、手にかけた我を憎め、恨め、これから始まる全ての出来事にひれ伏せ!!」


「お前、よくも早苗を……、クソッ…逃げるぞ、進也!! 早苗が命懸けで守ってくれたのだぞ!!」


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……!! 離して、親父!! アイツを、アイツを、殺してやる!!」


 漆黒の怪物は天に向かって両手を広げて、高らかに叫ぶ。父親は妻を消された怪物への怒りより、妻が命懸けで守ってくれた大切な息子を守ることを優先した。息子の手を掴み、怪物から離れるために走り出した。

 しかし、進也と呼ばれた少年は、父親である秀樹の言葉を否定して、父親の手を振り切った。無謀にも漆黒の怪物に向かって一直線に走っていく。進也は秀樹とは違って母親を失った悲しみより、母親を消した目の前の怪物への怒りのほうが大きかった。

 そのため、冷静な判断が出来ず、怒りの感情しかない身体は無防備だ。


「よせ、進也!! チップで変化した人間は、お前が敵うような存在ではないぞ!!」


「うわあああああぁぁっ!!」


「自ら殺されにくるとは。所詮はガキか……いや、ゴミだな。ゴミは燃やして消すのが簡単に葬れる」


 走ってくる進也に怪物は容赦なく光刃を放った。進也が気付いたときには、目の前に光刃が迫っており、死の恐怖から思わず眼を閉じて動けなかった。

 その時、進也の身体は横からの衝撃で倒されて光刃を間一髪で避けることが出来た。先ほどの母親と同じように、今度は秀樹が怪物の攻撃から、進也を庇ったおかげだったのだ。


「ぐわぁぁぁぁぁっ!!」


「親父!!」


「進…也、大丈夫か……。こ、れを…使え…、進也……母さ、んの…腕時計と、一緒に……」


 助けた進也の代わりに光刃を当てられた秀樹。幸いにも、かすり傷で済み、赤い空間は発生しなかった。進也は自分が助けられたことを、父親が傷つけられたことでようやく気付けた。

 しかし、2度も邪魔されて苛立ちを隠さないまま迫る漆黒の怪物は、足元から赤い空間を発生させて、そこから複数の灰色の骸骨を生み出し、確実にトドメをさそうと来る。再び助けようとするが、秀樹は足をやられて動けない。

 そんな状態の秀樹が、息子に差し出したのはアルファベットの『E』が描かれているチップだ。先ほど漆黒の怪物が母親を消したチップと同じものだった。

 怒りが収まらない進也は頭の中が混乱するなか、とにかく父親の言う指示に従って、左手首に母親の腕時計を巻く。チップの存在に気付いた漆黒の怪物は、灰色の骸骨たちと光刃を同時に放った。


「我と同じチップ…? どこまでも目障りな連中が…そうはさせん、骸骨ども葬ってやれ」


「進也ああああああああああああっ!!」


「「「キシャーーーーーッ」」」


「ウわぁぁああああああああああああああああああああああああァァァァーーーーッ!!」


 腕時計にチップを差し込んだ瞬間、人間の姿から全く違う姿に変化していく少年。白い鎧に黒いマントで包まれた少年、橙色の眼が輝くとチップに秘められた能力が身体から解放される明るい赤い炎は、漆黒の怪物が放った光刃や灰色の骸骨を弾き、波を弾き、地面を砕いて破壊していった。

 漆黒の怪物や襲いかかってきた灰色の骸骨たちは、どうやら逃げており、この場から消え去っていた。やがて明るい赤い炎が収まり、紫色の高級車からは黒煙に赤い炎が燃え上がっている。

 夜空で満月が照らしている穏やかに戻った波の音が聞こえるなか、先ほどの怪物とは違う外見に変化している拳を握りしめ、海に向かって喉からはち切れるばかりの声で叫んでいる少年と、倒れる身体を無理やり起こして妻が消えた赤い空間があった場所を見つめ、悲しみに涙を流して泣いている父親のみ残っているのであった。





 あれから1年後、母親から貰った腕時計を大切に着けている少年──上野進也(うえの しんや)は、引っ越し用のトラックに荷物を運んでいた。その様子を温かく見守るのは少年の父親──上野秀樹(うえの ひでき)は、1年前の漆黒の怪物によって両足が動かなくなり、車椅子で移動している。


「行こっか、親父。お袋を必ず取り戻そう!!」


「ああ、進也。奴らの本拠地は大体分かっているからな。お前の1年の修行成果を見せつけてやれ」


「「行くぞ、奏時市(かなとし)に!!」」


 進也の母親──上野早苗(うえの さなえ)の救出を心に誓って、全ての荷物を積み込んだトラックが進也と秀樹を乗せて発車した。GSチップを巡る戦いが始まる。これは、これから起こる数多くの事件、そして上野進也の戦いの記録である。


ゆっくりですが、よろしくお願いします。

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