拾四、賽の河原
髑髏逸話、其の六
賽の河原に少女が一人。少女はただ一心不乱に石を積み上げている。その少女の後ろに立つ真っ黒い髑髏は、ただその少女を見詰めていた。
「娘よ、石を積み上げて何とするか」
髑髏は少女が積み上げた石を蹴り、それを崩してそう告げる。石の塔を崩されても少女は顔色一つ変えず、また石を積み上げ始めた。 髑髏には分からぬ。日陰の身には親子の情や悔いなどは勿体無い。所詮は人の世の裏にしか生きられぬのだから。
「積み上げたとて、俺に崩されれば意味もない。ここでこうして積み上げて何になるというのだ」
髑髏はまた少女が積み上げた石を蹴る。三つ詰み上がっていた石の塔はがらがらと崩れた。
その時、少女がじっと影を見詰めた。少女の目には涙が浮かんでいる。石の塔を崩されたことがそんなに悲しいのかと思うたが、どうやら違うらしい。
「父や母は私を赦してくださらぬでしょう。だから思慕を積み上げているのです」
少女はそう告げて、また石を積み上げ始めた。少女の表情があまりに悲しげであったので、髑髏は後ろめたい思いに苛まれた。
人間はどうして愛などを感じるのだろうか。それが相手を苦しめ傷付け悲しみを与えているとどうして気付かぬのか。そんなくだらぬ感情を持っているから、人間はいつまでたっても悟りもせぬ。
「親はお前のことなど忘れているはずだ。今頃酒にでも現を抜かしておるだろうて。それでも親を思うか」
「積み上げた石を崩す鬼畜には決して分かりませぬ。信じる信じないではなく、それを知っているのです」
少女は小さく嗚咽を上げると、また一つ石を積み上げる。これで五つの石が詰み上がった。一体何個の石を積み上げたら、この娘は報われるのだろうか。
「救いを求めぬのか」
「親不孝に救いなどありますまいか。私はここでこれからも石を積み上げます」
「報われぬぞ、お前は」
「構いませぬ」
少女が六つ目の石を積み上げた。すると石ががらがらと崩れそうになった。だがそれを髑髏がしっかりと支えた。
「俺には分からぬ。だが、支えることくらいはできようぞ」
賽の河原に娘が一人。娘の傍に髑髏があり。髑髏は娘を支えたり。