P9 自然数と有理数は同じ個数だけある?
前回、自然数と整数は同じ個数だけある(正確には、自然数と整数は同じ濃度である)という話をしました。
今回は自然数と有理数の個数についてお話しします。
有理数とは
この分数の形になる数字の事。下の数字である分母を1とすれば整数となりますので、有理数の集合は整数を含んでおります。ということはもちろん、有理数の集合は自然数も全て含んでいるのです。
前回のラストでもぼそっと言いましたが、
0≦x≦1
という数式を考えた時、これを満たす自然数(0から1の間にある自然数)は1だけです。整数だと0と1の2つがあります。しかし有理数となると……
このように無限にあるわけなんです。さすがに
有理数は自然数よりも多いだろう
と考えてしまいそうですが、数学の世界ではそうもいかない。整数同様
自然数と有理数も同じ数だけある
(正確には「自然数と有理数は同じ濃度である」)
となるのです。では、どのように考えればその結論に辿り着くのかをお話しします。
まずはこのような表を作ります。
そして
このように
1番左、縦に並べた数字は表中の分母(分数の下の数)に対応させ
1番上、右に並べた数字は表中の数字の分子(分数の上の数)に対応させ
表の中に分数を埋めていきます。そうするとこの表、下側にも右側にも無限に続く表なんですが、有理数を全て書き表したものになるんですね。
では。これからこの表の中にある有理数に自然数を対応させたいと思います。
まず左上の有理数「1分の1」に①という自然数を振ります。
お次は「1分の2」に②,「2分の1」に③という自然数を振ります。
お次はこのように番号を振りたいのですが、「2分の2」は約分すると「1」となり、①の「1分の1」と同じ値ですので
すでに出ている数字と同じになるものは飛ばす事にして、上のように番号を振ります。
以下、同様に斜めに番号を振っていく形になります。
以前に出た数字と同じになる数字は飛ばすというルールですので、⑩と⑪は上の図のようになる事がわかりますでしょうか?
このように番号を振っていけば、どんな有理数もいつかは自然数の番号が割り当てられる事になります。
例えば「100分の1」という有理数も、「75分の23」という有理数も必ず表の中に現れるので、上記のルールに従って自然数の番号を振っていけば、これらの有理数は必ず自然数と手を結ぶ事が出来るというわけです。
なお、有理数には「0」も含まれますし負の数も含まれますが、そこは自然数と整数を対応させたアイディアを利用して
このように対応させていけば、自然数と有理数はもれなく手を繋ぐ事が出来るのです。
(専門的には「自然数から有理数への全単射が存在する」と言います)
というわけで、何と
自然数と有理数も同じ個数だけある
が言えたんですね。正確には「自然数と有理数は同じ濃度である」という言い方になります。
整数や有理数のように、自然数と完全に対応出来る集合の事を【可算集合】と言います。【可算】というのは「数えられる」という意味になります。
自然数というのは元々物を数えるための数ですから、完全に1対1の対応がある整数や有理数も数えられる、いわゆる可算集合だという事になるのです。
で、多くの人はこう思うのではないでしょうか。
有理数だって強引に数え上げたわけだから、どんな集合だって自然数と対応させて数える事が出来る、いわゆる可算集合ではないかと。
例えば実数の集合。実数の世界には、有理数の世界にはない√2(ルート2)や円周率Π(パイ)といった数字が多く存在します。
とはいえ、適当に「1」「2」「3」……と数えていけば
実数だって数え上げられるハズだ
と、そう思ってしまいますよね。ところが実数に関してはそうならない。
実数は数え上げる事ができない
という事を、集合論の創始者であるカントールが示したんです。
実数は、自然数よりもたくさんある
いっけん当たり前のようですが、自然数と整数は同じだけあり、自然数と有理数も同じだけあるという事を考えると、何故実数は自然数より多いんだという事になります。
実はカントールが残した大きな業績の1つに
無限にも度合いが存在する
という事実を発見した事が上げられます。
自然数と整数、自然数と有理数の無限は同じ度合いなんですが、自然数と実数では無限の度合いが違うというのです。
いったいそれは、どういう事なのか?
このお話を次回やってみたいと思います。