P8 自然数と整数は同じ個数だけある?
使用教科書 【第一学習社 数A】
教科書8ページに目を通した後に読んでいただけると、より楽しめます。
自然数の集合を、数学の世界ではよくNで表します。
N={1,2,3,4,……}
今、正の偶数全体の集合をMとしましょう。
M={2,4,6,8,……}
この場合、MはNの部分集合となりますので、集合論の記号では「M⊂N」と表現できます。
こんなイメージになりますよね。では……
集合Nの要素の個数と、集合Mの要素の個数。いったいどちらが多いのでしょうか?
どちらも無限個の要素を持つのですが「M⊂N」という関係があるのですから、そりゃぁ集合Nの方が要素は多いでしょう。
ところが!
これまた数学の世界では、集合NもMも要素は同じ個数だけある事になるのです(正確には同じ【濃度】と言います)。何故でしょう?
簡単に言うと
Nにある要素全ては、Mにある要素全てと手をつなぐ事ができるから。
難しく言うと
集合Nから集合Mへの全単射が存在するから
となります。難しい話はさておき……
Nに属している 1,2,3,4,…… を運動会で選手が1列に並ぶがごとく、並んでいるとしましょう。そしてMに属している 2,4,6,8,…… もその隣の列に並んだとしましょう。
せーので、集合Nの1は集合Mの2と、集合Nの2は集合Mの4と、集合Nの3は集合Mの6と……
という形で手を繋いでいきます。
すると2つの集合に属する要素は、全てもれなく相手の集合の要素と手を繋ぐ事が可能です。
Nに属する1億という数はMに属する2億と手を繋げますし、Mに属する1京という数は、Nに属する5000兆という数と手を繋ぐ事が出来ます。
※ 1京は1億の1億倍、1兆の1万倍の数。
もし、Nの要素の個数がMの要素の個数よりも多いというのであれば、Nの要素の中にMとは手を繋げない連中が出てくるはずです。しかしこの対応なら、Nに入っている連中は全員Mにいる誰かと手を繋げている。
すなわち、Nの要素の個数はMの要素の個数と同じという結論になるんですね。「M⊂N」であるのに、MとNには同じ数だけの要素がある。無限が絡むと人間の直感が狂う例の1つです。
……。
お次は整数の集合を考えてみましょう。整数の集合は数学ではよくZで表します。
Z={ …… -3,-2,-1,0,1,2,3,…… }
自然数の集合Nに対し、今回は「N⊂Z」が成り立っています。
しかしこのZの要素も全てNの要素ともれなく手を繋ぐ事が出来るのです。
上の整数の集合Zに対し、下の自然数の集合Nの要素を
このように
自然数を
1,2,3,4…… と
対応させていけば
集合ZとNの要素は全て
手を結ぶ事が出来るんですね(NからZへの全単射が存在すると言います)。
例えば自然数の100は整数の50が対応しますし、整数の-100は自然数の201が対応します。より正確に言いますと
N→Zに対し、nをNの要素とします。
n=1 ならば 0
n が偶数なら n/2
n が 1 以外の奇数なら -(n-1)/2
と対応させる事で、全ての自然数と整数は手を繋ぐ事が出来るのです。
結論。なんと
自然数と整数は同じ個数だけある! (正しくは、自然数と整数は濃度が等しい)
という事になるのです。ん~、不思議ですね~。
今回はここまで!
【次回予告】
次は有理数と自然数の話。有理数というのは
この形で表される数の事です。
分母を1とすればこの形の数は整数となりますので、有理数の集合Qは整数の集合Zを含んでおります。Z⊂Qであるし、もちろんN⊂Qも言えます。
さて、自然数と有理数では、どちらが多いのでしょうか?
例えば0と1の間には整数としては0と1の2個。自然数にいたっては1のみの1個だけですよね。しかし有理数にいたっては、0と1の間に無限個あります。
このようにn分の1(1/n)の形の有理数を考えれば、それは0と1の間にある有理数だし、nをいくらでも取れますので、0と1の間に有理数は無限個あると言えます。
0と1の間に1個しかない自然数。かたや無限個ある有理数。圧倒的に有理数が多いような気がしますが……
その真相は次回!
【おまけ】
部分であるにも関わらず、元の集合と要素の個数が同じである
この概念を採用することで、集合論では【無限】を定義する事が出来るんですね。
集合Aにおいて
その真部分集合とAの間に全単射が存在するならば集合Aは無限である
というように。
【無限】を定義するって、何だか哲学的ですね。笑