P71 ABC予想③
さて、今回のお話は
【abc-triple】 【abc-hit】
の2つの言葉の意味を理解している事を前提に進めていきます。
ですので、上の2つの言葉の意味がわからない人は、必ず手前の記事を読んでからこちらを読んでください。
互いに素な2つの自然数 a,b(a<b) に対し
c = a + b
とし、3つの数の組合せ(a,b,c)を考える。これが【abc-triple】でした。
さて、皆さんに質問ですが
c < 10000
を満たす【abc-triple】はどれぐらいあると思いますか?
a = 1
とすれば、bは2~9998まで考えられるので、このケースだけでも1万近くありますよね。
最近はコンピュータがこういう計算をさっとしてくれて便利です。
c < 10000
を満たす【abc-triple】は、なんと1500万組以上もあるんですね。
【abc-triple】の中で
r(abc) < c
を満たす組合せを【abc-hit】と言いました。r(abc)がわからない時は、1つ前の記事を読んでください。
c < 10000
を満たす【abc-triple】は1500万組もあるわけですが、その中で【abc-hit】はいくつあると思いますか?
10万組ぐらい? 1万組ぐらい? 5000組ぐらい?
いえいえ。なんと、わずかに120組だけなんですよ。割合にすると、わずかに0.0008%。
ですから
いかに【abc-hit】の出現率が低いか?
というわけなんですね。
c < 50000
となる【abc-triple】は、なんと4億組以上もありまして、その中で【abc-hit】はわずかに276組しかありません。その出現率は 0.00028% ですから、cが大きければ大きいほど、希少性が高くなる事がわかると思います。
【abc-triple】は、ほとんど
r(abc) > c
満たすのですが、まれに
r(abc) < c
を満たす【abc-hit】が存在します。その出現率は非常に低いのですが、【abc-hit】は無限組ある事が知られています。
ところがですね……
この不等式を満たす【abc-triple】があるか……という問題があるんですね。
2012年11月現在
全ての【abc-triple】がこの不等式を満たす事が証明されているわけではありませんし、反例(不等式を満たさない具体例)が存在することもわかっておりません。
実はコレこそが【abc’予想】なんですね。
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【abc’予想】
3つの数字の組(a,b,c)が、【abc-triple】であれば
が成り立つ。
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ここから先、上記の【abc’予想】が正しいなら……
という、仮定の話をします。
3つの自然数 x,y,z と、自然数 n に対し
このような等式が成り立つとします。
もし(xのn乗)と(yのn乗)が1以外の公約数を持つとしたら
(xのn乗) = x・x・x・ …… ・x
(yのn乗) = y・y・y・ …… ・y
ですから、n乗する前の x、y が共に同じ公約数を持つ事になります。
x,y の最大公約数を k とおくと、2つの互いに素な自然数 x’とy’を用いて
x = kx’ , y = ky’
と表す事が出来ます。そうすると
この式の左辺は
この計算により、(xのn乗)+(yのn乗)は、(kのn乗)を約数に持ちます。
という事は、(xのn乗)+(yのn乗)に等しい、(zのn乗)も(kのn乗)を公約数に持つわけです。これから、z自身がkを約数に持つ事がわかります。
そこで z = kz’ とおくと
このように計算されます。
この式の左辺が
このように計算され、右辺は
このように計算されたわけですから、左辺=右辺より
この式が成り立つ事になります。すなわち
という形になるわけです。
これまでの話をまとめると
このような等式を考える場合、(xのn乗)と(yのn乗)は互いに素で考える事で一般化してよいという事です。(xのn乗)と(yのn乗)が公約数を持つなら上で述べてきたように x と y の最大公約数を考える事で
この式を導くわけです。(x’のn乗)と(y’のn乗)は互いに素になりますからね。
このとき xとy は互いに素となりますので、x<y か x>y となります。
もし、x>y であるならば、2つの数字 x、y を入れ替える事によって x<y となるようにしておきます。
さて、準備完了。なぜ、こんなわずらわしい説明をしたかというとですね……
この式において、(xのn乗)と(yのn乗)と(zのn乗)が【abc-triple】の関係になるようにしたかったからなんです。
これから何をしようとしているか、感づいている人もいるでしょう。
そう! 【フェルマーの最終定理】(フェルマー・ワイルズの定理)を証明しようというわけです。では、いきます。
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【フェルマーの最終定理】
3つの自然数 x、y、z に対し
これを満たす3以上の自然数 n は存在しない
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【証明】
x、yは互いに素であると考えてよい。
このとき、(xのn乗)(yのn乗)(zのn乗)は【abc-triple】となる。
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【abc’予想】
3つの数字の組(a,b,c)が、【abc-triple】であれば
が成り立つ。
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これが正しいならば、a=(xのn乗)、b=(yのn乗)、c=(zのn乗) とおいて
この不等式が成り立つ事になります。左に小さい数式をおいています。
この右辺に出てくる
この式について考えます。これは3つの積
(xのn乗)×(yのn乗)×(zのn乗)
を素因数分解した時、かぶらない素因数だけを掛け合わせたものだったので
(忘れた人は前回の記事を見てください)
この式が成り立ちます。だって(xのn乗)を素因数分解した時に出てくる数字は、xを素因数分解した時に出てくるそれと同じですからね。
さらに
この不等式が成り立つのは明らかです。r(xyz)は、積xyzのかぶらない素因数だけをかけてるわけですから、xyzより小さいというわけです。
また
この式から
(xのn乗) < (zのn乗) , (yのn乗) < (zのn乗)
は明らかですから、これより
x < z , y < z
がいえるわけで、この両辺をかける事で
x・y < z・z
となり、さらに両辺にzをかける事で
この不等式を得ます。つまり
こうなるわけです。今までの流れを1行であらわすと
このようになりますゆえ、その一番左と一番右の式に注目し
この不等式を得ます。さらにこの両辺を2乗して
が成り立ちます。abc’予想から
これが成り立ってましたので、上の式とあわせて
このようになりますので、結果として
この不等式を得るわけです。これが欲しかった不等式。これから
n < 6
となり、nは3以上の自然数でしたから6未満という事は
n = 3,4,5
の3択になります。
つまりですね……
これを満たす自然数 x,y,z があるならば、この式に出てくる n は、5以下なのです。
n=2 の時は、ピタゴラスの定理(三平方の定理)から、これを満たす x、y、z の組が無数にある事がよく知られています。
また、n=3,4,5 の場合について、これらは、フェルマー自身や(n=4)、オイラー,ソフィ・ジェルマン,ディリクレなどの活躍によって19世紀までに
n=3,4,5 の時
を満たす自然数の組 x,y,z は存在しない
という証明が与えられているのです。
以上より、3以上の全ての自然数 n について
を満たす自然数の組(x,y,z)は存在しない事が証明できました。
ちょっと難しかったかもしれません。
あと、なるべく数式を多めにしようと思って、ちょっと証明が長文になっちゃいました。
実際は1ページの論文ですむレベルなんですけどね。
☆★
今回、【abc’予想】と、これを使えば【フェルマーの最終定理】をすぐに証明できる事をお話しました。
実はですね……
今回お話したのは【abc’予想】でして、【abc予想】ではありません。なんか、ダッシュ(’)がついてますよね。
次回は正式な【abc予想】をお話したいと思います。ただ、正式な【abc予想】は、無理数の指数が出てくるので、正直「高校1年生にはわらかない」でしょう。苦笑
だから高校1年生にまでわかる話は今回まで。
ただしなるべく、高校生にも「ふ~ん」と言ってもらえるように次回の記事を書きたいと思いますので……
次回の記事でお会いしましょう。




