P33 数えたおかげで、6億円稼いだ?
さて、オープニングから続いている必勝法の第3段。
今回はとある必勝法を実践し、実際にかなりの額を稼いだというお話です。その必勝法は「数えること」なんですね。
映画「21」をご存じでしょうか。邦題は「ラスベガスをぶっつぶせ」でして、「21」というのはブラックジャックというゲームの通称です。
私も見ましたが、なかなか面白い映画でした。映画の中で「モンティホール・ディレンマ」という数学的な話題も出たり、ブラックジャックの数学的必勝法の解説も出たり、数学を少し知ってるとさらに楽しめる映画でした。
モンティホール・ディレンマは確率のところでまた話す予定です。
ちなみにこの映画、実話を元にして描かれているのですが、今回はその話をしてみましょう。
学生がゲームの必勝法を実践し、6億円稼いだというお話を。
☆★
時代をさかのぼって、話は私が大学生の頃……
とある数学の授業を受けていたら、先生が面白い事を話しまして。
「実は必勝法のあるギャンブルが存在する」
先生の話は今でもよく覚えています。
とあるアメリカの大学教授がブラックジャックというカードゲームで必勝法を見つけたというもの。
その教授は数学的にブラックジャックで勝てる攻略法を見つけ出し、それを実践すべくラスベガスへ飛んだそうです。そしてその攻略法を試してみたら……
実際に大勝ちしたんですね。ところがあまりにも勝ちすぎたため、ゲーム中怖そうな体格のいいお兄さん達に両腕を捕まれ、外に出され、そのまま出入り禁止になったそうです。
いくつかのカジノを歩き回ったそうですが、片っ端から出入り禁止に。ある時は変装して別人になりすましカジノに入り込もうとしましたが、それでも見つかって外にほっぽり出されたと。
この後、その教授はどうしたか?
なんとブラックジャックの必勝法を本にして出版し、印税をもらって稼いだそうです。いやはや、商魂たくましいですな。笑
その教授というのが、MIT(マサチューセッツ工科大学)のエドワード・ソープ。
そしてその必勝法というのは、ある数字を数える事。通称「カウンティング」と呼ばれるものです。
ある数字を数えるだけで、ギャンブルで勝てるのか?
その答えは「Yes」です。ソープはコンピュータと統計学を駆使してその必勝法を導き出しました。
ブラックジャックというのはカードの札の合計が「21」に近い方が勝ちというゲーム。
Aは「1」か「11」扱いで、絵札は「10」となります。22以上になってしまうと「ドボン」で負けになります。
さて、カウンティングとはいかなるものか?
カードで2から6の間の数字が出たら「+1」とカウント。
カードで7から9の間の数字が出たら「0」とカウント。
上記以外のカードが出たら「ー1」とカウント。
これらを合計することで、まだ出ていない10以上のカードがどれぐらいの割合であるかを推定するのです。
実はディーラーは「手持ち合計が17以上になるまで、カードを引き続けなければいけない」というルールがあり、絵札がたくさん残っている場合、ディーラーが負ける確率が高くなるんですね。
※ディーラー カジノ側のプレーヤーで、カードを配る人
カウンティングで得られた数字を合計しておくのですが、その数字がどのあたりまでくるとこちら側が統計的に勝てるというラインがあるんですね。
と、ここまで話したところで……
この記事は高校生も読むことになり、教育上ギャンブルについてくわしく話すことはよろしくない。それゆえ、これ以降の攻略法はくわしくは話しません。
ちなみに私は、ルーレットやパチンコ、ロト(宝くじ)、パチスロ、競馬などといったギャンブル全般の期待値なんかを計算する人間ですが……
今回は教科書ベースの記事のため、これらのくわしい話は自粛します。笑
とにかくこのソープの生み出したブラックジャック必勝法「カウンティング」なんですが、後にこの必勝法を洗練させたのが映画にも取り上げられたMITの学生チーム。
ソープが大学を去った後も、大学内では彼を師と仰ぐ連中がサークル活動を営みます。MITですから、それはもう頭のいい連中なわけで。その天才レベルの頭脳が導き出した、さらなる必勝法は徹底した役割分担です。
いわゆる「カウンティング」を行う人物と、実際に賭ける人物を別々にするというもの。つまりチーム戦ですね。
実はソープの大勝ち以降、ラスベガスではカウンティングは禁止されてしまいます。正確に言いますと「カウンティング」自体は違法ではありませんが、店のルールとして不可にする、あるいは「店側にとって不利益となる人物は、入店を拒否する権利」が存在するため、あまりにも勝ちすぎる人物はソープのように入店拒否されてしまうんですね。
つまり店側が「カウンティングしている」と判断したら、それは「店側に不利益を被る」という事で追い出すことが出来るのです。
そんな状況で、MITチームは役割を分担することで攻略したんです。さらに「これだけ勝ったら引き上げる」など、明確なチーム内ルールを定め、店側に怪しまれないよう作戦を徹底的に練ったんです。
とはいえ、カードの数字を「+1」「0」「-1」と数えるだけの「カウンティング」。いっけん簡単そうですが、ディーラーと自分以外のプレーヤーも複数いるため、テーブル上の全てのカードがオープンになった時、それらが流される前に「瞬時にカウント」するというのは、ある程度の訓練が必要となります。
とにかくMITチームは「役割分担」「勝ちの上限」「徹底的なカウントの訓練」を行い、ラスベガスへ乗り込んだのです。
具体的には話しませんと言いながら、もう少し話します。笑
チームの役割は3つ。スポッター、ゴリラ、ビッグプレーヤー。
カウンティングを行うのが「スポッター」。スポッターは低い金額で勝負しながら、テーブル上の札のカウンティングを行います。そしてこちら側が勝てると判断した時には仲間へサインを送るんですね。
スポッターと同じテーブルに最初からいるのが「ゴリラ」。彼はいわば「おとり」を演じるわけです。大はしゃぎしたり大きなリアクションを取り、監視の目を自分に向かせるのです。これから登場する「ビッグプレーヤー」への注意を減らせる重要な役割です。
3つ目の役割がその「ビッグプレーヤー」。大金をかけて、カジノ側からお金をぶんどる役割です。
チーム内で会話やボディランゲージは厳禁。全くの他人だとカジノ側に思わせるため、小さなサイン以外のコンタクトは取りません。
このMITチームによる綿密な作戦。実際彼らは大勝ちする事になります。
チームは5年間も勝ち続けました。週末のみの勝負だけで、勝ち額なんと6億円。
対策の遅れたカジノ側なんですが、映像分析により特定の客が勝っている事をようやく突き止めます。結果彼らは全世界のカジノへ入店禁止となりました。師匠にあたるソープはわずかな期間で入店禁止となったのに対し、このチームは5年間で6億円も荒稼ぎしたわけですから、師匠を超えたといっても過言ではないでしょう。
ちなみにこのMITチームの被害を受けたカジノ側は、毎年MITの新入生の名簿を入手して目を光らせているというエピソードも残っています。
☆★
以上、数えることで数億円稼いだ学生チームのお話でした。
残念ですが、今はカジノ側も徹底的に攻略法の対策を行っているため、映画のようにバカ勝ちする事は出来ないそうです。
まぁせっかくですので、「数学を利用して稼げる」お話をもう少しだけ。
残念ながら新課程では、確率における「期待値」の項目が消えてしまいました。この期待値を計算することでギャンブルで勝てるかどうかを計算によって求める事が出来るんですね。
くわしくは確率のところで話しますが……
実は現在日本で許されている公営ギャンブルの中に……
勝てるギャンブルが存在するんですね!
教育上、いったいどのギャンブルでどのようにすれば勝てるのかなどは伏せておきます。
確率、微分積分、統計学、データマイニング……
数式や数学的手法を用いてお金を儲けようとする人はたくさんいます。
もう1つだけ、数学を駆使してお金を儲けた人の話をしましょう。
ブラック・ショールズ方程式
正確には「確率偏微分方程式」。何やら難しそうな名前が出てきました。
金融工学というとちょっと難しい話になるんですが、極端な言い方をすれば金儲けするための学問。もうちょっとまともな言い方をすると、株価の動向を分析し効率よい投資方法を導き出すのも金融工学の一分野です。
このブラック・ショールズ方程式、数式自体は非常に難しいんですが、いくつかのパラメータをパソコンに入力させればその方程式の解として「権利行使価格」なるものを計算してくれます。
※権利行使価格 オプションについて、いくらで資産を購入(or売却)出来るかという価格
※オプション ある時期に、ある資産を決まった価格で購入(or売却)できる権利
この方程式を考案したブラック氏とショールズ氏なんですが、ブラック氏は1997年のノーベル経済賞を受賞しています。ちなみにショールズ氏はすでに亡くなっていたため、賞の対象外でした。
金儲けのための方程式がノーベル賞を受賞した!
誰でも簡単に金を稼げるじゃないか!
ちなみに方程式を考案したショールズ氏本人の創設したヘッジファンド会社はですね……
1998年の歴史的なロシア財政危機に遭遇し、倒産しました。
ノーベル賞を取るほど、すぐれた金儲けの方程式なのに…… 倒産したんです。
最後に、「ほんまでっかTV」で活躍している経済学者・門倉先生の言葉を紹介して、この記事を追えます。
「投資の世界に100%はありません」




