万引き
「僕はしてません」
「じゃあ、この監視カメラに写ってるヤツは誰なんだ」
学校から家へと帰る途中。 地元のスーパーへと用もなく立ち寄った僕は、なんとなく万引きをしてしまった。 欲しくもない118円のシャープペンシルの芯を、なんとなく手に取り、会計をせずそのまま外へと進んだのだ。
そのとった物を、隠すこともせずに外へと向かって歩いていく僕を不審に思い、声をかけてきた定員がいま僕の目の前にいる。
「どう見てもお前だろう」
……ああ、僕は万引きをしてしまったんだ。 と、目の前で鬼の様な形相をした店員をみて思う。
「わかりません」
「わかんないって、なに言ってんですか? とぼけちゃって……そういうの無駄ですよ。 いいですか、正直にちゃんといってください」
「だって、あんまりよく、覚えてないんです」
……何言っているんだ、僕は。
「はー、いい加減にしてくださいよ」
大きなため息と一緒に吐き出される僕に対しての呆れ。
「すみません」
ぼそりと謝罪の言葉を述べる。
さきほどからの話の流れだと、謝れば大事にはならないといった感じだ。
……なんだかめんどくさい。 どうでもいい。
「え? なに、なんて言ったの」
店員の反応が誰かに似ていた。 ああ、僕の両親だ。 それに先生だ。
「すみませんでした、万引きしました。 魔が差したんです。 すみません」
ぼくは淡々と罪を認め、続けて謝罪した。
すると店員は汚いものを見るような目で僕をとらえ、延々と説教をした。 すべて僕に向けられた言葉のはずなのに、なにひとつ頭に言葉が入ることはなかった。
「まったく、次やったら警察にきてもらうから。 今日はもう帰っていいよ」
しゃべり疲れたのか、店員は心なしか老けてみえる。
「すみませんでした」
僕は頭を下げ店を出た。
店に入る時は、ただそこにあるだけだった街頭が、いまは道を照らす価値のある存在になっている。
ゆっくりと帰り路を歩きながら、僕はなんとなくもう一度あの店で万引きしようと思った。