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第2章 廃棄された図書室の浄化


魔王城の北西、長い廊下を抜けた先に、誰も足を

踏み入れない図書室があった。埃まみれの棚には、

忘れ去られた魔法書や呪文書が積まれ、長い年月の

間、開かれることはなかった。空気は重く、微かに

古い魔力の匂いが漂っている。


「うわ……本当に、誰も来ていないんだ……」


16歳のメリッサは、肩にかけた掃除道具の籠を

少し揺らしながら、図書室の入口で立ち止まった。

埃が舞い上がり、空気が揺れるのを感じる。城の

中でも、ここは特に魔力の歪みが強く、軽々しく

足を踏み入れられる場所ではなかった。


「まずは棚の上から……」


メリッサは手袋をはめ、ほこり払い用の柔らかい

ブラシを棚に押し当てた。動かすたびに古い埃が

舞い、光の粒子が空中で踊る。触れる本の表紙は

かすかに冷たく、長い年月の間に溜まった魔力の

残滓がほのかに光っている。


棚の奥にある古い巻物を手に取った瞬間、空気が

わずかに震えた。間違った魔法や封印が残る書物は、

微細な波紋を描くように城全体に歪みを生んでいた。

メリッサは息を整え、静かに心の中で呟いた。


「怖がらなくていい……掃除で浄化するの」


彼女は箒で埃を払うように、棚の上から順番に本を

拭き、積まれた書物を整理していく。触れた瞬間、

魔力の残滓が光に変わり、ゆっくりと吸収されていく。

間違った呪文が静かに封印され、時に小さな閃光が

部屋の隅を照らした。


「こんなに古い魔法書……普通の人なら触れただけで

呪われるかもしれない……」


メリッサは軽く口元を引き締め、慎重に一冊ずつ

整理していく。埃が舞い上がるたび、城の歪んだ

空間が少しずつ静まり、落ち着きを取り戻していく。

本棚の間を進むたびに、過去の記録や魔力の影響が

整えられ、世界の歪みも微かに修復されていく。


中央の大きな机の上には、開かれたまま放置された

書物があった。黒いインクで書かれた古文書は、

不自然に歪んだ時間の痕跡を残している。メリッサは

息を吐き、丁寧に埃を払い、整頓された位置に戻した。


「これで少しは……元に戻るかな」


机に触れた瞬間、部屋の空気が柔らかく揺れ、

光の粒子が床や棚を滑るように移動した。古い魔力の

残滓は浄化され、図書室の空間自体が静かに安定する。

遠くの村では、人々が誤った記憶や混乱から解放され、

笑顔が戻り始めているようだった。


棚の奥に置かれた巻物から微かに赤い光が漏れる。

これは、過去に封印された危険な呪文の名残だ。

メリッサは少しだけ眉をひそめたが、恐れずに

魔法石を取り出し、そっと光を当てた。光が巻物を

包むと、赤い残滓はゆっくりと吸収され、巻物は

ただの紙の束として落ち着いた。


「よし……これで安全」


彼女は深く息を吐き、部屋全体を見渡す。埃や

散らかった本は整理され、重く暗かった空気は

透明感を帯びていた。魔法書の光も穏やかに輝き、

まるで図書室自体が眠りから覚めたかのようだった。


「掃除って、こんなに大切なことだったんだ……」


メリッサは一冊の本を抱え、棚に戻しながら微笑んだ。

掃除という日常行為が、世界の秩序を取り戻す力に

なる。小さな行動が、大きな影響を及ぼすことを

彼女は改めて実感した。


窓の外では夕暮れの光が差し込み、埃が舞い上がる

粒子に反射して、小さな虹のように輝いた。メリッサは

箒を肩にかけ、まだ手つかずの書棚へ向かう。

図書室全体を浄化するには、まだ時間がかかる。


だが、ひとつひとつ整理されるたび、城の歪みも

世界の歪みも少しずつ正されていく。その感覚は、

疲れを忘れさせるほどの満足感をメリッサに与えた。


「よし……もうひと頑張り」


彼女は深呼吸をして、再び掃除に集中した。

古い魔法書や巻物が光を取り戻し、静かに

図書室全体の秩序が回復していく。

そして、メリッサはこの城で、世界を少しずつ

浄化していることを胸に刻んだのだった。


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