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第1章 歪んだ庭園の掃除


魔王城の西側に広がる庭園は、かつての栄華の名残を

留めていたが、今では魔力に歪められた奇怪な姿に

変わり果てていた。地面には不自然な隆起が幾つも

あり、花々は鮮やかさを失い、葉はねじれたまま

揺れている。小鳥も訪れず、静寂だけが風に乗って

漂っていた。


「はあ……今日も掃除か……」


16歳のメリッサはため息をつき、肩にかけた掃除用の

籠を整えた。腰までの長さがある黒いメイド服は

動きやすいように工夫されており、白いエプロンは

掃除道具で少しずつ汚れていた。城の中ではよく

「掃除係のくせに、魔力まで浄化できるのか」と

半ば呆れられることもあるが、彼女自身はあまり

気にしていなかった。


「まずは落ち葉から……」


手にした箒を軽く庭の地面に触れさせると、枯葉や

枝がひとまとめになり、自然ときれいな空間が

現れる。メリッサが掃くたび、植物のねじれが

徐々に解けていくのを、彼女は目を細めて見守った。

小さな花の蕾がほんのりと色を取り戻す瞬間は、

掃除の苦労を一瞬で忘れさせる。


しかし、庭の中心に近づくにつれて、空気の重さは

増していった。暗く沈んだ魔力の気配が、地面や

茂みから立ち上ってくる。メリッサは深呼吸をし、

腰のポーチから浄化用の魔法石を取り出した。


「大丈夫、できる……」


魔法石を地面に軽く置き、箒で掃くと、石から

柔らかい光が広がり、土や植物の歪みを整え始める。

まるで魔力のしみが洗い流されるかのように、庭全体

の形が少しずつ安定していく。通り過ぎた場所から

小さな鳥のさえずりが聞こえ始めた。


「わ……戻ってきた……」


以前は見向きもしなかった花々が、小さく首を

持ち上げ、色と香りを取り戻す。メリッサは無言で

箒を動かし続ける。城の壁に反射する光は

庭園全体を包み込み、まるで薄い霧のように漂う

魔力を吸い上げていく。


掃き終えたとき、庭園の中心にある大きな泉の水面は

鏡のように澄み渡り、周囲の歪んだ風景が映し出す

歪みも消えていた。遠くの村から、子供たちの笑い声が

かすかに聞こえる。どうやら魔力の歪みによって

閉ざされていた村の空気が、清浄化されたらしい。


「……やっぱり、掃除は魔力にも効くんだ」


メリッサは自分の手元を見下ろす。箒の先に付いた

枯れ葉や埃は、以前よりも小さく、軽やかに感じられた。

それは、庭だけでなく、世界の小さな歪みをも

取り除いた証拠でもあった。


だが、庭園の奥の木陰には、まだ完全に浄化されて

いない場所が残っている。ねじれた蔦が絡み合い、

薄暗い影を作っていた。メリッサは意を決し、深く

息を吸い込む。箒を強く握り、ゆっくりと木陰に

歩を進めた。


「ここも、きれいにする……」


掃除を始めると、木陰から小さな魔力の残滓が

まとわりつくように舞い上がった。メリッサは動じず、

石の力を借りながら、ひとつずつ丁寧に取り除いていく。

魔力のしみが消えるたび、蔦は柔らかくほどけ、

小さな光の粒が空中に散らばった。


その瞬間、庭園の中心で泉が一瞬光を放ち、

周囲の木々が一斉に揺れた。魔力が整い、世界の

歪みも少しずつ修正されていくのを、メリッサは

体の芯で感じた。


「やった……」


夕暮れが迫る空の色が、澄んだ藍色に変わって

いく。庭園全体が静かに息をつき、かつての生命力を

取り戻したように見えた。メリッサは腰を伸ばし、

疲れた体に小さく笑みを浮かべた。


「まだ始まったばかりだけど……これで少しは

世界も、よくなる……よね」


魔王城の掃除係としての任務は、単なる日常作業

ではなかった。掃除の一振り一振りが、世界の歪みを

修復する小さな奇跡だった。


メリッサは再び箒を肩にかけ、庭園の奥へと進む。

まだ浄化されていない場所がある限り、彼女の戦いは

続くのだ。だが今、庭園に光と秩序が戻ったことは

確かだった。


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