閉じ込められて育った少女は、初めて外に出たとき感動する~15歳まで閉じ込められていましたが、急な結婚で幸せになりました~
私は、カナシャ。15歳だ。
私は生まれてから一度も外に出たことがない。この、薄暗い物置から。
◆
ここは、ガンダー男爵家の薄暗い物置部屋。
「起きろ!このクズ!!」
その声が聞こえた後、気絶したように眠っていたカナシャに水がかけられた。
カナシャにとってそれはいつものことだった。
「・・・」
カナシャは喋ることを許されていない。
『その声を聴くだけで最悪の気分になる!!』と言われ、殴られるからだ。
カナシャはいつも一つの骨のそばにいる。その骨は、母親のものだった。
カナシャが唯一持っててもいいと許されたものだ。
普通なら墓に弔ってあげるのが普通だが、男爵曰く『男を産めなかったクズを弔ってやる場所はない!』だそうだ。
今日もカナシャは母親の骨のそばで縮こまっていた。
いつもそうして、死なないように少しの食事が夜に運ばれるのを待っている。
だが今日はいつもと違った。
突然、物置部屋の扉が開かれたのだ。
入ってきたのは、この家の主クリーズ・ガンダーだ。
「ちっ、相変わらず汚いな。カナシャ、お前の結婚相手が決まったぞ。ダルク・ストローム伯爵がお前を娶ってくれるらしい。明日迎えの馬車が来るからな。」
その顔は、にやにやしていた。
「あぁ、そうそう。ストローム伯爵がお前を娶るのは、私が無理やり押し付けたからだ。歓迎されないと思うが、精々がんばれよ。」
にやにや顔をしたままクリーズは帰っていった。
クリーズは女のカナシャを不幸にするためだけに生かしていたのだ。
翌日、カナシャは初めて物置部屋の外に出た。
初めての外に、カナシャは驚いたが何も言うことはできなかった。
「こちらが娘のカナシャです。どうぞ、よろしく。」
クリーズはカナシャの耳元でカナシャにだけ聞こえるようにしていった。
「ようやく女のお前が俺の役に立てるんだ。よかったな。」
そうして馬車はストローム伯爵の家に向かった。
馬車の中にはカナシャと女性が乗っていた。
その女性は、信じられないようなものを見る目でカナシャを見ていた。
そして、ストローム伯爵家に到着した。
そこには一人の男性と老人がいた。
「お前が、ガンダー家の娘、か?」
男性と老人は驚いた顔をしていた。
「・・・」
カナシャは服の裾を強く握っていた。
すると、カナシャの服からカランッと何かが落ちた。
「ん?なんだ、これは?骨?」
カナシャは慌てて骨を拾い大事そうに抱えた。
「どうしたんだ?その骨は。」
男性が低めの声でカナシャに訊ねた。
「・・・」
だんだんとその場にいた者の目つきが鋭くなっていた。
「なぜ何も答えない!!その骨はどうしたんだ!?まさか、ガンダー家では亡くなった者を侮辱するのが普通なのか!?」
カナシャはその声に驚き、服の中に隠していた骨をすべて落とした。
「あ、ああっ。か、あさ、ん」
カナシャからはかすれた声が聞こえた。
カナシャは急いで骨を拾い、大事そうに服の中にしまった。
その様子を見て、男性たちは何かがおかしいと気が付いた。
男性はしゃがんでカナシャと目線を合わせた。
「君は、本当にガンダー家の者か?」
カナシャはコクンとうなずいた。
「こ、れ。かあ、さん」
「君の母親か。君は何故それを持っている?」
「おとこ、うめないクズ。とむらう、ばしょない。って。」
それを聞いた人たちはまたもや怒った顔をした。
「君は、虐げられてきたのかい?」
カナシャはコテンッと首をかしげて「しいたげ?」といった。
その行動からして、カナシャが一切の教育を受けていないことが分かった男性は、カナシャを家の中に入れてくれた。
入った時、たくさんの人がいて怖い顔をしていた人たちは、カナシャを見て戸惑った顔をした。
「部屋と風呂の準備を」
「「はっ」」
そうして、カナシャは女性に連れられ初めての風呂に入った。
「なんだ、あの子は!!あれが、娘だと!?」
そう叫んでいたのは、ダルク・ストローム伯爵だった。
◆
ある夜会にて
「これはこれは、ストローム伯爵ではないですか!」
ダルクが振り返るとそこには、丸々と太ったガンダー男爵がいた。
「ガンダー男爵殿、こんばんは。何か私に御用ですか?」
男爵はにたにたと笑っていながら言った。
「少し話しませんか?ここでは、話せないことでして。」
ダルクは何か嫌な予感がして、男爵についていった。
「それで?男爵が伯爵の私に何の用だ?」
いつもは自分の身分を言ったりはしないダルクは、あまりにも身分の違いを分かっていないように話すガンダー男爵に怒りを感じていた。
ーこいつ、失礼すぎないか?ー
「それがですね。あなたには、私の娘をもらってほしいのですよ。」
「は?」
あまりにも馬鹿な話にダルクは帰ろうとした。
だが
「よいのですか?最後まで話を聞かなくて。父親殺しのストローム伯爵様?」
その言葉にダルクは足を止めた。
「その話をどこで聞いた?それは、王と私しか知らない話だぞ?」
「おぉ、怖い怖い。さすが、王国魔法騎士団団長様ですね。」
ダルクは、クリーズの前まで来た。
「で?なぜお前がそれを知っている?」
「それはお答えできませんね。」
「ふざけているのか!!」
その声に夜会に集まっている者達が一斉に振り向いた。
「ここで大声を出してよいのですか?それと、もし私を捕らえたりしたら大声でここにいる者達にばらしますからね。」
ここで騒ぎを起こすわけにはいかないダルクは結婚を了承した。
ー娘を人質にとって、どこでその情報を得たのか話させてやる!ー
そう考えていたのに、嫁にやってきた娘は15歳とは思えない小ささで、ガリガリだった。
「くそっ!これでは、計画が台無しではないか!!」
そこで、老人がノックして入ってきた。
「ダルク様、廊下にまで聞こえていますよ。」
その老人は、執事長のアランだ。
「しょうがないだろう!!俺の嫁になった奴は、あんなにボロボロなんだぞ!?そんな奴が情報を持っているはずがないだろう!!」
アランはダルクの前に紅茶を置いた。
「確かに情報を持っているようには思えませんね。これは、王様と相談された方が良いのでは?」
「そうだな。」
二人が話していると、慌てたような足音が近づいてきて勢いよく扉を開いた。
「旦那様!!」
入ってきたのは、幼いときからストローム伯爵家に仕えるミリアだった。
「ミリア!!ノックもせずに入ってくるとは何事だ!!」
そう言って、アランはミリアを叱りつけた。
「執事長!!それどころではないのです!!」
「なにがあったというんだ?ミリア」
ミリアは慌てて事情を話した。
ミリアによると、
カナシャを風呂に入れる際、服を脱がすとかなりガリガリで暴行を受けた痕が大量にあったらしい。
ミリアの報告を聞いた二人は激怒した。
「血のつながった自分の娘じゃないのか!?」
「ダルク様、今大事なのはカナシャ様のことですね。」
「あぁ、そうだな。」
カナシャは初めて温かい水につかり驚いていた。
「あった、かい」
それを聞いたメイドたちは今にも泣きそうな顔をしながら、きれいに汚れを洗い流していた。
「痛かったら行ってくださいね。」
「う、ん」
風呂から上がると、メイドの一人がカナシャに「のどに良く効く薬です。」と言って何かをなませてくれた。
それを飲んだカナシャはのどの痛みがなくなり、ちゃんと喋れるようになった。
カナシャはきれいなドレスを着せてもらい、一つの部屋に案内された。
「旦那様、カナシャ様の準備ができました。」
「入れ」
扉が開かれ、カナシャが部屋の中に入るとダルクがしゃがんで目線を合わせた。
「さっきは強くいってしまってすまなかった。君のその大事な骨を預かってもいいかい?」
その言葉を聞いたカナシャは、慌てて骨を服の中にしまおうとした。
「何もしない、大丈夫だ。ただ、弔ってやるだけだ。」
「弔う?」
ダルクはカナシャを庭できれいに咲くカーネーションの花壇に案内した。
「ここの真ん中を空けて、君のお母さんの骨を埋めるんだ。」
「なんで埋めるの?」
カナシャは15歳のはずなのにほとんどの知識がなく、まるで1歳児のようだった。
「埋めることで、君のお母さんは天国といういいところに行けるからだよ。天国は楽しい場所なんだ。」
カナシャはその言葉を聞いて、ダルクに骨を渡した。
抜いたカーネーションはカナシャの部屋に飾られることになった。
カナシャの母親の墓が完成すると、カナシャは涙を流してダルクに訊ねた。
「これでお母さんは楽しいところに行けたの?」
「あぁ」
それから数か月後
カナシャはガンダー家とは全く違う生活を送っていた。
「ダルクさん!」
カナシャはしっかりとした食事をとるようになってからガリガリだった体も肉がついてきて、身長も驚くほど伸びていた。
「どうしたんだ?カナシャ」
「今日もまた先生に褒められたんです!」
カナシャは常識さえも知らない状態だった。さすがにそれはまずいだろうと、家庭教師をつけたのだがカナシャは天才だった。一度教えたことは、どんなに難しいことでも覚えてしまうのだ。
「俺の妻はすごいな!今日の夕飯は豪華にしてもらおう。」
ダルクはメイドを呼び、食事を豪華にするように言った。
「ダルクさん、なぜダルクさんはこんなにも私に良くしてくださるのですか?」
カナシャは暗い表情をしていた。今まで物置部屋から出られず、不幸を願われていたのにこんなに幸せになったことを今でも不思議に思っているのだ。
「始まりはどうであれ、今は俺の妻だ。妻に良くするのは当たり前のことだ。」
そう言ったダルクの顔はとても優しかった。
「ダルク様、私に何かできることはありませんか?」
ダルクは少し考えた後
「王と私しか知らない秘密をなぜ男爵が知っていたのか、その理由を知らないかい?」
「あぁ、ダルク様が父親殺しだという話ですね。」
「何か知っているのか!?」
カナシャはその声の大きさに驚いた。
「す、すまない...」
「いえ、大丈夫です。男爵が言うには隠密にその話に聞いていました。前に話しているのを聞いたことがあります。」
それを聞いたダルクは驚いた顔をしながらも嬉しそうだった。
「隠密か!!ありがとう、カナシャ。」
話が終わるとすぐにダルクとカナシャは王宮に向かった。
結婚の報告という名目で。(実際は隠密の一人が裏切っていたということを伝えるため。)
「陛下、急な訪問をお許しください。」
そう言ってダルクが頭を下げた先には、この国の王ラスカ・ハナウェルがいた。
「そうだな、ダルク。いつもはちゃんと約束をしてからくるのに、お前らしくないな。」
「申し訳ございませんどうしても話さないといけないことがありまして...」
「ふむ...」といったラスカは、その場にいた者の外に出るように言った。
「それで?何の話だ?」
ラスカは尋ねながら二人を席に座らせた。
それからまず、カナシャと結婚したこと、その経緯を話した。
「そうか、隠密が...
秘密もばれてしまったのか。」
「はい。人がいたことに気づかず、申し訳ございません。」
「いや、隠密なのだから仕方がないさ。謝るのは、裏切り者を隠密にしてしまった私の方だ。」
そう言ったラスカは頭を下げた。
「陛下!!陛下が頭を下げる必要など!!」
ダルクは慌てて席を立ち、頭を上げるよう言った。
「そうだな、一国の王が簡単に頭を下げるのはよくないからな。だがな、ダルク。お前は私の唯一の友なんだ、そんなとの秘密を漏らしたことは誤ってすむものではないんだ。」
そう言ったラスカの顔は本当に申し訳なさそうな顔をした。
「しかも、君の望まぬ結婚をさせてしまったんだろう?」
ラスカはダルクからカナシャに視線を変え、怒ったような顔をした。
「たしかに、お前が望んだ結婚ではありませんが今私はとても幸せですよ。
なんせカナシャは、他人を気遣うことができ、いつも楽しそうにできたことを報告してくれます。報
告するときのカナシャの顔はとてもかわいらしいんですよ?しかも彼女は天才で、難しいことも一度教
えただけですぐにできるのですよ?」
ダルクは息継ぎをせず、早口でそう言った。ダルクの顔はとても楽しそうで、恋をしている顔だった。
それを見たラスカは驚いた顔をした。
「まさか、ダルクのこんな顔を見る日が来るなんてな...
そうか、お前は彼女、カナシャのことが好きなんだな。」
「えっ」「好き?」
二人は同時に行った。ダルクは顔を赤らめ、カナシャはどういうことだ?という顔をしていた。
「ははっ、気づいていなかったのかい?今、お前は愛する人を見る目でカナシャを見ていたぞ。」
ダルクの顔は、真っ赤になっていた。
少しして、ダルクが落ち着いた後、また話し合いが始まった。
「どうするか、彼に秘密を知られてしまった以上もっといろいろと要求してくるだろうな。」
二人が「うーん」と悩んでいると
「そもそもなぜダルク様は父親を殺すことになったんですか?」
カナシャのその言葉に二人は、顔を見合わせた。
「そうだな、簡単に言うと殺されそうだったから、殺し返したってところだな。」
ダルクが気まずそうに言った。
「ならば、そのままそれを伝えてしまっては?男爵は、いつまでもそれをネタにゆすってくるでしょ
う。だったら、いっそカミングアウトしちゃえばいいのです。もし何か言ってくる人たちがいれば、じ
ゃあそのまま殺されろと?と言ってやればいいのです。」
その言葉に二人ははっとした。
「それもそうか。どうせ、罪は消えないもんな。
だったら、ばれることに怯えるよりも自分から言ってしまえばいいのか。ありがとう、カナシャ。」
それから数か月後の夜会にて
ダルクの爵位が伯爵から公爵に上がった。
騎士団団長として、大いに活躍したことで爵位が上げることが決定したのだ。
「ここに、ダルク・ストロームは伯爵から公爵になることを宣言する!!」
会場は大きな拍手が響き渡った。
会場には、ガンダー男爵も来ていた。
ーくくっ、これで俺は公爵夫人の父という座に就いた。公爵の秘密も握っている私は、まだまだ成り上がれる!!あのクズには感謝しないとな。今頃あいつはどうなっているかな、無理やり結婚させたんだ。ひどい扱いだろうなぁ。あぁ、笑いがどんどんこみあげてくるぜ。ー
「公爵となった、ダルク・ストロームだ!私からは、3点話したいことがある!
一点目は、私は男爵令嬢のカナシャ・ガンダーと結婚したことだ!」
会場には驚きの声が上がった。なぜなら、身分さがありすぎるからだ。だが、その声もすぐになくなった。
何故なら、壇上に上がったカナシャはとても美しかったからだ。
ーなっ!あれがカナシャだと!?貧相な体だったあいつがあんなにも美しくなるとは...
そうだ!次はカナシャを一週間私に預けろと言うか。あんなにも美しくなったんだ、いい声で鳴くだろ
うな。ー
カナシャとダルクは広い会場から見つけたガンダー男爵を見つけると、ひどい悪寒がした。
ガンダー男爵はカナシャのことを、全身舐めまわすように見ていたからだ。
「何か良からぬことをたくらんでいるな。言い出す前にとっとと終わらせよう。」
「はい」
二人はこそこそと話した。
「二点目は...
四年前に死んだ私の父の話だ。父は自殺ということになっていたが、私が殺した!!」
その言葉に会場全体に電撃がはしった。
なぜなら、爵位を受け継ぐために、誰かを殺すことは許されないからだ。
そして、ガンダー伯爵は他の人とは違う意味で驚いていた。
ーなっ!自ら秘密を言うだと!?これでは、私が成り上がれないではないか!!ー
「殺したのには理由がある。これを聞いてくれ!!」
そうしてその会場には、ある録音が流れた。
『ダルク、お前は将来俺の地位を奪う存在になるだろう。そんなこと、断じて許されない!!
だから、死んでくれ。ダルク!
グサッ
グアァァーー!!』
その録音は、ダルクが父親の異変に気付き、急いで魔法で録音したものだった。
いつかこの録音が役に立つかもしれないという理由で、残しておいたものだった。
この国には正当防衛というものがある。なので、証拠さえあればいいのだが、この録音だけでは十分ではないかと考えて、秘密となっていた。
だが
「まさか、前ストローム伯爵がそんな人だったとは。」
「これは正当防衛と言えるだろう。」
「今まで、ストローム公爵は一人でそれを抱えていたのね」
と、誰もが正当防衛だったと認めた。
ーまずい、非常にまずい。秘密が秘密でなくなった今、私は...ー
ガンダー男爵が逃げようとしたその瞬間、騎士たちがガンダー男爵を取り囲んだ。
「信じてもらえて、私はとてもうれしい。
三点目だが、カナシャの父クリーズ・ガンダーの罪についてだ。
ガンダー男爵の罪は実の娘を虐げてきたこと。そして、男児を産めなかった妻レイナを役立たずだと言
い、死なせたことに加え墓を作らなかったことだ!!」
会場にいた者達の目の色が変わった。この国では、罪びとだとしても墓を作るのが絶対のルールだった。だというのに、男児を産めなかったというだけで墓を作らないことに誰もが怒ったのだ。
「今は、美しくなったカナシャだが、私の家に来たときはガリガリにやせており、暴行の跡がたくさんあ
った。そんな彼を、私は許すことはできない。今ここであのクズを捕まえる。反対意見を持つ者はいる
か!!」
反対する者は誰もいなかった。
そうして、ガンダー男爵は捕らえられ、ダルクが隠していた秘密は誰にも咎められずに済んだ。
秘密を盗み聞きし、それを漏らした隠密も捕らえられ、王宮にもストローム公爵家にも平和が訪れた。
カナシャとダルクは正式に結婚を認められ、国で一番仲の良い夫婦と噂されるようになった。




