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第4話 人殺しは殺しに慣れない

日も完全に沈みきり、

満点の星空でも見えてくる時間になったが、

空を見上げてもそんなものは見えず、

代わりにここからが本番だと言わんばかりにつき始めた極彩色のネオンライトが、

空の星をかき消し自分たちが真の星なのだと主張している。

そんな主張の五月蝿いライトも、表通りの脇道から出てきた、

夜行性の有象無象によって塗りつぶされてゆく。


「わっ!?」


俺はそんな腑抜けた声を聞いてふと後ろを振り返ると、

そこでは白いワンピースを着て、

螺旋状の黄色と言うには神々しい金色のツノを生やしたガキが、

有象無象のに呑まれかけていた。

あまりに奇抜なものを頭に生やしているせいで、

小さな背で人混みに呑まれても案外わかる。


「おい!何やってる、早くこいよ」


俺はその場に立ち止まり少々呆れ気味に言う。

あの女(小丑)に押し付けられた護衛の依頼の集合時間が、

地味にギリギリだし、場所も遠いしで早く行きたいんだが。


「だっておじさん歩くの早いんだもん」


ーーー『ねぇちょっと歩くの早いよぉ』


「ーーッ!」


俺は軽く舌打ちをし、

ガキのもとによってそいつを脇に抱え早歩きで目的地へ迎う。


「えぇと、別にそこまでしなくってもいいと思うんだよ、

例えば手を繋ぐとかさぁ………手を繋ぐの良い!」


人の脇でペチャクチャ喋っているガキを無視して早歩きで集合場所へと向かう。

……どうして俺はこんなガキとあいつを重ね合わせちまう………

あいつはこんなガキなんかよりもーーー


「おじさん!おじさん!」

「あ?」

『「手、つなご!」』

「………………………………………………………」


一瞬だけ、このガキの顔とあいつの顔が重なった。


「……本当にどうしちまったんだよ」

「……?」


俺はろくに目もわせず脇に担いでいたガキを地面へ降ろす。


「え!、本当に手繋いでくれるの!

いや私から言っといてなんだけど、まさかおじさんが本当にしてくれるとはーーーー

って、なんでいきなり早く歩くの、待ってまだ手繋いでないから、

待っててばーーーーー!!!」


⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎


それから黙々と歩き続け俺の住んでる区画である第47特区の、

境界ギリギリ裏路地のまできたわけなのだが、

集合場所についてもそれらしき奴がどこにもいない。

あたりを見回してもあるのは壁とゴミと、

隠滅された死体の跡と走ってこっちに向かってくるガキくらいだった。

表通りから結構離れたこの場所になると、

いよいよ極彩色のネオンライトも五月蝿い雑踏の声も届かなくなって、

意外に馴染みのない真に夜の帷の降りた薄気味悪い暗さを感じる。

そんなことを考えあたりを見回してきた時だった。


「あなたがここの私の護衛ね!」


そんな声がして後ろを振り向くと、

そこには二人の"人"と"妖"がいた。

片方の今声をかけてきた方の"人"は身長が小さく、

声色的にも少女だろう。

全身を隠すタイプの濃い灰色のフードをかぶっているが、

ここにいる奴と比べると妙に小綺麗なせいで逆に目立ってしまっている。

もう一人の"妖"は明らかに人とは思えない屈強な体つきをしており。

こちらもフードを被ってからいて顔が見えないが、

こっちのフードは薄汚れておりここにいるにも違和感のないように()()()()()()()()

そしてフードの留め具は金属製で異様に牙の発達した犬のマークが使われていた。

あのマークはーーー


泥土踏む三十名(臭氣的貴族)か…」

「デイドフムサンジュウメイ?」


ようやく俺の元に辿り着いたガキが、

フードの奴らから隠れるように俺の後ろに立ち、

そんな俺のこぼした言葉を復唱する。


「何それ?」

「……知らなくっても問題ねぇ」

「ねぇ!ちょっとあんた!私はあんたに質問してるんだけど!」


俺とガキの割り込んでくるようにして、

今回の護衛対象と思われるフードの女が割り込んで顔を近づけてくる。

そこまで顔を近づけたらフードで顔を隠してる意味ないだろうに。

場慣れしてないのにこの傲慢さ、俺の嫌い奴の典型的な例だ。


「あはは!おじさん顰めっ面!」


『ーーーって感情顔に出やすいよね!その顰めっ面とか!』


「………………………んで、そうだよ俺がお前の護衛だよ。」


俺は俺がおじさん呼びされていることに困惑しているフードの女を見て、

安心した気持ちになりながら無理矢理話の起動を元に戻す。


「んン?あぁやっぱりそうなのね。

でもほんとに大丈夫なの?なんかガリガリで頼りないけど?」

「そりゃあ俺も最近数年ぶりに戦闘したばっかだけどさ、

まぁお前の護衛してる奴と比べたら誰だってガリガリだろうさ」


俺はフードの女と護衛を交互に見ながら適当な調子でいう。

実際赤いフードのやつと戦って分かったが、札の攻撃…"言霊"を含め戦闘の感が鈍りすぎてる。

ここ最近は戦闘に関係ない依頼を受け続けた弊害だな。


「お前って呼ぶな!大体、あんたは私の護衛なの!

護衛は護衛らしく黙ってわたしの身だけ守ってればいいの!」

「護衛っつってもそこにいるそいつがいるんなら必要ないと思うけどな」


俺はフードの女の後ろを覗き込むようにして奥にいる薄汚れたフードのやつを見た。


「………ご安心を、拙僧の任は、ここまでの、護衛、ですので、」


よく言えば一つひとつ区切って丁寧に、

悪く言えば間延びした長ったらしい喋り方で薄汚れたフードの男は喋る。


「こちらとしては、雇う相手に、条件を、かけては、いなかったとは言え、どんな人物が、くるかと、心配でしたが、()()()()()()()()()()、あらば、安心です」

「聡明なお方…ね…」

「?」


俺がボソリと吐いた言葉にガキは疑問符を浮かべたが、構わず話を続ける。


「…安心しろ、俺はどこまで行っても雇われの護衛だ、仕事はするさ」

「でしたら、よいです。

…では、拙僧は、仕事は、果たしたので、失礼させて、いただきます」


そう言い残し薄汚れたフードの男は一歩二歩も退いてゆき、

気づけば表通りの極彩色も届かないや闇の中へと消えていった。


「………それで、結局俺は何をやればいいんだ?」

「?、だから護衛でしょ?」


よほどこの場所が物珍しいのかあたりをキョロキョロと見回していたフードの女は、

フードに隠れていてもわかるほどわかりやすく疑問の表情を浮かべこちらに視線を移す。


「護衛してもらうなりの理由があるんだろ?

ご丁寧に依頼内容に「達成まで無期限」って書きやがって…

こっちだって早く終わらせたいからな、

そのために情報をよこせよ」

「あんた、雇われの身のくせに何よその態度!!

それに、私の目的に関してはあんたに手伝ってもらうつもりはないから」

「あ?」


俺は下の方で「今のはおじさんの喋り方はよくないと思う…」とか言いながら服をグイグイ引っ張ってくるガキの、

つむじあたりに手を置いてグイグイ地面に潰しながら再びフードの女の方を見る。


「お前の目的が何かしらないが、そこ隠したって基本的にお互い得しないだろ」

「うるさいわね!これは最高機密なの!そこらへんの傭兵に教えられるようなものじゃないんだから!」


フードの女は俺を指差しながら思いっきり顔を近づける。

あまりに近づけるものだから肩くらいまで伸びた少し縮れた金髪と黄緑色の瞳と目が合う。

フードの女はそんなのお構いなしにこちらの顔を凝視してくる。

だからそれだとフードで顔隠してる意味ないだろ…


「……だけどそうねぇ、あなた誰か優秀で信用できる情報屋って知らない?金額はいくらでもいいのだけど」

「?、情報屋?何についての情報が欲しいんだ?あいつらにも向き不向きがあるからな」

「えぇ…そうなの、じゃあまぁ人探しよ」


フードの女はよほど情報を出すのが嫌だったのか少し渋ってはいたが、

フードの中から何かメモのようなものを取り出し確認していた。

こちらに内容が一切見れないように気を配られていた。(別に見るつもりもないが)


「人探しな……人探しかぁ…」

「な、なによ、まさかいいのがないの?」


フードの女は少し心配の色のうかがえる声になる。


「いや別にないわけじゃないんだ、ただ俺あいつ苦手なんだよ…」

「どのくらい苦手?」


ガキは俺のパーカーの裾をぐいぐい引っ張ってくる。

どのくらいって言ってもなぁ、こいつにもわかる例えってなんだ?

そこで俺の脳裏にニヤニヤと笑う小丑の顔がよぎる。


「…小丑のうざさを倍にしたみたいな奴」

「…?小丑はうざくないから0に何かけても0だよ?」


俺は無言でガキにデコピンを喰らわせる。

そりゃそうだよな、お前らしたらお菓子くれるおばちゃんだもんな。(あいつ年齢20前半くらいだろうが)

つうかこいつガキのくせになんで0かけたら全部0になること知ってんだよ。

ここ(貧民街)の教育レベル的に大人でもしらねぇ奴はしらねぇぞ。

所々で妙にガキらしからぬこと言うし…あの名前を妙に気にいるし、

ほんとにナニモンなんだこいつ。


「誰よ、その小丑って奴」

「あ?別に知らなくてもいいよ」


俺はあまり表通りの極彩色の光の届かず、

ろくに足元が見えないながらも、

黒くなったガムやら元がなんだったのかわからなくなったシミが、

点在する地面を眺めながら歩き出す。


「ちょっとあんた!さっきからなんなのよその態度!私は雇い主で、あなたは私に雇われてるの!態度をわきまえなさいよ!」

「はいはい、ここにそんな治安を求めないでくださいよ、お嬢様」

「おじょっ…あんたねぇ!!」

「あぁ〜怖い怖い」


ズカズカと音を立ててフードの女が真後ろまで来たので俺は後ろを振り向き、適当にあしらう。

特に深い意味はないがなんか真後を取られたくなかった。

そこでポス、と言う音を立て俺の腰あたりに何かが当たった。

下の方を見てみると、ガキが俺の腰あたりに正拳突きをしていた。


「おじさん口悪いよ!ちゃんとごめんなさいして!」

ーーー『ーーー、今のは言い過ぎ、ちゃんと謝って』


こちらを見てくるガキの目が、嫌になる程あいつに似ていて、俺は怖くなって目を逸らした。

目を逸らした先は表通りでそこから放たれる目が悪くなりそうな人工の極彩色光は、

宝石のように魅力的だった。


ーーー俺はこいつが、このガキが嫌いだ、嫌になる程が"あいつ"と重ねてしまうこのガキが、

けれど、それ以上に、まだあいつを求めてしまう俺が1番嫌いだ。

俺にそんな資格がないことくらい、俺が1番わかってるのに。


俺は再び視線を下に落とした。

だから早く奴らを…純白正教を根絶しなければならない、

白龍の復活なんて愚行、止めなくちゃいけない、

もう2度と"あいつ"は呼び起こさせはしない。


ーーー俺は薄暗く汚れた地面を眺め、無造作に落ちていた少し汚れた布切れを掴む。


「…フッ!何よあんた!その子の尻に敷かれているわーーーブワッ!臭っ!なにするのよ!」


お嬢様はよほど俺が無造作に投げた布切れを投げ返そうとしてくる。


「フードそれに変えとけ、ここじゃあ綺麗すぎて逆に目立つ。

つうぅか現に何人か釣れちまってるしな」

「「?」」


おれがそう言った途端に、今いる一本道の裏路地の前後を挟むように数人の男たちが出てくる。


「お前ら、固まってそこでじっとしてろ。

好き勝手動き回る足手纏い2人守ってやれるほど、

今の俺に余裕はないからな」

夢を見た

廃墟に住まう

夢を見た

日のないそこに

父はいない

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