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第2話 突き刺さる硝子の破片

「ん…んんんんんんん………ん?

…ここは…あ、そっかおじさんの家だ」


何か気まぐれに眠りから覚めた私だったが、

その目覚めのを出迎えるのは心地の良い朝の日差しではなく、

壊れた壁の隙間から漏れた不気味なほどに落ち着いた街灯の光だった。


「えぇ〜と、たしかあのときおじさんにたすけられて、そのあと…」


私は寝ぼけながらに顎に人差し指を当てて頭を回し、

可能の夜のことを必死に思い出す。


⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎


裏路地の様に狭い表通りの雑居ビルに付けられた看板から放たれる、

極彩色の光りが薄く入ってくる裏路地で、

目の前のビルの屋上につながる錆びついた鉄製の階段からおじさんが降りてくる。

おじさんとは言ってもその見た目は本人も言っている通り17歳程度で、

おじさんというには若過ぎだ。

でもこの呼び名を気に入ってしまっているので、

あまり変える気にはなれず、

本人からも愚痴を言われはするが変えるよう強要はされないのでそのまま呼んでいた。


「…あ、おじさん!」


ただ私はさっきのおじさんの顔が脳裏をよぎり、

素直に喜んだ顔を浮かべることができなかった。

私を下へ下ろさせた時のあの()()()()()()が、

ずっと頭にこべりついていた。


「たっく、その呼び方なんとかしろよな」


おじさんは呆れた様な顔で頭をかきむしり、

極彩色の薄暗い光しか届かないこの裏路地でもわかるほどにボロく錆びついた階段を一歩一歩と降りてくる。


「おじさん、大丈夫?」

「あ?なにがだ?」

「…ううん、なんとなく」


七色に輝く薄明かりに映し出されたおじさんの顔は、

なんだか悪夢を見た後の子供の様な危うい顔をしていた。


「…?、まぁいい、ぱっぱと帰るぞーーーー


次の瞬間、

おじさんの口から赤黒い液体が溢れ出てくる。


「おじさんっ!?」

「大丈夫だ…」

「でも…」


突然のことに驚いたが、

対照的におじさんは喉を抑え不可解そうな顔をしてはいるが、

たいして驚いた顔もせず口から血を垂れ流していた。

垂れ流された血は赤黒い絵の具をひっくり返したみたいに、

コンクリートの無機質な地面に染み込み広がる。

その色は赤いフードの人とおんなじ、

赤黒いながらも、もはや恐怖を覚えるほどに鮮やかな色だった。

人にも化け物にも、

善人にも悪人にも、

大人にも子供にも、

愚者にも英雄にも、

等しく流れる鮮やかな血だった。


「言霊のせいか、一言二言使っただけなんだけどな……」などとブツブツ呟いていたおじさんだったが、

ある程度考えがまとまってこちらに意識を回す余裕ができたのか、

私が心配そうな顔で見ているのを理解する。


「安心しろ、()()()()()()()()俺が1番よくわかってる」


おじさんはこのチカチカと目に悪い色の薄明かりでも、

ギリギリわかる程度に苦しそうな顔をしながらもいつもの調子で答える。


「…うん」

「……たっく、だから大丈夫だっつってんだろ。

そもそもガキに心配されるほどやわじゃねぇよ」

「だからガキじゃないもん!!」


自分の中にいる不安を打ち消すように精一杯張り上げた去勢の声も、

ビルから漏れ出た音楽や誰かの争い声の混濁のする表通りには届かず、

表通りと裏路地の境界線でかき消され雑音として送られる。

それでも近くにいたおじさんにはしっかりと大声で届いていたらしく、

おじさんは耳を塞いで忌々しげにこちらを少し睨む。


「それじゃあお前名前なんて言うんだ?」

「……名前?」


おじさんは話題を変えるためか何気なくそんなことを言ったが、

そういえば私は自分の名前すらも覚えていなかった。


「なんだお前名前ないのか?

たっくじゃあなんで呼べばいいんだよ」

「…なにがいいんだろう?」

「……………それじゃあ、明日までに考えとけ」


そう言いおじさんは私に背を向け近道を使うためか裏路地のさらに深いところへ潜る。

こんなところに置いていかれたらひとたまりもないので、

私も追いかけようとしたが、

歩幅が違うためか一向に追い付かず、

頑張って走ってギリギリ置いていかれない様にしがみついたのだった。


⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎


「あっそっか、それで帰ったらおじさんそのまま寝ちゃったんだ」


まだ少し眠気の取れない頭でやっとこさ私は今日のことを思い出し。

私は硬い畳の床で布団もかけず倒れる様になているおじさんの顔を壁から漏れれた薄明かりを頼りに覗き込む。


「…泣いてる?」


覗き込んだおじさんの顔は、

昨日のあの時よりもよっぽど怯えた、

まさに悪夢を見た子供の顔をしていた。

そしてその口から何かの言葉が漏れでいるが、

ガラガラとうるさい外の音が掻き消して聞き取ることができない。

私は顔を傾け自分の耳をおじさんの口に触れてしまいそうなほどに近づける。


「…ツクモ……」


掠れて消えてしまいそうなほどに弱々しい声で、

まるで懺悔をするかの様にその名前は呼ばれていた。


「ツクモ…?」


別に何か確証があったわけではないが、

なぜだかそれが人の名前であるとすぐに理解することができた。

もちろんそんな名前は知らない。

なんなら私はおじさんに拾われて以降の記憶なく、

さらにおじさんからもちゃんと名前を聞いていなかったので、

実はこの名前は初めて聞いた人の名前だった。


「…いい響き!」


私はどこかしっくりとくるその言葉を連呼していたが、

そこでおじさんに名前を決めておく様に言われてたことを思い出した。


「ねぇねぇおじさんおじさん!」


私は先ほどのおじさんの悲しそうな顔をも忘れ、

硬い畳の上に倒れ込むおじさんの上に座ってピョンピョンと跳ねて起こそうとする。


「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛………………誰だよ」

「私だよ、わ、た、し!!」


半目で起きたおじさんは心底眠そうな顔で寝ぼけたことを言うので、

私はおじさんに思いっきり顔を近づけて大声で叫ぶ。

おじさんは両手の人差し指で耳を塞ぎながら、

たまたま視界に入ったのか街灯の薄明かりの漏れる壊れた壁を見つめる。


「あぁ、そういやそうだったな」


寝ぼけながらも昨日のことを思い出したらしく、

ボーと天井を見つめそんな寝ぼけた声を出す。


「忘れないでよ!私を養うの大事!」


精一杯叫んだ私の声は壊れた壁から漏れて大して静かじゃない夜の闇へと流れていった。

おじさんはそんな私を無視して起き上がり、

まだ少し寝ぼけながらもシンクとビニール袋を広げたゴミ袋しかない台所に向い歯磨きをし始める。

しかし何か違和感を覚えたのか途中で歯磨きをやめ、

置いて買ったコップに水を入れてうがいをし、

シンクの底へ向かって口の中の水を吐き出す。

しかし口から出てきた水は絵の具で染めた様に赤黒く、

その様子は明らかに健康的なものではなかった。


「お、おじさん!?」

「…だから、おじさんじゃねぇ………それり大丈夫だ。

たっく、お前いつも心配してばっかだな」

「だっておじさんがいつもボロボロなんだもん!」


人が心配しているのに呆れ顔をするおじさんに私は腹を立ててそっぽをむいた。


「今回のはただ昨日吐血したのをそのまま放置して寝ちまっただけだよ」

「…吐血したのってあの変な攻撃のせい?」

「あ?まぁな、前は1、2回使ったくらいじゃここまでならなかったんだけどな、

最近は使うどころかろくに戦闘もせず楽な依頼ばっかやってたからな」


おじさんはあらかたうがいで血を出し切ってから再び歯磨きをし始める。


「依頼?」


おじさんは少しめんどくさそうな顔をしながらも始めたばかり歯磨きを再び中断し話し始める。


「……陰陽堂って言うまぁ…何でも屋みたいなところがあるんだよ。

それでそこの一員になると陰陽堂に集まってきた依頼を受けることができて、

それを無事終わらせれば依頼をした人から報酬がもらえるんだよ」

「へぇ〜」


おじさんはゆうことだけ言って再び歯磨きを再開する。

もっと喋っていたかったが、

いっこうにおじさんの歯磨きが終わらない気がしたので黙っていることにした。

しかしあまりにも暇だったので何か面白いものはないかと家をキョロキョロと見回した。

とは言ってもこの部屋はただでさえ狭く大したものも置かれてない上に、

昨日あらかた見終えたので大して気になるものもないと思ったのだが、

ふと戸棚が視界に入る。


(あれあそこの戸棚前見た時は変なお札が貼ってあったのに、

ていうかあのお札どこかで見たことがあった様な…)


私が戸棚に近づき開けようとした時、

歯磨きをしながらおじさんがわたしの襟を掴み再び戸棚から引き離す。

そのあとおじさんはふたたびシンクへ向かい口の中に溜まった唾液を吐き出し、

数回うがいをしてふたたびこちらを見る、

と思ったがどうやら見ていていたのは近くに放り置いてあった刀だったらしく、

その刀を手に乗ってたら玄関へ向かう。


「おい、お前も行くぞ」

「どこに?」

「さっき行った陰陽堂だよ。

まぁ1番近い支部だけどな」


それだけ言っておじさんは少し立て付けの悪いドアをガタリと開け外に出ようとする。


「あ、ちょ待って」


わたしは大慌てで起き上がり、

ペチペチと音を立てながら走って後を追いかける。


「あとそうそうおじさん」

「だからおじさんじゃねぇって………もぉいいや」

「私ね、名前決めたの!」

「名前ぇ?そういや決めるよう言ってたっけな」

「うん、ツクモって名前にしたの!」

「!?、お前…どこでそれを….」

「おじさんが、寝てる時にそう言ってたんだよ」

「…そうか、言ってたか…」


おじさんは苦虫を噛み潰したみたいな顔を隠す様に、

私からそっぽをむき歩き出しアパートの一階へ向かう。

うなされている時よりもよっぽど怯えていて頼りなかった。


「おじさん、大丈夫?」


なぜだが私の心を抉る様に突き刺す感覚に襲われた。


「……大丈夫だ…ほら、ぱっぱといくぞ」


気づくともうおじさんは一階まで降りていて私は急いで後をついていく、

すると頼れる光が街灯しかなかった道のりは次第に極彩色へと色付けられていった。


⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎


ーーー極彩色の光と夜の帳が互いに存在を喰い合うこの場所、

正式名称は貧民街第47特区、この場所は大まかに4種類の道がある。

店の看板やスピーカーから漏れ出た後でガヤガヤと五月蝿く、

比較的広い道幅をしている(それでも十分狭い)表通り。

表通りから分岐するようにでき、

木の根よりも複雑に絡み合った建物と建物の隙間とも言える裏路地。

どっかのバカが逃亡用に下水管沿いに作った、

裏路地なんかよりももっと入り組んでて不安定な形状をした下水道。

そして、裏路地にまばらに点在する真の意味で規則(ルール)道徳(倫理)もない、

本当の意味で終わりを迎えたものたちの集まる道、漁り場。

とまぁこの4種類の道があるのだが、

普通に暮らす上では表通りと、

表通りから近い場所にある裏路地くらいしか行かず、

大した意味もなく他の場所に行くと冗談抜きで死にかけない。

そして今俺は表通りを道なりに歩いているのだが、

この表通りはこの場所で唯一と言っていいほどまともに明るい場所であり、

人通りも多く比較的安全な場所となっていた。

俺の後ろではガキが小走りでついてきており、

あまりの歩幅の差があるのか少し速度を落として歩いてもついてこれず、

結局走ってついてくる羽目になっていた。

俺は大して気にも留めずペタペタとガキの足からなる音を聞き流しながら歩いていたのだが、

突然服の後ろが引っ張られる、

どうやら疲れたガキは俺につかまって引っ張ってもらおうという魂胆らしい。


「おい、つかまるんじゃねぇ」

「だって疲れたんだもん」

「……はぁ、だったらせめて地面でも見てろ」

「?」

「お前今裸足だろ?

いくら表通りとはいえなにが落ちてるかわかんねぇぞ」


ふと後ろを見ると青い顔をして慌てて看板から放たれる光で、

虹色に薄く色づけられた地面を見下げるガキが視界に映り、

その滑稽な様子に自ずと口角が上がる。

それからもう少し歩いて、

歩いても一向につかない支部の遠さに少しばかり嫌気が刺し始めた頃、

目の前から黒くなった牛の角みたいのを生やした男が小走りで向かいからやってくる。

危うくぶつかりそうになったところで俺は少しガキを引っ張りそれを避ける。

男は一瞬少し速度が落ちたが、

「チッ!」という舌打ちと共に再び速度を取り戻し表通りの道なりに去ってゆく。

おそらくぶつかったついでいでに俺から財布か何かスルつもりだったのだろう。

この場所ではよくあることだったので俺はあいつスルの下手だったなぁ程度にしか思わなかったが、

いきなり引っ張られたガキは大半ご立腹だったようで、

睨みつけているつもりなのだろう幼子そのものの特に覇気のない目つきで俺を見つめてくる。

しかしその感情はどうやら先ほどの男の容姿への好奇心に上書きされたらしい。


「ねぇねぇおじさん、

なんでこの道にはおじさんみたいな人とおじさんみたいじゃない人がいるの?」

「あ?俺みたいじゃない人?

…あぁ(あやかし)のことか」


俺の隣をまた別の人が通り過ぎる、

しかしそいつは背中から一本の腕が生えていて、

その腕でジュースを持ち飲みながら歩いていた。

その見た目はとてもじゃないが"人間"と呼べるものではなかった。


「なんでいるのっつっても、

どこいっても妖はいるからなぁ」


俺は適当にガキの言葉をあしらいつつ、

久しぶりに意識したその存在について少し考える。

妖、人ならざる人と表現するべきか、

人と同等の知能を持っていて人よりも優れた肉体を持つ、

極端に言ってしまえば人の上位互換とでもいえていまうか…

昨日の赤いフードの奴もこのガキもおそらく妖だ。

人の肉体は大まかに構造は一緒だが、

妖は個体によってそれぞれ違った力や体の構造をしている。

昔は人対妖で結構荒れていたが今じゃあ普通にお互いそこら辺をほっつき歩いてる。

まぁそれでも結局お互いに特に人間には誰しも無意識的なレベルで、

妖への負の感情は持っているのだが。

にしても人と妖の争いか…懐かしいなぁ、

俺がもっと小さかった頃にはまだ続いてたっけな、

てことはまだ10年くらいしか経ってねぇのか、

もうとっくに昔はそんなこともあったらしいよくらいの話になってるんだけどな。


「インヨウドウ?

おじさん、目的の場所ってあそこ?」


ガキはふと前を見た時に視界に入った陰陽堂のでかい看板を指差しながら俺の服を引っ張る。

そこはギラギラと虹色の光を撒き散らした雑居ビルに挟まれているのに、

周りの建物と比べて蛍光灯の白い光しか漏れていないせいか、

相変わらず異様な存在感を放ったこの場所にはそぐわない木造建築の建物があった。

さて、いつもなら仕事を探すのがメインだが、

今日のメインはそれじゃない。

"純白正教『純粋』"知っているのは名前とせいぜい白龍を復活させるという推定当面の目標だけ、

しっかりとした教義も活動内容も全く分かっていない。

あいつらの目的であるガキは今は俺の近くにいるから、

ぐだぐだしてる間に奴らが目標を達成するなんてことはないだろうが、

わからないことが多すぎる、

流石に焦るべきか。

そして俺は服のガキが引っ張っている部分を引っ張り返し、

ガキを急かしながら白く眩しい建物の中へと暖簾をくぐり入って行った。

一歩でも

進めたのなら

それでいい

いつか必ず

たどり着くなら

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― 新着の感想 ―
ツクモでてきやがったー。 それにしてもなんだ最後の五七五七七……なんか無念笑。 てか妖の見た目よ。なんだ背中から腕生えてるって。不意打ちに対して強そう。 地の文が地の文らしくなってきたのはものすごく良…
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