スプリングパーティーのこと(2)
「かわいらしい新入生がいらっしゃって、わたくしは嬉しいと思っていますの」
リーザレインが、キャンディに寄り添いながらニコニコと笑った。
「ああ、そういうことならわたくしの方だって、真面目そうな方がいらして安心しているわ」
トーヴァも負けじとメアリーに寄り添う。
「真面目……まあ、真面目でいらっしゃるかしらね……」
アリッサムはマイペースなメアリーをちらりと見た。
「でも、今年の黒の新入りさんはどうにも陰気でいらして」
「アリッサム、口が悪いでしょう。メアリーさんは思慮深いお嬢さんだと思うわ」
ロベリアは慌てて庇い立てた。
「キャンディさんだって、お顔立ちはよろしいけれども……」
ロベリアも、マイペースなキャンディをちらりと見る。
「かわいらしいっていうより、ちゃらんぽらんじゃない」
「ロベリア、口を慎みなさいね。キャンディさんは無邪気なだけよ」
アリッサムも、負けじと庇い立てた。
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王立ヴェルザンディ魔術学園の生徒会役員は、同学年の生徒による投票で決まる。
つまり、言ってしまえば人気投票だ。
昨年の新入生、つまり現在の2回生の場合。
白魔術師の中でも群を抜いて人気があったのが“聖女”リーザレイン。
そして、黒魔術師から恋心にも似た熱狂的な視線を集めていたのが“王子”トーヴァだった。
なんなら一昨年、アリッサムとロベリアが選ばれたのだって同じような理由だ。
アリッサムは白魔術師たちから、ロベリアは黒魔術師たちから絶大な人気を集めている。
……しかし、今年の新入生で最も人気を集めたのがキャンディとメアリーだというのが、どうにも分からない。
正直、成績優秀な1回生はほかにもたくさんいる。
魔術のスキルがひときわ優れている生徒も、容姿が端麗で目立っている生徒も、とびきり家柄のいいご令嬢もたくさんいる。
「わたくひ、お友達から人気ありますわよ」
チーズケーキをもぐもぐと食べながら、キャンディが言った。その品の無さにロベリアが眉をひそめるが、キャンディは気にせず話を続ける。
「それに、メアリーさんは情報屋さんですもの。黒の方々って調子がよろしくって、メアリーさんが集めた情報に頼りっきりなんだから」
「情報?」
アリッサムが問い返した。
「メアリーさんは何でも知ってますの。先々の授業の課題とか、テストの範囲とか。生徒同士の関係性とか、先生の秘密とか。こそこそ集めた情報で、メアリーさんは黒のお友達の気を引いてらっしゃる」
サンドイッチに手を出しながら、キャンディがつらつらと説明すると、
「校則や法律に……反することは、やっていませんので……」
ようやくメアリーが口を開いた。
「知り得たことを、皆さんに、お伝えして……仲良くやっています」
「興味深いね」
引っ込み思案なメアリーの弁明に答えたのは、トーヴァだった。
「今度、教師の秘密とか教えてくださる?」
そういってウインクする。学園中の黒魔術師を虜にしてしまう王子様のウインク。だが、メアリーに臆する様子はなかった。
それでも、こくりと頷くその表情は、少しだけ嬉しそうに見えた。
「キャンディさんが白のお友達から可愛がられているのはおそらく、魅了の力ですわね」
紅茶を飲みながら、リーザレインが言う。
「魅了?」
アリッサムが首を傾げると、リーザレインはゆっくり話し始めた。
「キャンディさんの白魔術は、常にキャンディさんの体を取り巻くみたいに発動しているんです。それが魅了というか……周りの方がつい気を良くしてしまうような、甘くて柔らかいオーラで……こういう方は珍しいです。普通は、白魔術をずっと発動させるって、とても難しいので……」
「へぇ……!リーザさんにはそれが見えるのかしら、さすがは聖女ね」
感心したようなアリッサムの声に、リーザレインは恐縮したような表情を見せた。
「ふぅん?そうなんですの?」
たまごサンドを食べる手を止めて相槌を打つキャンディ。アリッサムとリーザレインはクスリと笑う。
「ご本人が分かってらっしゃらないなんて……どうにもちゃらんぽらんね」
ロベリアが頭を押さえた。