スプリングパーティーのこと(1)
ある日の授業が終わって、黄昏時が訪れた頃。
白魔術師たちは木々にイルミネーションを灯す。
黒魔術師たちは地面に置いたランタンに炎を灯す。
学園は色とりどりの淡い灯りで幻想的にライトアップされた。
幽玄を醸す庭園は、どこかよそ行きの雰囲気。
スプリングパーティーは、高等部新学年最初の大イベントだ。
春の花が咲き誇り無数の光がきらめく華やかな庭園を、白い制服と黒い制服の生徒たちが楽しそうに行き交う。
好きな場所で語らいの時間を過ごしたり、軽食やお菓子をつまんだり。
ブラスバンド部やコーラス部、オーケストラ部の演奏に合わせて踊ったり。
パーティーと銘打ってはいるけれど、実際はのんびりとした交流会のような催しとなっている。
生徒会主催のイベントとはいえ、スプリングパーティーは生徒全員で作るイベントだ。生徒会役員だけが特別忙しいということはない。
だから、アリッサムとロベリアはイベントが落ち着いた頃を見計らって、とびきり大きな桜の木の近くに椅子を6脚用意する。それに、お菓子や飲み物も。
せっかくだからと、役員6人でゆっくり語らうことにした。
白魔術師と黒魔術師は敵対している。
だけど、ときには休戦してコミュニケーションを取る時間があってもいいだろう。
「去年の新入生は分かりやすかったのよ。きっとあの2人が生徒会にお入りになるだろうなって予想していたら、思った通りの2人がいらっしゃった」
アリッサムがアイスティーの氷を揺らし、一年前を懐かしみながら言う。ロベリアも賛同した。
「それはそうね。聖女様と王子様は、とにかく目立ってらっしゃったから」
「ふぅん」
話を聞きながらチョコレートブラウニーに食いついたのは今年の新入生、白魔術師キャンディだ。
その横にはおさげ髪の静かな少女、黒魔術師メアリーの姿もある。
「ふぅんじゃないのよ。今年の新入生は分かりにくいって話をしているの」
ロベリアがちくりと嫌味を言うが、
「お褒めにあずかって光栄ですわ」
軽く受け流しながら、キャンディはプレッツェルに手を伸ばす。
「わたくしはそんなに、目立つということはないと思いますけど……」
アリッサムの隣にいた白銀の髪の少女が、少し困ったように微笑んだ。
肩の高さで切りそろえた美しい髪が、イルミネーションの柔らかな光を受けて、キラキラと輝いている。
「謙遜なさっても、2回生の白魔術師たちがリーザレインさんに心底惚れこんでいるのは事実でしょう」
アリッサムは白の下級生、白魔術師リーザレインを褒めそやす。
「聖女とまで呼ばれるあなたの白魔術は、やっぱり格が違うわ。特に癒しの力においては、学園で右に出るものはいませんもの」
「……アリッサムお姉様、光栄です」
リーザレインは褒め言葉を素直に受け取り、白銀の髪を揺らして花のように微笑んだ。
「そうは言ってもね、アリッサム。トーヴァさんだって2回生じゃ群を抜いて目立ってるのよ」
コーヒーを一口飲んだあと、ツンとした態度でロベリアが反論する。
「闇魔法の剣術の腕前は目をみはるほど見事だわ。それに、なにしろ血統から違うのよ。トーヴァさんは王家の跡取り、正真正銘の王女様ですもの」
「王子様でしょう」
アリッサムが口を挟んだが、張本人は余裕の微笑みを見せた。
「ロベリアお姉様に褒めていただけるなら、わたくしは王女でも王子でも構いません」
黒魔術師トーヴァのハンサムな微笑みは、王子様そのものといった風情だ。彫りの深い顔立ちに、アッシュグレイの短髪がよく似合っている。
「で、それを踏まえて今年の1回生よ」
「そうね……」
アリッサムとロベリアは、一心不乱にお菓子を食べているふわふわの白魔術師と、気配を消すように黙りこくっている黒髪おさげの黒魔術師に目を向けた。