進級テストのこと(1)
「ところで、キャンディさんは朝からどうなさったの?」
アリッサムは優しい声をかけつつ、白の制服をまとったふわふわの女の子に歩み寄った。
この下級生は生徒会室まで駆けてきたのかもしれない。服装が少し乱れている。
「生徒会の会合は放課後だけよ。朝は来なくてもいいの」
そう言いながら、彼女の真っ白なリボンタイを整えた。
「それから、身だしなみはきちんとね」
王立ヴェルザンディ魔術学園は、良家の子女ばかりが通う学校だ。
その高等部3回生からは、2名の生徒会長が選出される。
今年の生徒会長は、白魔術師から圧倒的な支持を得たアリッサムと、黒魔術師から圧倒的な支持を得たロベリアだ。
「1回生はまだまだ活動に慣れないでしょうから、無理しないで」
そして、2回生と1回生からも、それぞれ2名の生徒会役員を立てることになっている。
今年入学したばかりの新人役員の1人が、このふわふわ白魔術師だ。
「でも、アリッサムお姉様に会いたかったんですの!」
“期待の新人”キャンディは、夢を見るようなキラキラの表情でそんなことを言った。
「白のお嬢様は甘ったれてますこと」
ロベリアが横から口を挟むと、キャンディは軽く受け流した。
「まあ!黒の方々のお味は酸っぱくていらっしゃるのかしら」
この娘は無邪気な顔をして毒を吐く。上級生だからと怯んだりしない。
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「そうそう、アリッサムお姉様。進級テストの順位が貼り出されているらしいですわ」
キャンディがふと思い出したように言った。
「そうね……」
アリッサムは空返事をする。
正直あまり興味はない。
学年の切り替わりにあたって受けさせられたテストは既に返却されている。
今回は100点満点のテストが5教科。そして、いつもと同じように自分は満点を取ったのだ。
そして、すぐ近くにいるロベリアもきっと満点を取っただろう。
1位の枠には2人の名前が並んで記されているはずだ。分かりきったことをいちいち確認してもしょうがない。
とはいえ。
「うーん。せっかくだし一応、見に行ってみましょうか」
自分たちの茶番を一般生徒たちに見せるための、いいネタになるかもしれない。
「ま、どうせわたくしの勝ちに決まっているのですけど」
生徒会室を出て、廊下を歩きながらそう呟けば、ロベリアも黙ってはいない。
「まさか。今回はすみませんけれどわたくしの勝ちですのよ」
茶番はもう始まっている。
「ところで、キャンディさんは何位でいらしたの?」
階段を下りながら、気まぐれにロベリアが尋ねると、
「ノーコメントですわ!」
間髪入れずに元気な返事が飛んできた。
その掲示物には生徒の名前がずらりと並んでいる。圧巻だ。
とはいえ、アリッサムとロベリアが確認するのは頭の部分だけでいい。
「わたくし、今回も500点満点でしたの……」
順位表の前で胸を張ってそう言ったアリッサムは、そのまま凍りついたように動きを止めた。
「あら!じゃあわたくしの勝ちですわね」
ロベリアの華やかな声が飛んでくる。
なんということだろう!
「ど、どういうこと……」
言葉を失う。それもそのはずだ。
アリッサムの名前の隣には「2位 500点」と記されている。
そして、ロベリアの名前の脇には「1位 501点」なんて文字が燦然と記されているのだ!