クラブ活動のこと(2)
年齢が1つ違いの生徒会役員同士は、姉妹のような関係性になりがちだ。
アリッサムだって、ジュリエラを本当の姉のように思っているし、“聖女”リーザレインは妹のように可愛い。そしてロベリアにも、姉のように慕うリネという先輩がいる。
1歳違いのロベリアとトーヴァも仲はいいが、彼女たちの関係性は少し特殊だ。姉妹や友人というより、戦友と表現するほうがふさわしい。
なにしろ、彼女たちは4年以上にもわたって黒武術部で腕を磨く仲なのだ。
2人が睨み合う。
武道場を、張り詰めた空気が支配した。
先に地を蹴ったのは、ロベリアだった。
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ロベリアとトーヴァの対戦をアリッサムが見るのは、これが初めてではない。
アリッサムは黒武術をするロベリアが好きだから、時たまこうやって“覗き見”をしている。
だからアリッサムは知っている。2人が戦うとき、先に攻撃を繰り出すのは決まってロベリアだ。2人には、何かそういう不文律があるのかもしれない。
初手にロベリアが選んだのは、大胆にも顔の高さを狙う蹴りだった。
しかし、こんなものを食らって倒れるほどトーヴァは弱くない。軽く顔を引き、鼻先すれすれで蹴りを避けてから、半身になったロベリアの背中側に大きく踏み込む。
バックを取られては不利だ。ロベリアは大きく飛び退り、一旦床を踏みしめた。その反動で渾身の前蹴りを放つ。
これを片腕で横に流すように受けたトーヴァは、踏み込んでアッパーを入れる。ロベリアは目の前で腕を組み、なんとか直撃を阻止する。
素人目に見ても、トーヴァの方が優勢だと思う。
王族の一員であるトーヴァは、幼い頃から武芸全般を叩き込まれたと聞いている。中等部から黒武術を始めたロベリアでは、本来相手にもならないはずだ。
しかし、それを差し置いてもロベリアは強いのだ。
「剣術ではトーヴァさんには勝てないのよね。でも、得物なしならまあまあ食らいつけるのよ」
以前、ロベリアがそんなことを言っていた気がする。今日は素手同士の戦いだ。勝機はある。
ロベリアは組んだ腕をそのまま振り抜いた。この攻撃がトーヴァの肩を揺らす。反対側から回し蹴り。これもうまくヒットした。
一旦防戦に徹したトーヴァは、隙を見て蹴りの攻撃を連続で放つ。すべて防ぐのは至難の業だ。ロベリアが防御にとらわれた隙に、トーヴァは上半身を狙って左足を斜めに蹴り上げる。
ロベリアの防御は間に合わなかった。
それでも、ロベリアは無様に尻餅をついたりしなかった。
たたらを踏み、体勢を立て直そうとする。しかし、あえなく片手と片膝が床についた。
勝負あったということだろう。トーヴァは戦う手を止め、ロベリアに手を差し伸べた。
ロベリアは悔しそうな、しかしどこか晴れ晴れとした表情でその手を取る。握手の姿勢のまま、2人は同時に叫んだ。
「ありがとうございます!」
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嫉妬がないといえば嘘になる。
ロベリアとトーヴァの関係性は独特なのだ。アリッサムがどう頑張っても、ロベリアからあんな表情を引き出すことはできない。
寂しいけれど、こればかりは武芸のできないアリッサムにはどうしようもない。
それにしても。
(ロベリアは、武術の道に進むのかしら……)
この国では、武芸の心得がある人材は重宝される。やはり花形は王城警護。それに、辺境の警備の仕事も人気がある。
なにしろ、彼女にはトーヴァというとっておきの伝手があるのだ。ロベリア本人が望めば、王城警護の仕事に就くことはたやすいだろう。
一方、アリッサムは武芸を習ったことがない。今のところ、自分の進路の選択肢に、王城警護や辺境警備は入っていない。
ロベリアがそういう道に進んだら、2人は離れ離れになってしまう。
アリッサムは手元の本を閉じる。ぱたり、という音がやけに耳に響いた。
考えても仕方がない。とりあえず、今日はかっこいいロベリアを見られたから良しとしよう。