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お料理のこと

「ヴェルザンディは、それなりのご令嬢たちが通う学園なのですけど……」

ぶつぶつと文句を言いながら、アリッサムは純白のエプロンを身につけた。


ここは家庭科室。

「アリッサムさん、はいボウル」

「ザルも出しておきますわ」

「そして、こちらがナイフ」

友人の白魔術師たちが甲斐甲斐かいがいしく調理器具を用意してくれる。


「もうちょっと、小洒落こじゃれた献立にならないものかしら。ケーキとか、クッキーとか」

文句を垂れつつ、ごぼうを握る。すると……、


「アリッサムは文句ばかりね。底が知れるわ」

カツンとヒールの音を立てて、ロベリアがアリッサムに言い放った。真っ黒いエプロンの裾がふわりと揺れる。


「淑女たるもの、どんなお料理でも手際よくこなせなくては駄目よ。まあ、甘ったれのアリッサムには難しいかしら?」

黒いおうぎを広げ、ロベリアはクスクスと笑う。

「ロベリアこそ、12歳から寮生活じゃろくにお料理の経験もないでしょう?まともな調理ができるとは思えませんけど?」

アリッサムはごぼうを持ったまま「おほほ」と高らかに笑った。



調理実習は断じて、「相容あいいれない相手との対戦の時間」ではない。

しかし、王立ヴェルザンディ魔術学園の3Aクラスでは今まさに、お料理対決が幕を開けようとしていた。

だって、白魔術師と黒魔術師は敵対しているから。


+++


白魔術師が使う光の刃は、あらゆるものを両断する力を秘めている。

「そんな聖なる力を使って、今日はごぼうを千切りにしていきますの」

アリッサムは口の中で魔術を唱え、目の前のごぼうに解き放つ。軽やかな音を立て、1本のごぼうが美しい千切りの姿へと変貌した。


「白魔術師は効率が悪くって。ねぇ?」

ロベリアは黒い制服を着た友人たちに話しかけながら、口腔内で短く詠唱する。

闇の刃を合わせて5本、空間に出現させた。

「こういうときには細かい刃を組み合わせて使うのが効率的でしょう?」

複数の刃を放てば、ごぼうは目を見張るほどの速さで細かく分断された。


刻んだごぼうを水にさらし、その間に人参を千切りに。

どうやらナイフ使いの手際は五分五分のようだ。


「アリッサムさん、炒める工程で差をつけるしかないわ!」

友人の助言を得て、アリッサムはフライパンに火を入れた。

「炎魔術なら黒魔術師の方が格上ですもの!」

友人にそう力づけられ、ロベリアも魔術でコンロに火を灯す。


油と根菜に熱を加えたことで、お互いのフライパンからいい香りが立ち昇った。


「ここまでは互角でも、味付けで差がつくわね」

アリッサムがそう言うと、

「そんなもの、勝敗なんて歴然じゃない」

ロベリアも負けじと言い返す。


2人は手元の調味料を、凄まじい速度でフライパンに投入し……。


「アリッサムさん……それは!!」

「ロベリアさん……さすがに入れすぎ……!!」


+++


2人はランチボックスの入った小さな手提げ袋を持ち、よろめくようにして放課後の生徒会室を訪れた。

扉をバタリと閉める。しばし、2人だけの時間を過ごせそうだ。

しかし、お互いの表情は冴えない。


「こちらが、わたくしの手料理。お砂糖がたっぷり入った、甘いきんぴらごぼうですわ……」

「こっちはわたくしの手料理。お醤油をたっぷりたっぷり入れた、しょっぱいきんぴらごぼう……」

「おいしい手料理を、ロベリアに食べていただこうと思ったのに……」

「わたくしだって……アリッサムにこれ、食べていただきたかった……」

それだけ言うと、2人はうなだれた。


しばらくしょんぼりしていた2人だが、やがて、

「まあ、構わないわ」

ロベリアが急にそう言うと、アリッサムの手からランチボックスを奪った。


「ちょっ……駄目よ、それ本当に」

「いいの」

お箸をつけて一口。それから、ロベリアは笑った。

「ん、ふふ。本当に甘い!」


アリッサムが砂糖壺をフライパンにぶちまけるのを見ていた。おっちょこちょいなアリッサムが可愛くて、にやけてしまいそうになった。危なかった。


「なによ!」

アリッサムもロベリアのランチボックスを開けて、お箸を突っ込んだ。一口食べて破顔する。

「塩ッからすぎるわよ。もう!」


ロベリアは最後の最後で油断したらしい。お醤油を瓶ごとお料理にぶちまけたのだ。何でもそつなくこなすのに、たまにああやって大失敗をする。そのギャップがいい。



「あーあ。今日は大失敗」

「ホント、大失敗ね」

でも、お互いの失敗が本当に愛しくて、2人はクスクスと笑い続けた。


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