プロローグ:2人の不思議な関係(1)
「大好きよ」
柔らかい腕の中。
「わたくしもよ」
魂が震えるその言葉に応える。
至福のひととき。
2人の特別な関係は、誰にも内緒。
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「あらぁ、アリッサム。ごきげんよう」
ドンッという重めの衝撃のあと、高飛車な声が飛んでくる。
学園のエントランスで盛大にぶつかってきたロベリアを、アリッサムは避けなかった。
わざとだと分かっていたから。
「アリッサムは真ぁっ白白で存在感がないからわたくし、気付かずうっかりぶつかってしまいましたの。ご容赦くださいませ」
ぶつかってきたロベリアは、凛と澄んだ声でそう言い放った。それから、漆黒の扇を広げて、「うふふ」と上品に笑う。
深いブラックを基調とした制服は、ロベリアのつややかな黒髪によく映える。
アリッサムは純白のハンカチを取り出し、ぶつかられた箇所をパタパタと叩いた。
「まあロベリア、ごきげんよう。あなたがいくら真ぁっ黒黒だからって、透明感あふれる白魔術師に嫉妬なさらなくても、ねぇ」
口の端を上げて可愛らしく言い、少し首を傾げる。
清いホワイトを基調とした制服と、透けるように美しい金色の巻き髪の相性は抜群だ。
アリッサムの可憐な声を聞いて、真っ白な制服をまとった取り巻きたちが「その通りよ」「さすがですわ」とざわめき始めた。
しかし、あちら陣営も黙っていない。ロベリアの背後に控えた黒い制服の生徒たちが「まあ、なんて言い草」「やっぱり白は生意気ね」などと言い合っている。
白魔術師と黒魔術師は、敵対している。
その敵対関係は学園内に限らない。
国内の白魔術師と黒魔術師は、ほぼ例外なく敵対している。
白魔術師は黒魔術師が嫌い。
黒魔術師は白魔術師が嫌い。
だから白魔術師アリッサムと黒魔術師ロベリアも、敵対関係を保っている。
こうやって日夜、相手をこき下ろす口論を続けているのだ。