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やって来たのは疑い深い優男

「よ。随分と熱視線じゃねえか。そんなに見つめられちゃあ困っちまうぜ。おいらたちに用かい」


「やあ、いい天気だね。君たち、朝からずっとここに居るようだけど。さっきのお侍とはどんな仲なんだい。僕が少し席を外した隙に周りは動くが、君たちは動かないままときたもんだ。そうすりゃ気になって見つめてしまうのも人のサガってね。ね、一体何をしているのかな。もしくは人か事件が起きるのを待っているのか……」


「藪から棒になんだなんだ、くるくるぺちゃくちゃよく回る口だな! え、おいらたちが何をしてるかって?」


「そいつは簡単、この茶屋の店主に店番を頼まれたのだ」


「へぇ、そいつは奇妙な人もいるもんだ。随分と戻りが遅いんだねえ。客人だけ残してさ」


「確かに遅い」


「むう、道が混んでいるのかも知れぬな」


「買い出した先が立て込んでいるのかも」


「それか探し物が見つからないとか?」


「何を買いに出てきたか忘れたとか。おいら、たまにソレやるぜ」


「オレも釣りに出たのに釣り道具を忘れて舟に乗り出したことがある」


「うーん、そいつとこいつとは違うような……まあとにかく、おいらたちは店主の代わりに店を守ってンのさ」


「へえ、そんじゃ、兄さんたちは健気に店主を待っているんだ。二人は常連なのかな、この店の? いやいやどうかな、僕にはそうは見えないけどね」


「別に、たまたま今日用事があってここに来たら、もののついでだと頼まれたに過ぎない。なあ、春兵ヱ」


「そうそう、秋親の言う通り、おいらたちはただ待ち惚けなのさ」


「なるほど、なるほど。それでさ、話を戻そうよ。二人はさっきのお侍とはどんな仲なのか教えてくれるかい。おっと、知らないフリは無用だ。君たち三人が話しているのは見えていて、遠目にも随分と楽しそうに見えたんだけど」


「楽しそう? さっきのあれがか、ええ? お前目が悪いんじゃないのか?」


「あいつ、おいらたちをばかだばかだと言葉を並べて満足して帰っただけだぜ!」


「あんれえ、そいつは失敬。僕、てっきりさあ……君たちあの人のお友達じゃなかったの」


「あんな失礼野郎とお友達なわけがあるかよ。おい、兄さんよ、てめぇ何が言いたいかをはっきりしやがれってんだ。あのお侍が気になるのか? 残念、聞くだけ聞いて名も名乗らずに帰っちまったから、オレたちにわかることはない」


「……ま、とりあえずはそれでいいや。何を聞かれたのか、詳しく教えてくれる? おっと、無論ただでとは言わない。教えてくれたら、二人には団子をご馳走しよう」


「残念、この茶屋にゃ団子も茶もなんにもねえよ」


「いやいや、他所でってことさ。なんなら酒でもいいよ。鍋でもつつくかい?」


「鍋……鍋か」


「二人はあのお侍に何を聞かれたんだい。ここだけの話、あのお侍が俺の捜している人にとっても似ていてさあ、行き違いになったのかなと思っていたんだが、さっき二人と話しているのを見かけてさ、慌てて駆けてきたが、すれ違いというわけなんだよねえ」


「むう、いやにあの嫌な男にこだわるな……」


「でも、酒かあ……」


「それなら田楽もつけよう。ど?」


「よし、乗った! あいつはただ、こんくらいの背丈の子どもを知らねえかとオレらに聞いたのさ」


「そうそう、男の子だよ。生意気な子どもを見なかったかと聞かれて、おいらたちは知らないって言ったのさ。そしたらばかだのなんだの、ひどいやつだ!」


「いくら自分で己を一刀斎与一胤栄韋駄天春信業平一休と称しても、あいつがゴトウ先生のはずがないのさ。ゴトウ先生にあるべき高貴さも、頭の良さも、これっぽちもない」


「……色々と気になるけど、とりあえず、あの侍は子どもを探していた。そんで、とにかく自分が多才で優れた人物であるかを君たちにひけらかすだけひけらかしたということか」


「その通り。ま、要するにあいつは子どもを探しているらしいってことしかおいらたちは知らないぜ。理由も特に言っちゃなかったけど、別に自分の子を捜しているって感じでもなかったよなあ」


「へえ、へえ? なるほど、そいつは助かる話だ。男の子を捜す胡乱な侍ねえ。そんで、君たちは本当に子どものことは知らないの?」


「露ほども!」


「これっぽちも!」


「まったくもって知らんな」


「まるきり知らないね」


「その勢いがいっそ怪しいな」


「まるで知らんぞ」


「ちっとも知らないぞ」


「しかし、よく考えて、ようく思い出してみておくれよ。もしかしたら見たかもしれないだろう? 走っていくこどもの背中とかさ、覚えていない?」


「まったく!」


「知らん知らん、知らんと言ったらオレらは知らんのだ。それともなんだい、てめぇがみゆきか? おりんか? まさかのゴトウ先生なのかよ?」


「……僕がみゆきに見える? おりんに見える? ゴトウ先生……は誰か知らないけど、残念、ゴトウでもない」


「ちぇ、本当に残念だぜ」


「さっきから話によく出てくるその、ゴトウ先生は何者なんだい」


「さあ……」


「聞かれてもなあ」


「知らない人なのか⁉︎」


「いや、ばかにするな! 基本的なことは知っているからな。とにかく剣も弓も槍も筆も巧みに操る武人で文化人で学者で高貴な身分の儲け話に聡い人ということはちゃんとわかっている」


「ええ……ああ、だから一刀斎がどうたら……」


「おっと、その顔、自分も知り合いたいって? 気持ちはわかるけどよ、こいつは順番だからな、兄ちゃん! 今日はおいらたちが儲け話を聞くんだ、ゴトウ先生に会うなら、明日以降にしてくれよ」


「いや、言いにいくいんだけど、それって騙されてるんじゃないかなあ……。ゴホン、とにかく、君たちはそのゴトウ先生を捜しているのかい。子どもやあの侍はビタイチ関係なしに」


「その通り。正確に言えば、オレたちは時が来るのを待っているのさ」


「そうそう。今日ここにおいらたちのところに来るはずなんだよ」


「だから朝からいんのか。君らも律儀というか、大変なことで……。それで、さっきの侍はゴトウ先生じゃなかったとして、ゴトウ先生でもなんでも、とにかくそれらしい怪しい人はいたのかい。ほら、読売にも子どもが拐かされたって書いてあったじゃないか」


「おや?」


「似たことをさっきも聞かれたな」


「誰にだっけか」


「冷や水売りだ」


「そういやあいつも朝からおいらたちを見ていたな」


「それに読売云々、拐かし云々って話もしていたな」


「あいつの話じゃ、拐かされたのはとある商家の丁稚だった気がするね」


「ふん、読売なんて適当なのさ。それにしたって、同じ話題に同じ質問か」


「しかし同じ話題とは、まさかお前は、あの水売りの仲良しかよ?」


「え、冷や水売り?」


「あそこにいるだろう、ほら、こっちを見た」


「……目が合ったね。うん、まあ……確かに、あの人は古い知り合いだけど」


「やっぱりな! 二人揃って同じような話をしやがるわけだ。知ってることはあいつに話したんだし、お友達から聞けよ」


「そうだ、ちょうどいい。あいつもこっちに来るぜ」


「どいつもこいつも暇人なのかねえ。朝から似た顔がうろうろちょろちょろ」


「きっとおいらたちにゃ言われたくないだろうな」


「なかろうが、しかし事実なのだから仕方ない」


「来た来た、おーい、水売りの兄さん、こっちこっち」


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