銃口に愛を叫べ
あなたには恋しい人が、愛おしい人が、一緒にしあわせになりたい人がいますか。例え世間からわたしたちの恋が赦されなくても、決断を非難されたとしても、貴方と一緒ならわたしは何も怖くないの。
さぁ、始めましょう。わたしたちのラストを。
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「……後悔は、しないね?」
わたしの好きな甘く優しげな低い声で不安を取り除くようにわたしには最終確認をするくせに、その言葉を言う貴方は辛そうで微かに顔を歪める。
「してないよ」
いまさら躊躇わないでと思いながら、きっぱりとわたしの意思が伝わるように直ぐにそう返す。と、貴方は一瞬だけ申し訳ない顔をしてから安堵した表情に切り替える。
わたしが後悔なんてするはずがない。だって大好きな貴方と、一緒に最期を迎えられるんだから。それ以上の幸せなんて無いでしょう?
カチャリ……と、彼は不気味な黒光りするソレを持って、一歩また一歩距離を縮めて私の元へ歩み寄る。
「ねぇ、ユミ」
あと一歩でお互いが触れられる距離になった時、貴方は口を開いた。
「……なに?」
「――愛してるよ」
数秒溜めてから、甘い言葉を落とした貴方。そして、今度ははっきりと顔を歪める。まるで、泣くことを我慢している様な表情。そんな表情をされたら、今すぐ駆け寄って抱き締めたくなる。
どうして今さら、そんなことを言うの? どうして今さらそんな表情をするの? あなたが愛してくれてることなんて、分かり切っているのに。
今、貴方が何を思っているのか分からないけれど、貴方の言葉に応えるようにわたしも言葉を紡ぐ。
「わたしも愛してる。あなたを凄く、深く。だから、一緒に幸せになりにいこう?」
わたしの言葉に突き動かされたのか、貴方はやっと躊躇いを捨てた。そして、貴方はわたしとの距離を一気にゼロにして、右手に持っているソレをわたしの方に向けながら首を縦に振る。
「ああ、幸せになろう」
極上の蕩ける笑みを浮かべて、ソレを持っていない左手でわたしの頬を優しく撫でる。それが嬉しくて、わたしもつい頬が緩む。
「じゃあ、始めようか」
暫く貴方と恋人の時間を堪能していたけれど、貴方のその言葉が合図となり、今さっきまでの甘ったるい雰囲気は一瞬で消える。
「さぁ、始めましょう」
わたしが頷くと、貴方はもう二度と躊躇うことなくソレをわたしに向けて構え打った。
――――バンッ!!!!!!
ソレの弾丸は大きな音と共に、わたしの心臓を目掛けてフル速度で貫く。ドロッとした赤い液体が口から噴き出し、下に引き寄せられるように前へ倒れ込む。
段々と意識が失われる中、貴方もソレを自分自身に発砲させ、わたひと同じ様になっていくのを視界の端に捉える。もう動かない身体の最後の力を使って、貴方が倒れ込んだところへ這って辿り着く。
貴方もまた、わたしの方へ手を伸ばす。お互いの手に触れたわたしたちは、顔を見合わせて最後に、
「「来世で、また」」
と微笑みながら言葉を遺した。
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「――続いてのニュースです。今日の未明頃、M県S市の山奥の小屋で身元不明の男女の遺体が発見されました。警察の調べによると、男性の遺体から遺書が発見され、2人は兄妹でありながら恋人同士だと綴られており、一緒に心中をした模様です。また心中する際に使われた凶器は、遺書から密輸した銃だということが分かりました。しかし、2人の身元を示す証拠は何処にもないため――」
2人が心中をして数日後。テレビの前でそのニュースを聞いた1人の少女は、最後までニュースを聞くことなく途中でベランダに出る。
「ユミ、しあわせになれた?」
少女は、前日に親友から聞かされた心中が成功したと知って、どこまでも続く青い空に向かって呟いた。少女は決してふたりの選んだ決断に賛同も理解を示すことも出来ないけれど、と思いながら。
『……うん、なれたよ』
しかしその問いに答える親友の声が、優しく吹く風と共にその少女の耳に届いた――。