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時空の秒針  作者: くらげ
プロローグ
1/1

1話

大切な人を失った貴方は問われるんです――。

時間を戻したくはないですか?と聞かれた時、貴方なら、どう答えますか?



最近の流行りと言う文化を日菜ひなは知らない。ただ、一時期だけではあるけれど、かなりのヒットを遂げた映画なら知ってもいるし、家族で観に行ったのは忘れもしない。そこで主人公は一人の少女に問われてしまう。大切な恋人を亡くした主人公は、時間を戻したくはないか?その言葉はただの序章にしか過ぎもしない。その言葉をきっかけに、主人公は生まれ変わる。という、そんな物語構成と有名監督、キャストが揃った作品だ。


(フィクションなくせに)


どうせ、全てのアニメやドラマ、映画なんかはただの作り話でしかなくて、どうせ現実世界では有りもしない様な偽造でしかない。


(嘘なくせに、どうして希望ばっか)


何度もどうしてかを問う。それも、答えるはずもないTVの前で。どうして、嘘なのにそこまでの希望を人間に、主には日菜に与えてしまうのか。


ざっと数えて三年前。突然、姉は姿を消す。それも、跡形も残らないまま、まるで神隠しの様に、つい昨日までは笑顔だった姉が、その姿を消したんだと思うと、少しゾッと 体を跳ねらせる。

警察官は悪ふざけか?と疑いを抱いて、お母さんやお父さんは姉の存在ですら、記憶には無いと言う。


(みんな、壊れちゃえばいいんだ)


その言葉を最後に、部屋の電灯は消える。寝ようとはしているけれど、あまり寝付けないまま、寝返りをうつ。息も少しは荒くなった。少しだけ蒸暑くて、日菜の体温は上昇し続ける。はぁ… 口から出るのは熱い吐息だけだった。


汗で肌が濡れるのは、気持ちが悪い。布団から立ち上がり、シャワーを浴びようと脱衣所では服を脱ぐ。下着も髪留めも、不必要な飾は全て、取り除いた。気持ちの良い冷たい水は、体温を冷まし続け、

もしもこのまま、息をしなかったらどうなるのだろう?なんて考えながら、日菜は胸をそっと撫で下ろす。


(私の生きている意味は、なんだろう)


口には水が入り込んで、咳込んだ。


……時間が戻るとしたら…。 なんてのは、実際には無いのなんて、知っている。日菜はそこまで、幼稚でもないからだ。というか、幼稚だとしても嘘だとは分かる。


《チク、タク。チク、タク》――


秒針の音が聞こえてきた。日菜はシャワーを止めると、お風呂場の戸を開けた。濡れた髪も、体もタオルで拭う。


《チク、タク。チク、タク》――


それはさっきよりも。秒針の音は大きく、まるで迫るみたいに音は聞こえる。それには何処となく、威圧感が備わっていた。



部屋の戸を開けた瞬間にも、それはまるで現実世界ではない様な、ただそれは言葉で表せない様な、感情が日菜の身体を包み込む。


ザーと、大きな音と共に、物凄い強風は部屋を走る。そして、布団や机なんかも宙を舞い、空間には不思議な穴が開けていた。その中はまるで、時空が歪んでいて、それは日菜の望む世界だと知る。


あの様に、問われるんだ。


「時間を、戻したくはありませんか?」


髪の長い白髪の少女だった。それを問うのは、日菜相手にだった。不思議な穴から姿を出す少女は、まるでフィクションの映画みたいに、日菜へ問う。


日菜には迷いが無くて、震える手を抑えて、息を飲むと、その次には言葉を出す。


「戻りたい」

「…そうですか それなら、戻ってみませんか?」


白髪少女は手を日菜に向けて差出すと、行こう。その言葉と共に、日菜の冷たい手を握る。目先に見えるだけの嘘か、本当かも定かではない希望だけに、日菜は歩みを進めた。


空間に存在していないはずの穴に足を入れると、別世界にでも繋がっているのか、地面が存在した。


「ここは、お姉ちゃんが消える一か月前?」


風景には見覚えがあって、スマホを見ても日付だけがバグっていた。


ここから先は、貴方の行動次第。少女はそう言う。日菜がどう動いて、姉をどう助けるか。

それから、映画での主人公は、恋人をどう助けていたか? それが日菜は思い出せず、ただただ分からなかった。けれど、もう一度会える嬉しさだけは、日菜にはあった。


「絶対に救うよ」

「救えると、いいですね。」



意味の分からない笑みを、少女を浮かべた。ただそれが、どういう意味かを追求はしなかった。日菜にとって、今はただ、姉に会えるだけでも良かった。ゆっくりと姉の背に近寄った。その為に、足があるのだと実感した。声をかけるために、口があるのだと知った。抱き着くために、手があるのだと思った。姉を見るために、目があるんだった。


日菜は力いっぱいに、姉の元まで飛び込んだ。


「んー? どうしたの、日菜 甘えん坊だね〜」


絶対に、離さないと決めてからも、秒針だけは動いた。


「ジュース飲みたい」

「自販機で買おっか お母さんには内緒ね」


お金を入れて、押した飲料が落ちる。

姉はフタを開け、日菜の口元まで運んだ。


「美味しい?」

「うん、美味しいよ」


それが、世界で一番美味しいと思えた飲み物だと思う。


「もう、家帰る?」

「帰らない」


姉の背に顔を埋めながら、日菜は初めて 我儘を口にする。


「んー そっかぁ。 少し、遠くまで行こうか?」

「うん」


もう今後、どうなろうと構わない。

どう世界が変化しようと、姉が生きていたら問題はない。日菜は姉の為ならば、全てを犠牲にだって出来ると思う。

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