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機甲科13班  作者: 来知
第一章 戦場に降り立つ少女
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発見

 夏至、陽が沈んでから行動する13班にとって、昼が最も長い時期などさほど関係なかった。

 冷房の効いた戦闘車両内。密閉された機体では熱がこもるため、空調がなければこの時期から蒸し焼きにされるといってもいい。

 哨戒任務は二班で構成される一小隊の三時間交代制で、13班は第七機動小隊の本日は前半を担当することとなっている。

 一七時からの出撃だが、まだ空は明るく、夜間行動が基本の特異生命体相手に戦闘がおこることはそうそうない。極稀に昼行性の個体もいるらしいが由良は会敵したことがなかった。

『それにしてもこの時間は退屈ね』

 湯浅が無線でぽつりと漏らす。それを欠伸で返事したのは串本だろうか。

『この時期の前半の班に必要なのは深部哨戒だからな。なるべく前進して、今晩侵攻してくる奴らの情報を入手することが大事なのだ。気を抜いてると見逃すぞ』

 高野は己を律するかのように、他班員にもこのまだギリギリ日中の哨戒の必要性を説明する。もちろんだが、それを理解していない班員というわけでもない。これは緩み始めた緊張を締め直すための説明。

『っと。蟷螂(マンティス)発見。仕留めますか?』

 広川が静かに報告してくる。

「広川、周辺に他の生命体は」

『同種数匹を確認。群れないはずなのに珍しいです』

「活動していないなら放っておいていい。今むやみに起こす方が厄介だ。警戒ポイントとして司令部に報告」

「了解」

 いまここで班員揃えて殲滅する手も考えられるが、他の特異生命体がどこにいるかも把握しきれていない。その段階で下手な発砲で奴らを起こしてしまうと、せっかく前進してきたこの道のりを大慌てで戻り、迎撃の体制をとらなければならないだろう。侵攻はまだ始まっていないなら、早めてやるメリットは薄い。ましてや、歩兵でも辛うじて凌げる蟷螂(マンティス)ならなおさらだ。

『こちら湯浅。一キロメートル先校庭、蝶(バタフライ)発見。周辺の捜索に出ます』

「了解。こちらでも確認した。該当生物はこちらで報告を上げておく」

 前線より先、人類がこうして機甲兵器や航空兵器を持ち出さないと安全の保障できないエリアの地図に報告のある目標を次々に記録していく。

『班長!人です!』

 だから、そんな場所にいるわけない存在に、由良は思わず「は?」と無線を返していた。


 湯浅からの報告で慌てて合流した全機は、その存在を確かに人だと認識する。

『いやでも、軍服も着てないし――民間人ですよあれ』

『民間人が、こんなところにいるわけが……』

『特異生命体はとうとう人までよこしてきたのか?』

『でもどこからどう見ても普通の女性よ?』

『なおさらおかしいだろ』

 と、各機から困惑の声が絶えない。実際班長である由良も困っていた。

「こちら13班よりHQ、民間人らしき人影を発見。対処法を乞う」

『――こちらHQ、観測を続けろ。対処法を検討する』

 司令部はそういって、こちらにすぐの答えをよこさない。これも初めての出来事。それだけの異例。

 それでも由良達は軍人だ。命令に従順な犬でなければならない。観測を続ける。

『おいおい、あの子蝶(バタフライ)に近づいていくぞ』

「HQ判断はまだか。人影が蝶(バタフライ)と接触しそうだ」

 慌てて司令部に判断を乞うが、観測を続けろと一蹴される。とうとう女性は蝶(バタフライ)の前に立つ。

 これ以上待っていたら女性が蝶(バタフライ)に襲われかねない。独断で動いてしまうか?

 いや、本当にヒトなのか?特異生命体との戦争が始まって、その脅威は中学生以上は身をもって知っているし、幼子だって親や教員に耳に胼胝ができるほど教え込まれているはずだ。わざわざこんな前線にいることや蝶(バタフライ)に近づいていく時点で、明らかにおかしい。

 であれば、高野の言う通りヒトの形をした新たな特異生命体なのか?

 しかし由良が出会ってきた特異生命体とは、その本来の姿より幾分か大きい生物ばかりだ。恐竜種はその体格をあまり変化させていないらしいが、体格がこれほどまでに小さい特異生命体は聞いたことがない。

 背中から冷や汗が吹き出そうになる。思考を凝らしても答えは出ない。ただ、観測だけはやめずにいた。

『こちらHQ、当該人物を確保せよ』

 やっとの指示。冷や汗を払うように機体を動かし、目標に近づく。

 外部スピーカーを有効にしつつ、人に聞こえる最小限の音量にとどめる。周囲の特異生命体を起こしては確保どころではなくなる。その時は――

 レバーをきつく握り、少し自分の手汗でぬめっとしていることに気が付く。

 一呼吸して由良は同い年くらいの少女に、声をかける。

『こちら国防陸軍。そこで何をしている』

 威圧的なセリフ。他班員には指示していないが、高野が由良機の横に、他湯浅・串本・広川が三方向から少女に銃身と砲身、視線を向ける。

 少女は諦めた表情を浮かべる。

『手を挙げてこちらに来てもらう』

 スピーカー越しに伝えると、少女は両手を上げる。

 機体に乗ったままでは確保なんてできないし、本格的な拘束具もないので搭載されている医療箱からテープを取り出し、これを使って拘束することにする。

 右足首に下げた5.7mm拳銃を軽くスライドし薬室に弾が装填されていることを確認。もう一つ車内にあるフルサイズ弾を使うブルパップ式のセミオートライフルも同じように確認し、車両を降りる。

 諸手を挙げたまま歩いてくる少女を照準の中心に捉えながら、こちらも数歩歩み寄る。

 近くで見たら実は人の顔などしてないのでは――なんて疑ったりもしたが、どこからどう見ても高校生くらいの女性の姿。疑りながら彼女の背後に立つと手早く腕をつかみ拘束する。

「痛っ!」

 顔をゆがめる少女に、由良は手心を加えられるほど心は落ち着いていなかった。

 ここは戦場。得体の知れない少女に、目の前には敵対する怪物。鍛錬しているとはいえ生身の状態。とても冷静ではいられなかった。

「こんなところで何してた」

「痛がる声が近くで聞こえたから」

 そう言って彼女は蝶(バタフライ)をちらりと見る。

 休止していると思っていた蝶(バタフライ)は実はそうではなかった。

 翅は穴だらけで、頽れるように倒れている。おそらく防衛線の対空砲にでもやられたのだろう。

「妙なこと言うな。あいつの痛がる声が聞こえた?」

 そんな声がするわけがない。この三年ほど戦場を闊歩して奴らと対峙してきた由良の経験がそういっている。それにそんな声がするなら軍で共有されていてもおかしくないだろう。狂言だ。しかし、ならなぜ彼女はここに?

 わからない。

 ただただ、由良は彼女を訝しんだ。特異生命体同士なら声がわかってもおかしくはないだろう。同じ人類を仇なす存在なのだから―― 

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