春日部進行作戦_進出①
天候は良好。メディカルチェックも問題なし。この任務のために哨戒もずらし、万全の休息を経て、三一式の機体内に乗り込む。
System Check......
Wepon System 1/33
Wepon System 33/33
Drive System 1/50
Drive System 50/50
......
System All Green
機体状態も異常なし。
二番機、三番機……通信接続。13班戦術ネットワーク構築。
第一輸送班、第二輸送班通信接続開始。
作戦開始時刻まであと1時間弱、今までとは違う任務とはいえ不思議と緊張感はなかった。
腰に携えたホルスターから、拳銃を取り出し眺める。いざというときはこいつが俺の命を絶つのだと、そうしみじみ浸る時間を不思議と享受したくなる。
『班長』
通信が入る。班で一番の賑やか師の串本が普段とは違い、重みのある声音で話しかけてくる。
「なんだ。まだ日の明るいうちから心配事か?」
『いやあだって……春日部の方って孤立するわけじゃないですか……鉄道も完全復旧しているわけじゃないから使えないと聞くし、特科も射程ぎりぎりと聞いたので前みたいに恐竜種とかが出てきたらと思うと……』
少しのどの震えた声。恐怖心が隠せていない。まだ正式に入隊して四か月も経っていない新人だ。彼らが参加した任務は先の恐竜種による強襲以外目立ったものはない。経験の差もあるだろう。しかし軍人として乗り越えてもらわないとならない。
齢15にして命の駆け引きを強いられるこの世界がいかに残酷かなんて説いている暇は俺たちにはない。そうでもしないと生き残れる未来がない。そういう世界になった以上やれるだけやらないといけない。どうにか鼓舞しないとならない……
「先の戦闘を思い出せ。俺たちは深手を負うことなく生還した」
こういうときほどやはり自分が班長という立場なのは不適切だと思う。しかし淡々と少しでも任務に集中してもらうための言葉をつなぐ。
「俺たちは期待されている。だからこそ最前線に配置された。事前偵察では脅威は少ないし、誘導作戦も実施された」
へたくそな説得だと思う。話しながら考える。どうすれば彼の恐怖心を和らげられるだろうか。
「大丈夫だ。戦うのは俺たちだけじゃない。お前だけじゃない。俺が生きている間は誰も死なせない。俺の実力を知らないお前じゃないはずだ。奴らだって生き物だ。倒せる。倒せば死なない。お前が倒せなくても俺が倒す。俺たちは生きて帰るぞ」
かつて自分も守られた結果ここに立っている。今度は俺が守る番だと自分を鼓舞しつつ、後輩に安心感を与える演説。しかしそこに確かな根拠など介在しない。それでも、少しでも自分を信じてくれるのなら、彼の心の奥底に眠る恐怖心を手折ることはできるだろう。
『串本大丈夫だ。みんなついてる。お前らしく、戦いを楽しもう』
高野が俺に続いて言葉をつなぐ。
『不安がっているなんて翔くんらしくないですよ~』
『串本、俺も、不安、だけど、なんとかなる――と思う』
次々とみんなが通信に参加する。一人で抱え込むより断然安心できる状況だ。人は一人だと感じるときほど弱くなる。共に戦う仲間を再認識すればきっと心は救われるだろう。
『そうっすね――そうだな。うん、そうだ。戦い楽しみます!』
気を取り直した串本はそれでも声の震えを隠せていなかったが、これが武者震いによるものに変わることを信じるしかないと、静かに目を瞑る。
「戦闘の基本指針は俺と湯浅が前衛に、後衛に高野、広川、串本は遊撃に――今回は掃討が目的ではないため、不必要な戦闘を行う必要はない。他班とは補給のタイミングでの交代とし、原則どちらかの班の手が空いている状態で戦闘を行う。ただし班長判断の救援要請には応じるものとし、その場合補給中であれば補給が完了後、そうでなければ直ちに他班の支援に出撃するものとする」
一晩中戦う可能性がある都合上、護衛部隊全員が戦闘状態にあるというわけにもいかないための作戦である。補給のタイミングは三時間おき。隊員の休息も含めて考えられた時間ではあるが、あくまでも何もなければが前提であるため、例外についても伝える。
作戦開始時刻まで半時もなくなり、整備士による最終確認も終了。燃料も弾薬も最大限搭載されたことを確認し、駐屯地正門へと機体を移動させる。
輸送車両群と軽装甲車両の前に機体を並べる。進行の先陣を切るのは俺たち13班の役目だからだ。
とはいえ、指揮車も同伴するため本当の先頭は無人偵察機部隊ではあるが……
いわゆるドローンで、航続距離の短さと通信範囲の狭さにより普段使われることは機甲部隊では少ないが、混成部隊となるときは珍しくない代物。
今回の混成部隊はトラックが多いため機動性は格段に悪い。三一式がこのトラックを直接防衛するとなると、持ち前の機動力を失ってしまうため、重機関銃搭載した軽装甲車両部隊が直掩に就くことになっている。また直掩にあたる歩兵にはライフルのみならず、無反動砲や擲弾といった爆発物も配備され、機甲部隊に劣るものの、軽武装としては充分な装備が与えられている。
万全というには少々戦力が少ないが、最大限用意できる中で努力された部隊だと考える。
今回の進行部隊もすべてが出揃い、少数ながらその光景は圧巻するものだろう。
日の光に当てられた車両が輝き、いよいよ出撃の時間になる。




