新任務④
「それでこの作戦を引き受けたんですか」
表情一つ変えずに作戦概要書を見下ろしながら、美浜は問う。
「仕事だからな」
「そうは言っても……」
「美浜には関係ないことだろ」
心配の面持ちを浮かべる美浜に対して、由良は冷たく突き放す。どういっても作戦は実行されるのだから、いまさら何を議論しても無意味だからだ。
「そう、だね。私には関係はない。前線で戦うあなたたちと私では立場が違う。だからこそ気になってしまう。私があなたたちにできることは何もない。せっかく仲良くしてくれた怜やみんなが帰ってくるのを待つだけだもの」
帰ってこない可能性とそのことに自分が何もできないもどかしさが滲みでるように、細い声でゆっくりと美浜は伝える。
――しばしの沈黙のうち、先に口を開いたのは由良だった。
「軍人としてやっていくならこんなことは普通だ。後方勤務である以上慣れてもらう必要がある。それに替えのきく搭乗員と、唯一特異生命体とのコミュニケーションが取れる可能性のある美浜とでは価値が違う」
その突き放すような言葉が美浜には特に堪えた。
「別に死にに行くわけじゃない。支援も受けられる距離だし、あいつらのほとんどは刺激しなければ大丈夫だ」
この作戦における数少ない安全といえるであろう箇所。こちらから積極的に交戦する必要がないこと。
哨戒任務では事前に接近する目標を駆除することも含まれているが、今回は設備の設置が完了すればいいので無理に戦う必要はない。
「大丈夫、必ず帰ってくる」
美浜の頭を軽く押さえて、由良はその場を後にする。
しかし美浜は納得なんて到底できなかった。進行した先で孤立する可能性は十分ある。必ず帰ってこれるとは限らない。きっと安心させたいだけの嘘だろう。その優しさでごまかされたことにより、もどかしさを覚える。
もどかしさを塗りつぶすように、彼らが無事帰ってくることを信じようと、ただただ今までにないほど無事を祈るほかなかった。
「大丈夫、怜達は強い。危険がいつもやってくるわけじゃない」
「そうだよ美浜さん」
そっと後ろから肩に手を置かれる。生身の手ではなく、固い義手。吉礼一曹だ。
「危険性の高い任務ではあるけれど、彼らならきっと成し遂げてくれる。信じよう。そして僕らができる最大限のオペレーションをして彼らを手助けしよう。祈るのも大事だけど、ただ待っているだけはつらいからね」
そう言って吉礼一曹ははにかむ。本当にいい先輩だと思う。
叶野はまだまだオペレーターとしては使い物にならない。管制室にいるのは偏にその特殊な能力が発揮できた時、戦闘部隊に大きく役に立つと見込まれているからに過ぎない。
「僕もこの手じゃなかったら一緒に行けたのになぁ」
「……吉礼一曹は、前線で戦いたいですか?」
「どうだろう。後ろは後ろでやれることあるし、楽しいというか、頑張れてるって気がするけど、やっぱり戦っている人たちを見送るのはいつだって心苦しいよ。僕がもともと前線にいたからというのもあるだろうけど、それでも僕より若い子たちが必死に戦っている姿は尊敬とともに負い目を感じてしまうよね」
極めて明るい口調だったが、どこか目はうつろだった。
「さっきも言ったけどだからこそ僕らは僕らの仕事をして彼らを支えるしかない。負い目を少しでも埋めるためにもね――そろそろ行こうか、作戦任務について僕たちもいろいろやらないといけないことがあるから」
「はい」
軽く背を叩かれ私は管制室へと足を向ける。ちらりと振り返った廊下には、怜の姿はもうない。
作戦が終わるまであうことはもうないだろう。だからこそきっと帰ってくると信じる。五人無事に――
「――日中に進行する輸送班には自衛火器として三二式小銃の配備をしています。また事前経路確認のためドローン部隊による最適経路確保。現状プロットされた経路は添付してある地図の通りです。実際の作戦では遭遇が見込まれる場合などにこの経路から外れますが、大きく変更する予定はありません」
「当該地域の特異生命体の状況は?」
「既に進行している誘導作戦により、大多数を当該地域から排除することに成功しています。ただ――」
「ただ?」
「誘導作戦により近辺に特異生命体が集ってしまうのは避けることができず、夜間目標の動き次第では激戦が予想されます」
――誘導作戦の内容は資料に書かれていた。軽火器武装した自爆ドローンにより威嚇し、誘導。自爆することで特異生命体を移動させるという手法だ。特異生命体の多くは音や光に引き寄せられる習性を持つと聞く。都市を襲いに来やすいのも人が暮らすうえで防ぎようのないこの二つの要素につられているからだと仮説が立てられている。
「この距離ではぎりぎり特科部隊の射程に入るかどうかだな」
「航空部隊を出してしまうのはどうか」
「エンジン音に寄せられて却って引き寄せかねないだろう。この作戦は討伐が目的ではない。隠密行動を基本とし、隠れ続けられるならそれに越したことはないからな。戦闘部隊はあくまでも保険に過ぎない」
「しかし撤退も許されない」
そう、接敵しても彼らに撤退という選択肢は与えられていない。機材の希少性とそもそも夜間も設置作業をすることで現地滞在時間を減らすという算段だからだ。
「支援部隊として待機分の機甲班を出撃させられるよう準備だけさせるか?」
「現地まで25kmほど、三一式の脚だと早くても30分くらいか……」
「救援要請の判断を早めにしてもらうしかあるまい」
「となると管制官にもかかってきますね。さすがに現場には余裕がない可能性もあるので」
「そうだな。吉礼一曹、美浜二士両名は13班との連携を密にし、適切に救援部隊の手配をするように」
『了解』




