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機甲科13班  作者: 来知
第三章 騒乱の果てに
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訓練②

 耳を劈く銃声。これでもイヤーマフをつけて銃声を軽減しているからましなのだが、うるさいことには変わりない。

 訓練用のターゲットプレートが次々と立ち上がり、正確に撃っていく。

 機甲科隊員に支給される5.7mmのストライカー式シングルアクション拳銃。拳銃としての携行性と対特異生命体用の外殻を貫くための小口径高速弾が採用され、野戦でも異物が侵入しにくい設計を取りやすい近年主流のストライカー式。ポリマーフレームを採用しているため銃本体はサイズの割に軽量。シングルアクションオンリーなので予め撃針を起こす必要があるが、シングルアクション故にトリガーが軽く、20発という弾数を打ち切っても指が疲れにくい。

 もっともこれを使うときは本当に最後の最終手段ともいえるほどの代物である。

 正式には対特異生命体用の護身拳銃とはなっているが、実態は前線でトリアージが黒の判断がなされるほどの重体に陥ったものへの最後の手向けとも噂されている。少しでも苦しまず逝かせるための――。

 ちなみに三一式にはライフルが車内に装備されている。

 こちらは正式実情ともに機体損傷などで生身になった時の攻撃手段だ。

 セミオート式の7.62mm弾を使う代物で、車載するためにブルパップ方式となっており、それまでの日本で採用されてきたライフルの中では変わった形をしている。セミオートの理由はフルサイズで反動が強いため、連射するとまず無駄玉を撃つことになるからだそう。

 美浜叶野を見つけた時もこのライフルを突き付けていた。彼女は結果的にヒトだったため、今思うとすごく危ないことをしたなと少し思う。けれど後悔も反省もしない。由良は自分の判断は正しかったと信じているからだ。

 あれで美浜叶野が特異生命体だったのであれば、真っ先に殺されていたのは由良自身なわけだし……。


 続けて引き金を引いていく。反動はマイルドだが、バカバカと無駄打ちすれば全く当たらない程度には安定性に欠ける。

 ガッとスライドストップがかかり、撃ちきったことを知らせられる。

「命中が10発ってところですか」

 横で様子を見ていた高野が声をかけてくる。そんな彼に無愛想に答える。

「こんなものだろ」

 由良は特に射撃が得意というわけではない。そもそも機甲科兵であり、銃の扱いは最低限でいいし、なにより特異生命体は的としてはデカい。最後の抵抗として使うなら引き金が引ければそれで充分ともいえる。

 マガジンを引き抜き、スライドストップを解除し、ピンを戻してホルスターに収める。トリガーセーフティなため、セーフティの切替機構はない。

「それで、何の話だったっけか」

「美浜さんのことどう評価するかって話ですよ」

「あぁ……」

 話を思い返すように、視界の端を見やる。

「やる気があるのかないのかよくわからないやつだ。覇気がない」

「でも独自訓練には通ってるらしいですよ」

「だからだ。成り行きで軍に所属した割に続いていると思っているし、こちらに協力的なのはすごくありがたいと思ってる。ただ、本人に熱意が感じられない」

「あなたがそれを言いますか……」

 呆れたように言い放つ高野を睨め付ける。

「それはどういう意味だ」

「いいえ。普段熱量のある様子を浮かべるでもないのに、自分より優秀な成績ばかり収める同期の上官がいて不満だなんて一言も言っていないですよ」

 言ってるじゃないかとさらに睨みを利かせる。

 諸手を上げて首を振る姿がより鼻につく。

「まあ確かに普段から何考えてるのか、あまりわからない人ですからね」

 由良からしてみれば、大体ぼーっとしているように見える。

「能力についても結局進展はないですし――それに、班長以外に噂の能力が発揮されたという話を聞かないので我々としては眉唾物なんですよね。ファンタジー小説じゃないんですから」

 やれやれと両手を広げて、饒舌に語る。

「特異生命体の存在がファンタジーっぽいけどな」

「それは――――確かに?ファンタジーであってくれればよかったんですけどね。残念ながら現実です」

「その割にはあいつらが地球上の生物の特徴が似ていることがあるというだけで、それ以外は何も分かっていないけどな……」

 ただ、そうでない種類もいる。国内ではまだほとんど観測例のない、大型翼竜種系のキメラなんかはゲームのモンスターさながらと聞く。さっき言った通りのファンタジーだ。神話ともいえるかもしれない。

 キメラ種は複数の生態の特性が合わさっていたり、独自の能力を発揮しているものもいる。異次元的な能力については聞いたことはないが、火を噴いたり、爆発物を散布したりなんてことはあるらしい。

 大陸国が尽く負け続ける理由は、こういった存在が原因だったりすると聞く。

「それにしても彼女の能力は、随分とこのご時世に都合がいいと思いませんか?」

「それはどういう――」

「特異生命体との精神的かそれに類する干渉――特異生命体がいなければ成り立たない能力。偶然なのか因果なのか――」

 高野は唇に指を当てて思考する。

「偶然だろ。彼女は自称十七。開戦当初は――十歳くらいだったはず。生まれもってその力があったのなら辻褄が合わないと思うが」

 確かにと納得する高野だが、それでも疑問は晴れない。

「その可能性は確かにあると思いますが、後天的に会得したものかもしれませんね。それであれば辻褄は合うでしょう?」

「辻褄が合っても今度はどうやってそんなものを会得できたか、という話になるだろ。複数人いるならともかく彼女だけだ。どう考えても異常事態だろ」

 彼女以外に会得できたものがいるなら、何かしら能力会得についての糸口はあったかもしれないが、現状彼女一人だけ――。

 一つ気がかりな点としては、彼女の戦前の経歴がないことくらいだろうか。兄弟でもいれば、能力が血筋からなのかどうかわかったかもしれないが、書類上は確認されていない。なにより十にもなる子供が家族のことを理解してないなんてケースまずないだろう。

 つまりは彼女の兄弟はいたのかもしれないが、少なくとも開戦時以降はいない。いなかったのか戦死したのかはわからないけれど。

「それに彼女の能力はそれだけじゃないと、さっきお前が言ったばかりだろ」

 あの日のもう薄れつつある記憶を、なんとか思い返しながら語る。

「俺は彼女と認識の共有みたいなことをした――んだと思う。これは別に特異生命体がいなくても成り立つ話だ」

 高野はなるほどと相槌を打って続きを促す。

「今のところなぜあの日あの時だけできたのか、全く分からない。だけど彼女の能力の本質はそれじゃないのか」

 おそらくは特異生命体かどうか関係なく、干渉系の能力。たまたま特異生命体との親和性が高いというだけという推測。

 人間に対してはそんな能力は見られないのに、言葉の通じない動物とは心を通わせているような、そんな感じなのではないかと思う。

 後天的に会得しただけよりか、先天的に持っていたがうまく使えなかっただけというほうが自分にとってはしっくりくる筋書き。


「それでこの話に何の意味が」

 怪訝に問いかける。こんな話を当人抜きでしていても何の進展もないだろう。

「雑談ですけど?」

 呆れて大きなため息が漏れる。

「班長はもう少し緩く生きるべきだと思いますよ」

 コミュニケーションを積極的にとるタイプではない由良にとっては痛いところではある。会話に理由を求めがちなところとかが指摘されている部分。

「はーんちょー。聞いてくださいよ」

 ライフルの射撃訓練をしていた、他の班員三名が合流する。

「広川のやつまた20発全弾当てたんですよ。怖くないですか?」

 寒いわけではないだろうが、両腕をさすりながら串本は言う。

「これで三連続か――」

 ライフル射撃の訓練は週に一回。機甲科の訓練としてはそれなりにあることだが、配属三か月でこの記録だ。

 班内だけでなく機甲科内でもトップクラスの成績かもしれない。射撃精度だけで言えば歩兵部隊に入れてもなんとかなりそうというか、エースだろう。

「そういう。串本だって、近接射撃は10の目標を、30秒で終わらせてた」

 近接射撃はその名の通り、至って短い距離での射撃を行っていく。こちらは動きながら的を狙うというところが重点であり、命中率自体は評価の対象ではなく、素早く目標を撃っていく訓練。指標は全目標を撃ち抜いた秒数。新入隊員なら一分が一般的だと思うが、串本は驚異の半分の時間で終わらせている。

 実際の戦闘において、特に機甲科は目標から逃げつつの戦闘になるので、この訓練は体力作りも含めて重要視されている。

 串本は体が思うように動くタイプなので、この手のことは得意分野だ。

「二人とも私より若手なのに……」

 一人、こんな好成績を残していく後輩に連れ添っていた湯浅がぐったりと負のオーラをまき散らす。

「湯浅も成績は悪くないだろ」

 思わずそんなツッコミを入れるが、問題は平均的な成績が出ているかどうかではなく、後輩が優秀というところ。由良のツッコミはずれている。

 湯浅の負のオーラが増したところを、雰囲気を変えるように串本が明るく手を挙げて一つ提案をしてくる。

「俺、今度の模擬戦班長とやりたいです!」

 思ってもみなかった提案に、少し驚く。

 模擬戦とは三一式のシミュレーターを使った戦闘シミュレーション訓練。普段は高野とやり合っていて、思い返すと一度も串本と広川とはやり合っていなかったことを思い出す。

「別に構わないが」

 断る理由もないので、首肯し受け入れる。

 模擬戦訓練は本日の訓練メニューには組まれていないので後日の話。約束を取り付けた串本は、右手を天井に届くほど大きく上げて「やったー!」と喜ぶ。

 それほど嬉しいことだろうかと思うが、本人がそれでいいならいいか……。

 その後お互い訓練場所を交代し、由良と高野はライフル射撃の訓練を、串本・広川・湯浅は拳銃射撃の訓練へと移る。

 ちなみに由良はライフルの扱いも少し苦手であり、数少ない高野が由良に勝ち誇れることでもある為、軽くマウントを取られる。

 少し腹立たしいが、機甲科として三一式の操縦がうまいのは自分の方だし、というところでこのマウントを無視して、訓練に励む。

 そもそもこの銃を使うことなんてないに越したことはない。

 訓練場に漂う硝煙の匂いと、激しい閃光。そして鼓膜を突くような銃声が再び鳴り響く――。

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