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機甲科13班  作者: 来知
第三章 騒乱の果てに
20/42

訓練①

『美浜叶野二士。第一会議室に出頭を命ずる』

 駐屯地内の営内放送。

 大襲撃から明けたその朝。突然の呼び出しに、共に過ごしていた13班は何事かと思う。

「呼ばれた」

 叶野はそういってその場を後にする。

「なんでしょうね?」

「さぁ?」

 特に呼び出されるようなことは聞いていないので、何かあったかと思案するがこれと言って思いつかないまま、彼女の背中を見送る。


「そこにかけたまえ」

「はい」

 呼ばれた理由もわからないまま、叶野は座らされる。

 座る面々はどう見ても偉い人々という感じで、ひどく窮屈さを感じる。

 爽やかな風貌だが、威厳のある雰囲気を纏う30代ほどの男性が口を開く。確か中隊長と呼ばれていた人。

「美浜叶野君、昨日の戦闘はお疲れ様。君のおかげで13班の人的被害はゼロだ」

 中隊長の男は手に持った紙に目を落とし、上からなぞるように見やる。

「しかし、君の能力が活用されるまで随分と間があったね。この時点では君には特異生命体を捉えることはできていなかったと思っていいかな?」

 責めるつもりはないだろうとは思うけれど、責められているように感じ、思わず首肯する。その通りなので否定はできない。

「ふむ」と中隊長の男は少し体勢を変え、思案する。

「君の能力については前例がない。軍としてはその力を活かしてほしい。活かせないからと言ってみすみす手放すつもりはないが、このまま不安定なままというのも困る」

 ごくりと叶野は唾を飲み込む。先輩管制官には「初陣としては妥当だろう」と励まされたりもしたが、由良も言った通りこのままというのも困るらしい。

 中隊長の男は紙をぱさっと机に放ると、口角を少し上げて続ける。

「だからこそ、君は君の持つ能力を伸ばしたいという心意気はあるか?」

 それについてはもちろんある。昨晩の襲撃だって背負うなとは言われても、叶野がもっと強く能力が使えていれば犠牲を減らせたかもしれない。

 だから首を縦に振って答える。

「うんうん。いい心意気だ。では早速――」


「――こいつを使って疎通訓練しようか」

 会議室から連れ出されしばらく車で走ったと思えば、駐屯地から少し離れた陣地に広々として、陽の光が良く当たるその場所にそいつは擱座していた。

 (アント)――特異生命体の中でも数が多く、それでいてあまり脅威ではない生き物。

 いくつものワイヤーと杭を打たれ、身動きが完全にふさがれた状態。よく見れば本来ある六脚は切り落とされている。

 その姿に思わず引いてしまう。

「驚かせたなら済まない。歩兵部隊が昨日の強襲で捕らえた一体でね、生体研究班のサンプルとして拘束しているんだけど、君の練習相手にもなるかと思ったんだけど――」

 どうだろうか?なんて聞かれるから、叶野は思わず顔を引きつらせる。

 そもそもこんな姿でも生きているのか不安になる。しかしその不安は一瞬で失せる。

 触角をぴくぴくと動かし、喰らいつこうとしているのか、口を開けたり閉じたり――気色が悪くて仕方がない。

「うーんなるほどなるほど……君が例の――ふむふむ」

「な、なんですか!?」

 気が付くと後ろから顔をのぞかせている変な人がいた。

 丸い眼鏡に、ぼさぼさの髪、ほっそりとした体。軍服ではなく白衣を着ているのが特徴的。

「君は相変わらずだな。紹介する。彼は生体研究班主任、大池二尉だ」

「よろしく~」

 ひらひらと手の出ていない袖を振る。

「彼は変態だけど優秀だから相談に乗ってもらうといい。私は他の仕事があるからこれで失礼するよ」

 中隊長の男はそそくさとその場を後にする。

 残されたのは変態と呼ばれた、叶野からすれば今のところは変人な生体研究班主任という男だけ。

「それじゃあさっそく始めて行こうか」

 彼はにっこりと笑う。その笑顔に叶野は思わず背筋が凍るほどに恐怖する。


「ということでまず位置の探索訓練から始めよう!」

 そう言って主任は目隠しを叶野につける。

「この拠点内を連れまわすから、どの方向に(アント)がいるか示してね」

 真っ暗で何も見えず、車椅子か何かに座らされて数分移動する。不整地なのかガタガタ揺れて、正直恐怖心が駆り立てられる。

 なんかこのままいきなりぶっこけても不思議ではない……。

 しばらく歩き回って「どの方向?」と聞かれる。

 しかし叶野はそんなことに集中なんてできていなかった。車椅子の揺れに気を取られて全然わからない。

 だから停止している今のうちに集中して位置を割り出すしかないが、これも任意にできるほど都合のいいものでもない。

 目を閉じても開いても映る景色は黒の世界。

 深く深く潜っていくように、一つの反応を、声を手繰るように集中する。

「あっちかな」

 一つの方向を指さす。

「本当に?」

 聞き返されて自信を無くす。自信をもってその方向を指さしたわけではないから余計にこの言葉が疑心を生む。

「う、うん」

 それでも自分の勘を信じてみることにした。

 仮にそうでなかったとして、では本当の方向は?と聞かれたときにその方向が思い浮かばなかったからだ。確信もなく出鱈目に回答を変えてもいいことはない。

「うーん。残念!」

 主任は目隠しを外して、一つの方向を指さす。

 私が自分から見て斜め右前の方向を指さしていたのに対し、主任が指さしていた方向は真右。

「大雑把にはあってるけど、前にずれちゃってるねぇ。報告書では区分けされた地図上に、区ごとに書き記す程度の精度はあると記載されていたから、この距離でこのずれ方はいまいちな結果だねぇ」

 まだまだ求めるレベルには遠いと付け足すように、やれやれと首を振る主任。

「まずはこれを繰り返して、方向を正確に捉えられるようになろうか。より正しく言うなら特異生命体を捉える訓練だけど」

 そう言いながら主任は再び目隠しを叶野に取り付ける。

 暗い世界の再来だ。

 その後も何度も同じことを繰り返し、時間ばかりが過ぎていく。

「今度は大外れだね……捉えられていないのか、疲労によるものなのか……君自身はどう思うかな?どうかな?」

 なんて前のめりに問われるけれど、よくわからない。

 いつも捉えられていると思うときも、確かな感触があっただろうかと不安になる。

 深い暗い海の底で、チョウチンアンコウの微かな光を見つけたようなものだ。それを見つけた時、本当にそれがそこに存在している実感なんてない。本当は目を瞑ったままで、自分が生み出した幻想なのかもしれない。

 そう思ってしまうようなものだったような気がする。

 これじゃだめだ。そう思ってもうまくはいかない。

 結局その日の訓練は、一度も方向を言い当てることに成功せず終わった。


「まあ、うん。焦ることはないさ!実践して発揮することもあるだろうし、能力について分かってきたこともある!」

「わかってきたこと?」

「すぐに使えないということが分かった!わからないことが多いということが分かった!」

 叶野は呆気にとられる。

「それ分かったことなんですか?」

「そうだよ?世の中分かってること、分かっていないこと、そもそも知られていない――観測されていないことに分類できると僕は思っているんだ。分かっていないということは存在を認知してはいるということ。存在がわからなければ調べようもないからとても大切なことなんだよ」

 飄々と主任は言う。

 叶野としてはどこか腑に落ちないが、目の前の人物にとってはある程度満足いくものだったらしい。

「明日は今日と同じ訓練と、一度だけできたという意識の共有というのをやってみようか。少しずつやることを増やしていくと思うから頑張ろう!」

 そう言って主任は手を振って、帰りの車に乗る叶野を見送る。

 まだ朝の九時前。

 今朝の少し涼しげな空気はそこにはなく、アスファルトの道が陽炎を生みそうなほどの夏の暑さがやってくる。

 束の間の訓練時間が終わり、車は仮設駐屯地へと叶野を連れ帰る。

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