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機甲科13班  作者: 来知
第一章 戦場に降り立つ少女
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13班

 暗い夜空が少しずつ青い空に変わり、ビルの隙間から覗く太陽の日差しが朝を知らせてくる。

「今晩の任務もこれくらいか」

 三時間の哨戒任務を二回、フルタイム勤務でみれば長くはない時間だが、この時間を常に密閉された戦闘車両内に閉じ込められるのだから、息が詰まるというものだ。


 足立区にある東京北部戦線入谷仮設駐屯地、元は市場や公園のあったこの広い土地を有事につき駐屯地として活用している。もっとも駐屯地と呼ぶには特異生命体との開戦からたった一年では大して整備されているわけでもなく、軍事車両が並んでいたりすること以外は大きく以前と変わったところはない。


 三一式用に設けられた雨ざらしのスペースに自機を停める。

 本来であれば専用機としての運用ではなく誰でも使えるようにすべきなのだが、任務のローテーションやら、操縦に関わる微調整やら、そもそも試験運用だったり生産ラインが整っていなかったりで稼働機が少ないことやら、戦術AIによる搭乗者の思考パターンの学習データなど簡単に差し替えできない理由が大量に存在している。

「お疲れ様です」

 キャノピーを開けると一人の整備兵が待機していた。

「あとはお願いします」

 淡白な声でそそくさと車両から降りると、長時間の座り態勢で凝り固まった身体を目いっぱい空に手を向けて、引き延ばす。

「班長」

 後ろから快活な声が聞こえたかと思えば、すぐ隣に声の主の顔がそこに現れる。

「今晩は大した戦闘にならずによかったすね。アントが数体で助かりましたよ」

 一晩中任務に従事したとは思えないくらい明るく話してくるこいつは、北部戦線第一戦隊機甲科13班班員の串本三曹。快活な性格で、戦闘でも派手にやる傾向にある。

 串本は短く切りそろえられた髪を一撫でして、話を続ける。

「最近大型の奴らが来ないもんで、平和です」

「そうだな」

 素っ気ない返事をして俺は宿舎へと足を向ける。

 串本の言う通りここ一週間ほど、アント――蟻を人より少し大きくした程度の特異生命体の中でも小型に分類されるものしか侵攻してきていなかった。

 小型であれば歩兵でも対処可能なので機甲部隊の自分たちがでしゃばる必要はないのだが、哨戒任務という性質からわかる通り、万が一大型でも現れれば歩兵戦力では火力不足を否めない。

「ただ、北海道はさながら激戦らしいぞ」

 割って入る長身の影。優美な歩き方から高貴さがうかがえるが、彼は俺の部隊員。副隊長、高野一曹。オールバックの髪形だが、少し垂れ下がる前髪が気になっているのか、いつもいじっている。

「大陸からの侵攻が最も激しいところだものね」

 包容力のある優しい声音で、長い髪をたなびかせる、小隊唯一の女性隊員。湯浅二曹。

「北部エリアの戦況がこちらです」

 淡々と、意図してはいないだろうがひそやかに情報端末を操作し、国軍で共有される各エリアの戦況を表示し、他隊員に見せる。

 彼は部隊内最年少の広川三曹。

 北部エリアは北海道札幌市を中心として構築されている陣地だ。国内の特異生命体の侵攻はほとんどが北部であるため、北海道の戦線を押し戻し、強固なものとすることで特異生命体による被害を抑えようという作戦の元投入されている。

 しかし現実は非情なもので、侵攻に対し有効な陣地構築が間に合っておらず、軍事関連の人員以外はいないその戦地はさながら地獄らしい。北部エリア東部戦線はその中でも極めつけだとか。

 機甲戦力は有しているものの、防戦状態であるが故機動力はいかせておらず、こちらにも航空戦力による火力支援の要請が日々行われている状況だ。

 朝焼けの少し赤みが勝った青空を見上げる。F-15J二機の機影が北の空へと飛び去って行く。

 北部エリアが陥落したら次はここが最前線か……

「隊長、早く飯行きましょうよ。今日の朝飯何かな」

 串本は腕を頭に回しながら、気分晴れやかに先頭を歩く。

 無理もない。彼はまだ、十六(、、)歳なのだから。




 食堂にやってくると、早朝というのに場は賑わっていた。各々がお盆にのせた食事を楽しみ、時には談笑している。

「今日は何かな」

 食堂の列に並んだ俺たち13班五人の最前列で、串本は待ちきれないという表情を浮かべる。

 俺たち青年部隊は、食べ盛りの成長期というのもあって糧食班の連中から多く盛り付けられることが多い。串本のように活気あふれる隊員ならともかく、正直自分としては成人連中と同じくらいのごく一般的な量でいいと思うが、にこやかにふるまってくる姿にいつも断れずにいる。

 今日の夕食は、ハンバーグ定食といったところ。明らかにご飯の量が多いが……

 特に決まりはないが俺たち13班五名は3対2で対面する形で座る。班長と副班長が並んで、対面に他部隊員という座り方だ。

「にしてもやつら、ここんところ(アント)とかよくて蟷螂(マンティス)くらいしか見なくなりましたね」

 串本はご飯を飲み込むと、戦況話を始める。

「そうね。おかげで機甲部隊(うち)としては、やりがいのない戦闘が続いてて退屈になるのよね」

 湯浅は垂れ下がった髪を耳にかけなおして、話に応じる。

「奴らには集団行動という概念が薄いからな……(アント)のようにニオイなどを使って行動する個体もいるが、種族を超えてとなると観測されていないからな」

 特異生命体は観測されている種族のモデルとなった生物がいる。最も観測事例は少ないが、他種族混合型――所謂キメラ体のようなものもいる。

「機甲部隊としてはやっぱ恐竜種のような奴とやり合いたいですよ。そのための火力!そのための多方向機動!班長は経験があるんすよね!」

 目を輝かせてじっと見つめてくる串本に、飲んでいたコップをそっと机においてぼんやりと思いだすように語り始める。

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