新隊員
「総員、傾注」
夕刻、出撃前の定例のタイミング。隣に軍服を着させた美浜を控えさせ、昨日聞かされた美浜叶野配属の件を班員に伝える。
班員の反応は、興味があまりなさそうなのが二人、目を輝かせているのが二人ときれいに分かれた。
「班長、専属オペレーターが今日入隊の隊員って大丈夫なんですかそれ」
広川が訪ねてくる。懸念は全くと言っていいほど妥当だ。下手な指示で死ぬのは俺たちだし――
「当面の間は今のオペレーターが任に当たる。いわゆる研修期間というやつだ。そもそも、司令部は一人で回さない。さっきも説明した通り、彼女には彼女の持つ能力にしか要はない。補助オペレーターという立場でしかないからな」
さすがに昨日まで軟禁されていた、一般人をいきなりメインオペレーターにするわけはない。いくら人手不足と言っても、それほど深刻ではない。ただ、由良としては軍として一定の教育機関を終えてから配備してほしかったところだ。
思わずため息が漏れる。
「ほかに質問あるやつは」
「はい!」
串本が元気よく手を挙げる。
「なんだ?」
「歳はいくつですか!」
「17」
しょうもない質問に呆れた表情を浮かべている間に、美浜が静かに答える。
「俺より年上かぁー。残念」
「いやお前たちが最年少世代なんだから、いくら軍でも中学生を軍人にはしないだろう」
高野が前髪を整えながらツッコミを入れる。
「えー、その辺も特例とか言ってくるかもしれないじゃないですか」
「翔君、どう見ても彼女は私たちと同い年くらいだから同級生が関の山よ?」
湯浅までもこのしょうもない談議に参加してくる。ちなみに翔とは串本の下の名前。湯浅は班員を下の名前で呼ぶことが多い。
歳は十六で誕生日の都合上串本と同じ年齢ではあるが、彼女の方が世代としては一つ上だ。
串本と広川は同期。性格が対極にある二人が寮でも仲良くしているのは、班内唯一の同期だからだろう。
「はあ、早く来年になって後輩を従えたい……」
願望を息にのせて吐き出す。串本は何というか面倒見は良さそうなので、彼が班長となれば明るい部隊が出来上がりそうだ。
「能力というのはどこまで信用できるんだ?」
高野が美浜を睨め付けて尋ねる。
「保護したときに特異生命体の元にいたこと、俺が能力を通じて彼女の声を聞いたこと、この二つの事例だけで信用してもらうしかないかな」
一応彼女の能力を試すために、今朝方テレパシーを使って会話を試みたが……実際はうまくいかなかった。うまくいかなかった話を今しても仕方がないし、余計な不安を煽るのはよくないと思って伏せることにした。
それにうまくいかなかったというのは、全く疎通が取れなかったというわけでもなかった。
ぼんやりと「ハンバーグ食べたいなぁ」なんて思考が流れてきた。それを聞いた船戸二尉はもう声高らかにこれでもかというほど大声をあげて、手まで叩いて笑いに笑いこけていた。
とはいえ、これでは任務に耐えられるほどの能力かと言われたら到底――船戸二尉はひとまず彼女の能力を安定させるところから訓練するしかないだろう。と言っていた。
どうやってかは、ひたすら疎通を試すという脳筋極まれりな訓練内容で、開いた口が塞がらなかった。
「それしかないのか。まあ余計な伝達で俺たちを殺さなければいいさ」
俺も思っていることを高野は口にする。人が気を使って言わなかったことを――
相変わらず鼻につく男だ。
そんな彼の隣から一歩一人踏み出す。
「叶野ちゃんでいいのよね。所属は違うから同じ班とは言えないけれど、これからよろしくね」
優しい声音でそっと手を差し出す。一番まともな迎い入れをしたのは湯浅一人になるかもしれない……能天気なのか薄情なのか、はたまたその両方か――
「あ、よろしくお願いします」
少し間をおいて美浜はその手を取る。
湯浅は満足げに微笑んで、軽く二度ほど繋いだ手を振ってから解く。
班内唯一の女性隊員と新規の女性オペレーターだから仲良くしてもらう分にはありがたいところだ。
場も和んだあたりでほかに質問がないかと、目を配らせる。
「ほかに何もなければ各自配置につけ」
「了解!」
一同が返事するなり、すぐにその場から各機に向かっていく。
「美浜は司令部に、あそこのオペレーターが連れて行ってくれる」
少し離れたところに一人の軍服を着た人影。オペレーターの一人だ。新しい同僚を迎えに来て、先ほどから微笑ましく待っていてくれている。
美浜は小さくこくりと頷いてオペレーターのもとへ歩いていく――そのとき、小さく気のない声で
「気をつけて」
なんていわれるものだから、少し気が引き締まる。
何も彼女に言われるまでもなく、一歩間違えれば死ぬこともある戦場へと赴くのだから気をつけないなんてことはないが、やはり自分で思っているのと他人に言われるのとでは気の引き締まり方が違う。
もっとも言うならもっと気持ちがこもったものにならないだろうか、なんて少し不満を抱く。美浜はいつも覇気のない喋り方だから気にするものではないかもしれないし、由良とて女の子にムネときめくくらい熱烈にお願いされたいというわけではない。
ただ覇気のなさのせいで不気味さを少し覚えてしまったゆえの不満。
思っても口には出さず、由良はゆったりと駐機されている自機に歩んでいく――




