99話 『下層』
有利属性であれば威力が2倍、不利属性であれば威力が半減、これがゲームの基本である。
これに属性レベルや第2属性なんかが付加されて、細かい計算が変わったりする。
そして、その相性については現実的なイメージに沿う形で、且つ特定の属性が極端に有利や不利にならないようにバランスが取られているものだ。
この世界はゲームをベースに改変されているようだが、何故かこんなシンプルな設計箇所にバグがある。
反転世界側の仕様であればまだ判るが、それは今アルに否定されたばかりだ。
だとすれば、何故こんな仕様になっているのだろうか。
考えるには、ナズナの使用する雷魔法が判りやすい。
ゴーレムに撃った雷魔法は、完全に無効化されていた。
半減ではなく無効にまでなるのは行き過ぎだが、雷が土に効かないのは感覚的に理解できる。
変なのは、ガードロボにも雷魔法が無効な事だ。
感覚を優先するならば、機械に雷は特効になりそうであるが、実際は逆に無効だった。
ナズナが先程のメカニックドラゴンとの戦闘で水魔法しか使っていなかったのもそれが理由だ。
あえて説明を付けるなら、機械属性は存在せず金属は鉱物の一種として土属性として扱われているのだろう。
そして雷属性。
恐らくこれも存在しない。
その根拠は、ナズナが雷魔法を使用する際に生じる淡い光の色だ。
雷――転じて電気のイメージカラーは黄色であるが、ナズナの使用するそれは紫色だ。
そして、同じ紫色の魔法として風魔法がある。
恐らく、こちらの『風』の方が属性なのだろう。
つまり、『風』より『土』が強い。
それだけの定義なのだろうが、風の派生で雷、土の派生で金属を定義されてしまったため、この様な違和感が生じたものと思われる。
さて、そうすると残りはどうなるか。
メカニックドラゴンやメカリザードマンがナズナの水魔法で隙が生じていた事より、『土』より『水』が強そうだ。
そして、トレントの実は別として本体には水魔法が効かず、雷魔法が効いていた事より、『水』より『木』が強く、『木』より『風』が強いという事だろう。
となると、鬼やゴブリンに雷魔法の効果が高かった様に思うので、あいつらは木属性という事になるのに違和感が多少あるが、『木』自体が暫定的なものなのでそこはとりあえず保留でいいだろう。
「とりあえず、無関係の属性は等倍で効くとみていいか」
『それが何になるのかは知らぬが、もうすぐ着くぞ』
アルの言うように、ゴンドラの行く先には大きな扉が見える。
近づくとそこが開くのだろうが、その先の部屋が目的地であっているだろう。
だいぶ下がってきたので、方舟の最下層辺りに位置すると思われる。
その先には、カグラと暴食スライムが居る筈だ。
今していた思考は一旦置いておき、目の前の事に集中する事にする。
◇ ◇ ◇
目的の部屋に到着すると、そこは伽藍堂とした円形の広間であり、その中央に何かを捧げる様な台座がある。
その台座の装飾の煌びやかさ等には神聖さの様なものも感じるが、問題はその台座の上だ。
そこにカグラが浮かんでいる。
いや、浮かんでいるというよりは沈んでいるという方が近いのかもしれない。
その理由はカグラの周囲、そこには水の様な質感の物質に包まれている為だ。
そして、その物質が何であるかは確認するまでもない。
「暴食スライム……。カグラを喰ったのか?」
暴食スライムは半透明な水色であり、奥が透けて見える。
だが、本当に何かを捕食した際は中に透けて見える事なく消滅していたので、それとは異なるのかもしれない。
『いや、小娘が意図的にしたものであろう。だがしかし、これはいかんな。暫くは安定するかも知れぬが、効率が悪すぎる』
アルの言葉を理解するには、カグラの周囲の色を見れば良く判る。
暴食スライムに包まれているその身体は赤い光に包まれており、それが染み込む様に暴食スライムに流れている。
そして、それだけではなく台座を通して赤い光が方舟全体に広がっている。
つまり、カグラ自体が赤いコアのエネルギーを無尽蔵に供給する事により暴食スライムの暴走を抑え、方舟へのエネルギーにもしているのだろう。
「確か、赤のコアは世界からエネルギーを徴収するんだったな。青い方はどうなんだ?」
青い方とは暴食スライムが持っている方のコアの事だが、そいつは隠される事もなくスライムの体内にある。
まるでそれがスライムという魔物の核であるかの様に揺蕩っているが、カグラから流れた赤い光は最終的にそのコアへと流れていっている。
『まさに、お主がそやつに付けた名前の通りよ。他者を直接取り込む事でエネルギーへ変換する事に特化しておる』
つまり、今の状況はカグラが世界から何かしらの力を徴収し、それを暴食スライムに与えることで暴食スライムの暴走を抑えている状況だ。
確かに安定はしているのかもしれないが、世界から何かが失われ続け、暴食スライムに力が集まり続ける事で成り立っている。
どう考えても良しとできる状況ではないだろう。




