94話 『防衛』
『侵入者発見! 侵入者発見! 直ちに第一隔壁から第三隔壁まで封鎖します。防衛装置作動します』
「まずっ。急ごう」
今さっき考えた事が現実になった。
どこからともなくビービーと言う警報音とともに、機械的なアナウンスが流れてきている。
とにかくこの部屋に閉じ込められれば、脱出は不可能でないにしろ面倒だ。
隔壁が降りる前に潜り抜けた方が良いだろう。
「あれ、降りて来ないっすね」
皆とともに、急いで通路の方へ駆け出していたがどうにも様子がおかしい。
ここは冷静に様子をみた方が良いだろう。
そして、改めて観察してみると隔壁が降りない原因は直ぐに見つかった。
「なるほどな。こりゃ降りてこないな。場所によっては隔壁自体が無いところもあるだろう」
違和感があったのは部屋の出口、通路側の壁だ。
その壁に手を当てるのに丁度良い位置にそれはあった。
この方舟の壁は赤が基調であり、そして素材はいまいちよく判らない。
だが、その部分だけは手の平サイズで白くて四角い物質が埋まっている。
「なんすか、これ。何か見覚えのある質感すけど」
それはそうだ。
つい先程まで見ていた物質と同じだ。
「コンクリートだ。白く塗られたな」
「へー、向こうの世界にもあるんすね」
ミフユは材質の説明だけで納得したようだが、論点はそこではない。
何故そこにそれがあるかというところの方が重要だ。
「校舎の壁と入れ換わったってところね。実際向こうには隔壁が残っていた訳だし、あり得ない話ではないわ」
つまり、この白いコンクリートがあった箇所は、隔壁の操作盤だったところになる。
校舎の方ではヤスタカが自然と校舎中に発生していた操作盤を利用していた訳だが、その操作盤はどこから来たのか、そして操作盤が発生した場所のそもそもの壁はどこにいったのか。
その答えがこれである。
「さて、お陰でいきなり隔離される事はなかったのだけれど、どこかで道に困る事はありそうね」
ナズナがそう言うのは、遠くの方から隔壁が降りる音は聴こえてくるからだろう。
ガードロボットもここには沢山いるという予測もあるように、隔壁も全てが校舎に現れている訳でもなく、大部分は方舟自体に残っているとみた方が良い。
だが、流石のナズナであってもどうやら見落としているようだ。
「いや、それはないな。多少の分かれ道はあるだろうが、最後まで通じているだろう。それもほぼ一本道で」
そう思うには根拠がある。
ナズナは理論的に考えたのだろうが、そもそもこの世界はバグっている。
そのバグは中途半端なゲームをAIが再現させている為と予測が立っているが、それでも前提はゲームだ。
ゲームである以上お約束というものがある。
「ふむ。最終ダンジョンというものですからね。そこで詰んでしまえば台無しというものでしょう」
ショウゾウ先生が真っ先に俺が言いたい事を理解してくれた。
孫とRPGを楽しんでいたというだけある。
AI側も防衛と世界の仕様の狭間で大変だろう。
そこの矛盾を無くすのであれば、全力で防衛した結果が、たまたま高難易度の一本道が残ったという結論に落ち着く。
ナズナは理解不能とばかりに両手を広げて呆れているが、恐らくこの考えは間違っていないだろう。
『グシシシシ』
案の定、そいつ等が集まってきた。
◇ ◇ ◇
「『電光』!」
いつか見た様なドッペルゲンガー。
その最後の1体がナズナの雷魔法に撃たれて崩れ去った。
「皆赤かったっすね」
「色違いモンスターだな。大方、最強ランクだと赤くなるんだろう」
モンスターの色の違いでモンスターの強さが変わるのはRPGでは定番だ。
もともとは、カセットの容量が厳しいのでリソースの節約に使用された技術であるが、ある程度技術が向上して容量が増えた現在においても残っている仕様だ。
そこは、グラフィッカーの労力節約や、定番化した時代からのなごりである。
とにかく、ガードロボ以外でたまたまそういったモンスターも方舟で飼っていた訳ではなく、わざわざAIがラストダンジョンに相応しいモンスターを作り出したものと思われる。
その根拠は、倒すと同時に崩れて消えた――つまり、魔核も落とさずに消えた事だ。
しかし、そう考えると別の疑問が浮かんでくる。
「なぁ、アル。モンスターってなんだ? 反転世界にそのまま存在しているのか?」
機械であるガードロボは別として、魔核を落とすモンスターに対して、魔核を落とさないモンスターが居るのは初見だ。
様々な出典のモンスターが出現するのも日本のゲームチックなものを再現した為と結論を出したものの、神様――ここではAIが作り出したモンスターは魔核を落とさないなんて話になると事情が変わってくる。
それでは、魔核を落とすモンスターはどこから来たのかという話だ。
『む? なんの話だ? 普通に存在しているぞ。前にも言ったであろう。神どもと、我ら竜種以外の生物――つまりモンスターは元より反転世界の住人よ。――――もっとも、生態は全く異なるがな。しかし、それも当然であろう。反転しておるのだからな』




