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92話 『早朝』

「さーて、行くっすよ! これが最後の戦いだってやつっすね」


「最終ダンジョンと言うやつですか。腕が鳴りますね」


 ミフユの掛け声に対してショウゾウ先生が悪乗りしている。


 何故こうなったかはよく判らない。

 元々は1人で行こうと考えていたのにも関わらず、ナズナとの約束により2人で行くつもりでいた。

 しかし、ヤスタカへの依頼に合わせてミフユはさも当然とばかりに付いてきたし、ショウゾウ先生もミフユに追従してしれっと仲間入りしている。

 その結果、ここ――旧校舎の渡り廊下の巨岩の前にこんな早朝ながら総勢5人が集まっている。


「気を付けて行けよ。俺は戦力にならんからな。アイタタタ」


『痛みにも堪えられず、おなごに戦場を託すなぞ情けない奴よの』


 但し、ヤスタカだけは方舟への入口を開くために来ているだけで、方舟への潜入へは早々に不参加を宣言している。

 理由は全身の筋肉痛が治っていないからというなんとも気の抜けた理由だ。

 昨日の夜と比べると自分の足で歩いているだけマシだが、確かに動きは明らかに本調子には見えないのでその判断も正しいように思える。


 しかし、ヤスタカはもっと数値的にものを判断する傾向にある。

 恐らく、皆よりレベルが低いという計算もしている筈だが、それを考慮したとしてもヤスタカに関してのみ言えば参加する方のメリットが非常に大きいのではないだろうか。

 何故不参加としたのかが未だ判らない。


「なんで不参加なんだ? ヤスタカの『修正パッチ』なら異世界のシステムが弄り放題だと思うんだが。興味あるだろ?」


 誰も触れていない前代未聞の技術だ。

 技術者としては好奇心を満たす絶好な場所であるし、一見するだけでも将来の夢にも大きく近づく様に思う。

 そんな状況なら、ヤスタカは本来身体に鞭を打ってでも嬉々として参加しそうに思える。


「あー、興味自体は凄くあるがな。しかし、正面切ってハッキングで戦う趣味は俺にはないぜ。多分ハヤトと勝負しても負ける程度だと自負している」


 つまりシステムの管理者が待ち構えているところに行くつもりはないと言うことか。

 リスク管理という意味ではよく判る。

 しかし、今の話は少し認識が異なる。


「カグラの他に誰かが居るのか?」


 あの方舟はカグラが覚醒することで初めて起動した。

 他の乗組員が居たとはとても思えない。


「ヒルデもそんな事は言っていないわね。システムが自動的に判断するから1人でも動かせるって」


 どうやらナズナの認識も一緒なようだ。

 とすると、俺の見過ごしではないだろうからヤスタカの方の認識に誤りがあるのではないだろうか。


「ほら、そんな人は居ないんじゃないか?」


「いいや、違うな。あー、いや、まぁ間違いという訳でもないんだが……」


 ヤスタカがどっちつかずな曖昧な反応を見せる。

 どうやら、単純な勘違いな訳ではなく、何か根拠でもあるのだろう。


「神薙さんも丁度今言っていただろ? システムが自動的に判断するって。あれだけ複雑な物を判断できるならそれは人と同じかそれ以上だろ」


 ヤスタカの言うことも一理ある。

 今の技術ならまだ大したものは存在しないが、異世界の技術なら高精度なものが存在していてもおかしくない。


「AI……」


「あぁ、それだ。ガードロボットもやたら高度な技術で出来ていたが、本来あいつらは上位の指示によって動くようだからな」


 行く前に聞けて良かった。

 そんなものが居るならば、少し対処方法が変わってくる。

 そして、今まで疑問だった謎にも説明が付く。


「なるほど。もう1人の神様か」


 カグラが神様だったのは、アルが発言したように間違いはない。

 だが、そのカグラだけで本当に俺が想定した神様足る事ができるだろうか。


 具体的な例をあげれば『修正パッチ』。

 あれは、この世界のバグを認識した際に得られるものだ。

 その為には全ての人間を常時監視し続けなくてはならない。

 カグラには特殊な能力があるのだろうが、それは身体的なものだ。

 意識は1つであったし、そもそも方舟とのアクセスすら切っていた状態だ。


 ともすれば、機械的に動く超高性能なAIが神様の仕事をしていたとすれば説明が付く。


「あれ? 今の話ってそのAIが神様って話っすか? でもそれだとおかしくないっすか? えっと、なんて言うか……」


「AIにしては、粗が多いって事ね」


 普段難しい話には関与しないミフユだが、今回は違和感を抑えられなかったようだ。

 そして、それは俺も思うところではあるし、ナズナが指摘した通りだ。

 それに対する直接的な解答には思い当たっていない。

 だが、正解に辿り着いていないだけで、方向性は間違えていない気がする。


『ふん。そんなものあの小娘のせいであろう。中途半端な世界をAIとやらに実現させた結果であろう。むしろ、破綻までしていないのが不思議なくらいよ』


「……なるほど。そういうことか」


 答えはアルが呆気なく導きだした。

 恐らく間違ってもいない様に思う。


 AIは自身の知能で世界を管理している訳ではないのだろう。

 あくまでカグラの様な神様が設計した世界を、ただそのまま忠実に実現しようとしているに過ぎないと考えると判りやすい。

 致命的なバグ以外はAIの関与するところではないのだろう。


 そうすると、カグラは何でこんなゲームの様な世界を設計したのかなんて話になるが、それにも説明がつきそうだ。

 反転世界にもこちらの世界の人間が稀に紛れ込むと言う。

 実際、クリンコフセヌと言うカタカナを教えた人物が居たわけだし、こちらの世界のゲームの情報、ないしは携帯型ゲームその物を持ち込んだりでもしたのだろう。

 モンスターの出典が統一しないなんてのも、日本のゲームの特徴でもある。

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