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91話 『約束』

「さぁ、着いたわ」


「ここか。これがどう関わってくるんだ?」


 外を歩き、旧校舎の玄関から入ってやってきた場所は、最初に気づいた異変である渡り廊下に突き刺さった巨岩だった。

 わざわざ新校舎側ではなく外から回ってきたのは、単純にヤスタカが下ろした隔壁がそのまま残っている為だ。

 

 本来、隔壁は方舟自体に備わっていた設備だった筈だ。

 それが方舟の出現時に一緒に上昇せず残ったのは、ヤスタカがハッキングして制御したからだろう。

 本来の制御下から切り離された結果、校舎に残っているものと思われる。


 それはさておき、どうやら散歩の終点はここになるようだ。

 つまり、これが方舟への行き方に繋がる様だが、これだけ見ただけではさっぱり判らない。


「ヒルデはここから出てきたそうよ。直前まで方舟の中に居たらしいのだけれど」


「ここから? 岩の塊にしか見えないが……」


 岩だから入れないだろと言うのは、常識的な指摘ではあるが、今となってはその指摘はあまりにも的外れだろう。

 ドッペルゲンガーやゴーレム、スライムも地面に潜り込む様なスキルを使用していたし、そもそも方舟自体が物質を透過している。


「つまり、この中に転移装置の様なものがあるのか」


 物質の転移なんてものも非現実的な技術であるが、物質の透過と似たり寄ったりだ。

 一応、反転世界なる異世界の存在もあるので、別次元は存在するとみて良いだろう。

 となると、次元のズレを使った技術であれば、理論的にはどちらも不可能ではないと思われる。

 特別アルからも指摘もないので間違っていなさそうだ。


「私もそう見ているわ。後はどうやってそれを使うかなのだけれど、打ってつけの人が居るわね」


 誰かなんて聞く必要はない。

 それはヤスタカだ。

 ヤスタカの『修正パッチ』はこの岩の異常さを認識することで得ていた事もあり、方舟へのアクセスとしては最適だ。

 この岩に残った転移装置も起動できるに違いない。


「そうすると朝が良いだろうな。あの様子じゃ暫くは動けないだろうし」


 個人的には今から行けるのであれば、それでも良いと考えていた。

 なにせ、レベルが上がってからというもの睡眠の必要性を感じない。

 それどころか食事や、更には排泄についても無用になっている。

 別にそういった機能がこそげおちた訳ではなく、ある程度を超えるとステータスの何かが補完してしまう――そんなイメージだ。

 

 高レベルなナズナにもその傾向は見えるが、ヤスタカはそこまでではない。

 今は筋肉痛に苦しんでいるのもあるので、多少はましになるのも期待して明日の早朝からの開始でいいだろう。



  ◇  ◇  ◇



「あー。先に言っておくのだけれど、その時は私も行くわよ」


 折角旧校舎まで来たので、世界がバグったその時と同じ様に屋上にでも寄り道しようと歩いていたところで、ナズナから指摘された。

 ほんのりと考えていた事ではあるが、顔に出ていたのだろうか。

 いつもの事ではあるのだが、やはりナズナに隠し事は難しいようだ。


「あのレッドスライムを呑み込んだ暴食スライムだ。多分、俺くらいしか対抗出来ないと思うぞ。それでも、俺が対処できるとも限らないし」


 自画自賛する訳ではないが、レベルから考えるとそれが事実だ。

 まして、左腕が満足に動かない状態では危険は更に増すだろう。

 正直そんな危険をおかして欲しくないのが率直的な意見ではある。


「だからこそよ。約束を違える訳にもいかないもの」


 約束とは、最初は隕石の衝突直前の会話に起因し、ゴーレムの戦闘の後でも話した内容だ。

 生きるも死ぬも、危険を冒すのも、異世界に召喚されるのも全て共に行おうという約束だ。


「それに、暴食スライム以外にも沢山モンスターは居ると思うわよ」


 暴食スライム以外のモンスターについてはあまり考えていなかったが、総合的に考えるとガードロボットは元より方舟に配備されていたモンスターの筈だ。

 あれだけのサイズの方舟をガードするにしては、これまで遭遇したガードロボットの数は数台だけであまりにも少なかった様に思う。

 つまり、残りはモンスターとして召喚されず、方舟で休眠していると考えても良いだろう。


「まぁ、確かに邪魔が入ると鬱陶しいな」


 レッドスライムの時と同じだ。

 あの時も周りのバグモンスターは露とも脅威にはなりはしなかったが、イレギュラーが起こる要素にはなり得た。

 その露払いをナズナがしてくれていたのが助けになっていたのは言うまでもない。


 方舟は言わばラストダンジョンだろうが、ナズナのレベルはカンストしているので、雑魚モンスター程度で問題にはならないだろう。

 そうなるとナズナが危険なのは暴食スライム1体だけだと思われるので、その戦闘だけ俺が対処すればいいだけの話だ。


「判った。最後まで一緒に行こう」


「えぇ。どんな結果になってもね」


 元より、ナズナがこうと決めた事を否定した事はこれまでにはないし、説得できる自信もない。

 恐らく、今後の世界に生き続ける事があったとしてもその関係は変わらない様に思う。

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