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9話 『常識』 (1999年3月19日 1日目)

「爆散って……エネルギーもそうだけど、あれだけの質量はどこに行ったんだ?」


「常識的には蒸発した、もしくはどこかに散らばったのかしらね。でも、既にそんな常識は通用しないわね。もはやなんでもありよ」


 世界的には、迎撃について様々な議論がされていた。

 その中で最も可能性の高い物と言えば、現代の最大火力――核ミサイルだろう。

 隕石の消滅がその効果であれば人類の勝利ということになるが、有識者の見解では核ミサイル程度(・・)では迎撃は難しいという結論だった筈だ。

 仮に出来たとしても全世界の核ミサイルを一斉に使う必要があり、更に上手く行ったとしても大量の土砂と放射能が撒き散らされる結果となり、どのみち人類に救いは無いという話だ。


 とはいえ、実際に消えて無くなっている以上、予想を超える何かが起きたのだろう。

 発表されていない未知の新兵器や、隕石自体がそういうものだったとか考えれば何かしらの理由がある筈だ。

 そう考えると、ナズナが普段ほとんど使うことがない『常識』なんて言葉を使用し、『なんでもあり』なんて理論を放棄してしまっているのが面白い。

 ナズナにしてもあまりに予想外過ぎて珍しく混乱しているのだろう。

 可愛いところもあるなと思ってナズナの方を見ると、ナズナもこちらを見ていた。


 違った。


 ナズナがこちらを真っ直ぐ見てくるのは、それなりに確証のある議論をしたい時だ。

 俺の何かしらの反応を待っている。

 つまりだ。

 何が起こったか不明だから常識外の事が起こるのではなく、常識外の事が起こるのが明らか(・・・)な何かが起きていると考えた方が良いだろう。


「根拠は?」


「とりあえず2つ。……いえ、3つね」


 ナズナが指を2本立てたが、一瞬横に視線が外れたと思うと、3本に訂正してきた。

 そっちも気になるが、とりあえずその内の一つは予想がついたのでそっちの確認を先にする。


「それは、やっぱりあれか? でも、あれより他のがどこいったのかが気になるんだが」


 視線を向けたのは、新校舎と旧校舎の間の渡り廊下だ。

 そこに大きな岩が突き刺さっている。

 経緯から考えるとそれは隕石の欠片に違いない。

 その衝突の余波がこちらまで届かなかったのは幸いであるが、それは小さな(・・・)欠片の一部だからだろう。

 これがある以上、欠片の本体も近くに落ちている筈であるが、その衝撃の余波は感じられない。

 こちらの方が不思議であるが、この小岩がその説明になるのだろうか。


「そう。1つ目はあれね。あれ、おかしいと思わない?」


「おかしい? そりゃあ他の破片が…………あれ? どうなってんだあれ」

 

 岩の形状は細長い。

 その状態で渡り廊下の天井から斜めに延びているため、恐らく天井を突き破り中の渡り廊下も貫通して地面まで到達しているように思われる。

 不思議なのは、自分で考えた通り『恐らく』であることだ。

 それは状況から考えれば当然であるが、見ただけでは確証がもてない。

 その理由は――――


「常識的な物理法則では、ああはならないわよね」


「あぁ、綺麗すぎる……」


 岩が刺さった筈の天井、そこには天井が壊れた形跡が全く見えない。

 例えるならば、その座標に別の物質が転移してきて入れ替わったような状態だ。

 初めからその状態でしたとでも言わんばかりに一体化している。

 これであれば、衝撃の余波を感じなかったのも当然だろう。


「実際は透過したみたいね。境目に窓ガラスがあったけれど、割れてすらいなかったわ」


「透過!? ははは。確かにそんなのが起きればなんでもありだな。で、2つ目は?」


 物質の透過なんてものは夢物語だという話は既にナズナと話したことがある。

 確かに物質を構成している原子の間は隙間だらけらしいが、だからといって他の物質が通れるわけではない。

 仮にそれができたとしても物質が重なり合うことはそれだけで莫大なエネルギーを生み、それこそ核爆発級の現象が起きるらしい。


 とりあえず、意味不明な現象に驚いていても仕方がない。

 ナズナは後2つ確証があると言っているし、それを聞いてから考えても遅くはないだろう


「それは、あれね」


 そう言ってナズナは下の方を指差す。

 その方向は学校の登校口がある方向だ。

 空ばかり見ていたので、まだ地面の方向には目を向けていなかった。


 そして判った。

 そこにあった巨大な物質――いや、そこに居たと言う方が適切だろう。


 そいつが円くなるように道路を塞いで寝息を立てている。

 道路の幅から考えると、その大きさは15メートル程になるだろうか。

 陸上生物の最大の大きさを誇る像であっても7メートル程であるため、その巨大さは異常だ。

 だが、そいつの名前は知っている。


 頭部からは2本の巨大な角が生えており、口先は尖っていてその中は鋭い牙が並んでいることだろう。

 背面からは蝙蝠を連想させる羽が生えているが、両腕が変化したものではなく独立しているようで、四肢はそのまま付いている。

 尻尾は胴体の延長で段々細くなっていくように長く延びている。

 そしてその全身は1枚1枚の鱗により紫色に輝いている。


 つまり、それは――――


「ドラ、ゴン……だよな」

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