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83話 『破魂』

 そいつの形状は既に生物として破綻している。

 一言で表すなら肉塊だ。

 何かの臓器の塊のような物体から、あらゆるモンスターの身体の一部が生えている。

 前回のデュラハン形態では、腕は腕の箇所に生える様なある意味での整合性があったが、それが失われている。

 ごちゃ混ぜになる事がどう強化に繋がるのかは判らないが、警戒はした方が良いだろう。


「はっ!」


 とにかく、試してみない事には何も始まらない。

 一気に肉塊へ接近し、[破魂]と呼ばれた大鎌を振り下ろした。


『グ、グギッ、ギギギギッ』


 肉塊から抵抗はあった。

 何層にみ重なる防御シールドだ。

 恐らく、頭部を守るシールド、腕部を守るシールド、脚部を守るシールドといったあらゆるシールドを折り重ねたものだ。

 これが生物の形を捨てた事による強化なのだろう。


 だが、真に驚くべきは[破魂]の性能だ。

 一瞬の抵抗はあったものの、鎌の刃先はすんなりと防御シールドを突き進み、肉塊へと深く突き刺さった。


『グギャァァ!』


 突き刺さった鎌は、そのまま抜けなくなる事もなく、手前に引くと肉塊を切り裂きながらすんなりと回収できた。

 だが、肉塊はその間断末魔のような声を上げ続けていたにも関わらず、その傷口はあれよあれよと言う間に完全に塞がってしまった。


「効果がなかった? いや、使い方が悪いだけか」


 少なくとも、肉塊の防御シールド、そして命中時に体表に現れた鉱物や鱗の様な物まで、[破魂]は容易に裂いていた。

 問題は、大鎌を剣や斧の様に斬りかかった事だ。

 本来、鎌というのは刈り取る為に使うものだ。

 天使がゴブリンの首を刈り取ったのがお手本だろう。


「さぁ、覚悟しろよ」


 改めて大鎌を振りかぶるが、その間肉塊からの反撃はない。

 恐らく、リスボーン直後だからだと思われる。

 一度リスボーンした後も、ゴブリンの身体から段々と別のモンスターの身体が生えていっていた。

 つまり、強化された身体の使い方に、肉塊自身が追い付いていないのではないだろうか。

 時間を掛けるとこいつが慣れて手に追えなくなりそうなので、一気に畳み掛けるしかない。


 今度の大鎌の軌道は水平にしている。

 そして、大鎌の先端の刃先は肉塊への直撃コースから外している。

 イメージとしては、カーブ掛かった刃の内側に肉塊を包み来ぬ感じだ。

 そして、内側に捉えた瞬間に手前に勢い良く引く。


『グギァ!』


 危険を察したのか、肉塊は防御はせず咄嗟に身体を変形させて回避を試みた様だ。

 だが、避けきれなかった身体の一部が肉片となって横へ飛んでいく。

 ゴブリンの首が機能していなかった様に、[破魂]で切り落とした部位は、本体から分離されてそれ以上バグらないというのが俺の考えだ。

 この大鎌に付いている銘もそれを意図しているのかもしれない。


 しかし、どうやら少し見解が異なっていた様だ。

 斬り飛ばした肉片は、何度か地面をバウンドした後兎のような脚を生やして再度肉塊の方に向かっていく。

 恐らく、斬り飛ばす事で複数のモンスターの身体を持つ肉塊から分離には成功したようだが、肉片自体に残っていたモンスターの部分は単独で動作させる事ができるのだろう。

 そして、肉塊に向かっていくという事は、再度肉塊に戻ることができるものと思われる。


 攻略方法は思い付く。

 肉塊から肉片を分離し、肉片を個別撃破していけばよい。

 だが、今手元にあるのは刃物だけだ。

 小さくなった肉片を攻撃するには相性が悪そうだ。

 ナズナが残っていれば雷魔法で対処できただろうが、今は体育館に戻ってしまっている。

 暫くすれば戻ってくるだろうが、それまで耐える事はできるだろうか。


『ギギャ』


 元の肉塊に戻れる歓喜の声だろうか。

 発声器官が見当たらない肉片もどこからか声をだし、肉塊へと最後のジャンプをした。

 対処できずその光景を見守っていたが、そいつが目的を達成する直前で消失した。


 突然消えた訳ではない。

 消えるまでは僅かな時間であったが、何があったかは見えていた。

 後ろから来た赤い光が肉片を包み込み、それが消えると共に肉片が消失した。

 そして、そんな赤い光には見覚えがある。


『ふん。来るのが遅いの。まして力を使い過ぎて消耗していると見える。今の威力では本体には効かぬぞ』


「ご、ごめん……。回復が、追い付かなくて……」


 赤い光を使ったのは当然カグラだ。

 アルの指摘は、カグラがデュラハン形態に使った規模の赤い光の事だと思われる。

 あれは物凄い威力であったし、こいつを1度討伐仕切る程の威力があった。

 恐らく、片岡を守るため全魔力とでも呼ぶべきものを込めて使用したのだろう。

 一応、カグラの発言から自動回復もするようであるので、肉片程度であれば消滅させ続ける事はできるものと思われる。


「いや、それだけあれば十分だ。少しずつ削っていく。アル、サポートよろしく」


『言われるまでもないわ』


 事はとても簡単だ。

 今と同じ事を、こいつが枯れるまでやり続ければ良い。

 どれだけの時間が掛かるかは判らないが、幸いにして体力だけはレベルにより確保されている。

 細かいミスなんかもアルのサポートでなんとでもなるだろう。

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