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81話 『赤光』

 会議室に入ると、既に隔壁が壊され怪物は内部へと侵入していた。

 その姿は更に変貌し、ゴブリンとは全く異なっていた。

 その身体は今まで吸収しただろう、モンスターの部位が生えており、それによって膨張した身体は上半身のみが会議室の中に入り込んでいる。

 但し、デュラハンの様に斬られた首の箇所だけはそのままだ。

 そいつが色々なモンスターの腕で構築された右腕を伸ばしている。

 その腕の先には2人――芹沢と、芹沢を守るように立ち塞がる片岡の姿が確認できる。


「片岡! 芹沢!」


「え? ハヤト先輩? ってなにそれ……って、きゃあ!」


 2人の無事な姿を見てつい声を掛けてしまったが、それは失敗だった。

 片岡が俺の声に振り向いたその隙に、怪物の右腕は2人を掴む様に大きく広げられていた。

 手に持っていた(・・・・・)隔壁を放り捨てて一気にその腕に向かって駆け出すと、後ろから隔壁がズシンと音を立てて床へと落ちる音が聞こえる。


 隔壁を突破する方法として、アルは床か天井を抜くか、アル自身を解放して隔壁を破壊する2択を提案してきたが、俺が選んだのは第3の選択だった。


 単純に持ち上げて開ける。

 最もシンプルな方法であるが、仕様の裏をつく方法だけが有効ではなく、珠には力技で真っ直ぐな方法も有効である。


 この方法を思い付いたのは、ヤスタカが操作していた隔壁との違いだ。

 ヤスタカは必ず隔壁横の操作盤にて隔壁の開閉を制御していたが、ここの隔壁には制御盤がついていなかった。

 何故無いかの理由は簡単だ。

 必要最低限の機能――緊急時に隔壁を重力に任せて落とす機能だけを咄嗟に使用した為だと思われる。


「開け!」


 既に2人を巻き込んで閉じた巨大な腕の手首の部分を殴り付ける。


『グギゲアアアグ』


 首が無いのに何処かから呻き声の様な声が聞こえる。

 だが、そいつの手首に殴り付けた部分は、大きく凹みこそしているものの、吹き飛ばしたり砕いたりするには至らず、当然閉じた手を開かせるにも至っていない。

 それどころか、凹んだ部分からは新たに無数のモンスターの腕が生え、即座に腕を修復してしまった。


「クソ。やっぱりレベル不足か。仕方ない。アル、行けるか?」


 アルの見解通り、限界突破した俺のレベルによる攻撃力よりも、暴走してバグり散らかしたゴブリンの防御力や回復力の方が上回っているらしい。

 その要因となるコアとやらの効果については、直接アルに確認した訳ではないが大体予想はついている。


 レベルシステム――他者を吸収し、己の力とするシステムそのものだ。

 言わば、バグり続けている怪物の方が管理者として正当であり、システムの裏をついた俺の方がバグ的な存在である。

 この場合、どちらに優位性があるかなんて語る必要もないだろう。


 そこで登場するのがアルの存在だ。

 アルは神のシステム下にはおらず、神と対等な存在だと言っていた。

 それならば、この怪物とも戦える筈だ。

 問題は片岡や芹沢を救うことを考慮に入れてくれるかだが、そこはなんとか説得するしかない。

 先程の隔壁の際には別の方法を思い付いたのでアミュレットから解放するのは保留したが、今この状態では四の五の言ってもいられないだろう。


『望むところよ。と、言いたいところだが、どうやらその必要はないようだ』


 何を、と聞き返そうとしたが、その必要もなく異変は目の前で起きていた。

 握り込まれた巨大な拳、その指の間から不思議な赤い光が漏れている。

 それが何か認識する前に、その光は怪物の腕を伝わり全身へと伝播していく。


『グギゴアアアアアアアアアアアア!!!』


 その赤い光に包まれた怪物は、明らかに悶え苦しんでいる。

 巨大な拳も既に開かれ、赤い光を振りほどこうと暴れ回る。

 その腕が床や壁を叩き付けるが、天井を叩いた際に状況が崩れた。

 怪物が叩き付けた衝撃を抑えきれず、天井そのもの(・・・・・・)が弾け飛んだ。


 天井が耐えられなかった理由、それは隔壁によるものだろう。

 四方に隔壁を強制的に召喚した結果、隔壁が閉じる前のスペースは何処にあったか。

 隔壁の保管場所――それは自然に考えれば屋上であり、そしてそこから下は空洞だ。

 まるで切り取り線の様な構造であり、当然強度は言うまでもない。


 とにかく、天井が消えた結果、暴れていた怪物は支えを失い落下していった。

 残ったのは、俺と後2人だ。

 その1人――片岡は特に怪我もない様だが、自分が抱き抱えるように庇っていた人物の変化に呆然としている。


「ユカ? あれ? ユカって……あれ?」


 片岡の顔には更に困惑の色が加わったが、そうなるのも無理はない。

 何せ、芹沢ユカ――そう称する人物の記憶が急激に薄れていく。

 いや、薄れていくと言うよりも上書き――より正確に言えば、メッキが剥がれるように裏側に居た人物の記憶が浮き上がってくる。


 ミフユと片岡と芹沢――その3人は確かに部活も一緒にする仲良しグループだった。

 だが、それは果たして女子グループだっただろうか。

 小柄で引っ込み思案なところはよく似ていたが、流石に性別を間違える事はない。

 芹沢ユタカ(・・・)そんな名前だった筈だ。

 当然、学校においても女子生徒ではなく、男子生徒に該当する。


 つまり、今そこに立って居る人物は本来の人物に成り代わっている別の存在――探していた神様に他ならない。

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