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80話 『計算』

「折角、格好良いシチュエーションだって言うのにそりゃないだろ」


 ヤスタカが非難してくるが、まぁ判らなくはない。

 手品を見せて、その種を後から説明するようなものだ。

 メリットを考えるのであれば、黙っていた方が当然良い。

 だが、同時に話したくもなる筈だ。


「まぁ、装備だな。今は壊れて消えてしまったが、鎧武者の鎖かたびらだ」


 鎧武者は、ヤスタカが制御していたガードロボだが、度重なる戦闘で壊れたと言っていた。

 だが、ガードロボはモンスターと違って身体が崩れて魔核になることもない。

 そのため、そいつの装備を拝借することもできそうだ。


 尚、ガードロボは壊れても消えないが、その装備品は壊れると消えてしまうらしい。

 これは、かつての神銀パイプやカナタさんの全身甲冑も同じだったので、そういうものなのだろう。


「なるほどな。無事そうなら俺は行くぞ。そろそろまずそうだ」


 向かうのはこの研修棟の3階だ。

 そこにある隔壁はもうそろそろ限界を迎えそうになっている。


「えっと、あたしも……」


 ミフユは葛藤しているようだ。

 ゴブリンが変貌したあの怪物を怖れているというよりは、ヤスタカを放置して進むのが心苦しいのだろう。


「いや、ミフユはナズナと協力して退避してくれ。体育館まで戻れば如月さんが治してくれる筈だ」


「う、うん。了解っす」


 ミフユは納得して動き出したが、本来の意図は別にある。

 先程も考えたところだが、恐らくミフユの専売特許である完全回避が機能しない様に思われる。

 回避率が100パーセントでも、命中率が120パーセントであれば、20パーセントは当たってしまう原理だ。


 多分あそこまでバグってしまったモンスターに対処するには、システムの制御下にいる存在では厳しいだろう。



  ◇  ◇  ◇



「な! こっちにも隔壁が降りてるのか」


 研修棟の内階段を駆け上がり、会議室前までやってきた。

 ただ階段を昇るだけのため、怪物が隔壁を破壊する前に先回りできるものと考えていたが甘かった。


『大方、咄嗟に部屋ごと隔離でもしたのだろう』


 目の前の隔壁を単独で降ろしたのではなく、部屋自体の防御機能を使用した結果全隔壁が降りたということか。

 それならば、結果的に防御は間に合ったようだが、それにより中から逃げることも出来なくなっているようだ。

 つまり、隔壁を降ろした人物は未だ部屋の中に取り残されている可能性が高い。


 隔壁なのでヤスタカが降ろしたものと思っていたが、その時ヤスタカは風魔法を食らって倒れていた筈で、タイミング的には矛盾している。

 そもそも、隔壁を降ろすのはヤスタカのスキルではなく、システムをハッキングした結果に過ぎない。

 遠隔で操作することも出来なかったので、これはヤスタカではなく、中の人物が実施したと考えて間違いないだろう。


「とにかくやってみるか」


 足に力を込め、右拳を引き絞る。

 次いで、そこから一気に隔壁に接近して全力で殴り付ける。

 恐らくコンクリートや鉄板程度では豆腐の様に砕け散る程の威力があると自覚している。

 それ程の威力があれば、本来蹴りだした床も砕けそうなものだが、そこはステータスの補正のためか、大きく砕けてはいない。

 ともあれ、拳に乗る威力の方はステータスがダイレクトに乗る。

 それだけの威力が一点に集中するわけだから隔壁は一瞬で吹き飛ぶ――そう感じていた訳だが、そうはならなかった。


「は? なんだこれ。硬いって言うより全てのエネルギーを持って行かれたような……」


『それはそうだ。元は神の乗り物よ。神のシステムが通じないのは道理であろう』


 新しい情報が飛び交ってくるが、つまりはステータスボードと同じということだろう。

 いつもは俺が使う側だが、いざ俺自身で経験してみるとなんとも違和感が半端ない。

 しかし、それならばそれでおかしい事がある。


「あいつは隔壁も壊していたよな?」


 それは間違いない。

 隔壁を逸れて外壁が破壊されていた訳でもなく、外壁自体にダメージが入っていた。


『さてな。恐らくコアの影響が出ているのだろうが、レベルとやらの影響かもしれぬな』


 レベルの影響の可能性があると言うことは、アルの見立てでは、限界突破している俺よりも向こうの方がレベルが高いと判断しているようだ。

 また、隔壁とステータスボードが同列であるならば、ステータスボードによるガードも効かない可能性が高い。

 まして、コアと言う不明確な情報すらある。


 どう考えてもこの先の戦いで苦戦が必至となるので、戦略等も考える必要がある。

 だが、今はそれ以前の問題だろう。


「何かここを先に突破する方法はあるか?」


 そもそも、向こうが先に隔壁を突破してしまえば、その時点でここを突破する意味も、積極的に戦う必要もなくなる。

 それならば、問題は後回しにして今できることの方に集中する。

 その方が俺の性格的にもあっているだろう。


『ふむ。お主のレベルならば、天井や床ならば壊せるだろう。だが、早いのは我を解放する事だな。我にとってこの程度の隔壁、障害にすらならんわ』


 コアの制御下にあったのか、神のシステムの影響下にあったのか、校舎を代表する建物自体、元々モンスターに気付かれなかったり音を遮断するように、何らかの防御効果はあった。

 その効果はゴブリンがコアを入手した際に失われていたものと思っていたが、バグモンスターに研修棟自体が壊されていなかった事からも、効果が残っていたか神様により復旧されていたものと思われる。


 そんな建物を構築する物質であるが、アルに言わせればレベル――つまり、単純な力があれば壊すことはできる様だ。

 但し、隔壁を壊している怪物の攻撃の余波で壊れていない事より、それなりの強度はあるらしく、確かにそっちを破壊して中に入るには時間が多少掛かるかもしれない。

 であるならば、アルに任せるのも提案としては悪くはない。

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