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79話 『無視』

 振り返ってはいけなかったのだろう。

 それはそうだ。

 目の前に脅威が迫っている中で視線をずらすなんて命を捨てている様なものだ。

 だが、頭より身体が反応した。

 

 その視線の先、ナズナは立っていなかった。

 一瞬焦ったが、どうやら倒れているわけではない。

 地面に尻餅をついて左腕を押さえているが、出血している訳ではなさそうだ。

 但し、その視界の端には、全身甲冑が砕けて倒れているカナタさんと、折り重なって倒れているミフユとヤスタカが見える。


 そこまで確認したところで背後から羽音がしたので、慌ててゴブリンに視線を戻す。

 隙だらけであった筈なのに、ここまで不思議と攻撃される事はなかった。


『どうやら我等は眼中にないようだ。嘗められたものよな』


 そのゴブリンは、悪魔の尻尾や獅子の脚等が更に生えて既にゴブリンとは呼べない生き物になっている。

 正に怪物と化したそいつは空中に浮かぶと一直線に研修棟へ向かい、その3階部分へ張り付いた。

だが、そのまま中に入る事はできていない。


「隔壁か? ヤスタカが何かしたのか」


 研修棟の3階、つい先程まで窓ガラスだったそこは、ヤスタカが新校舎で下ろした様な隔壁で封じられていた。

 怪物はそれをこじ開けようとしている。

 そしてその際の衝撃は凄まじく、こちらにも隔壁にヒビが入る音が響いてくる。

 恐らくもうじき怪物側の勝利に終わるだろう。

 だが、それまで多少の時間はありそうだ。


「おい、生きてるか?」


 近くにうつ伏せに倒れていた天使に尋ねるが、返事は返ってこない。

 まさかと思って近づいてみると呼吸音が聞こえたので、どうやら生きてはいるようだ。


 生きているならばそれで良い。

 他の皆も確認しないといけないので、とりあえず天使はそのまま置いておく。


「カナタさん。大丈夫ですか?」


 次に近いカナタさんに近づくが、天使と違って意識があるようだ。

 先程の弾き倒された様な体勢から、大の字で天を仰ぐ体勢に変わっている。


「いや、死んだかと思ったがな。多分鎧だ。鎧が砕ける際に過剰ダメージも持っていったんじゃねぇか。余波で立てそうもねぇが、暫くすれば戻んだろ」


 全身甲冑の耐久度を越えた過剰ダメージは消え、耐久範囲内で受けた衝撃で身体が動かないといったところか。

 現実的には本来逆のダメージになりそうなところだが、この辺りのシステムの矛盾をついたところで仕方がないだろう。

 とりあえずの説明はついたが、それでも判らない事がある。


「ナズナはどうやって防いだんだ?」


 近くで尻餅をついていたナズナだが、今は立ち上がって近くまで来ていた。

 相変わらず左腕を押さえているが、カナタさんより動けている。


「何度も見ていたもの。動かせないにしても真似る事はできるわ」


 ナズナはそう言うと、目の前に白く半透明な板――ステータスボードを一瞬出現させ、そして消した。

 確かにステータスボードの強固さはシステムの仕様によるものだ。

 制御できないにしても上手く出現させれば、敵の攻撃を防ぐ事もできるだろう。


「流石だな。よく咄嗟にできたもんだ」


「偶々上手くいっただけよ。実際、少しずれていたみたいだし。多分折れているわね」


 何がとは聞く必要もなく、それは左腕の事だろう。

 それくらいで済んで御の字だとは思うが、ナズナのステータスによる魔法耐性も大いに機能していた可能性もありそうだ。

 仮にレベルがなければ左腕ごと吹き飛ばされた可能性もある。

 しかし、そう考えると1つ気掛かりがある。


「あっちは、大丈夫かしら」


 俺の気掛かりと同じ事を考えたのだろう。

 ナズナが向けた視線を追うと、そこは研修棟の入口だ。

 そこには未だにミフユとヤスタカが折り重なる様に倒れている。



  ◇  ◇  ◇



「ヤスタカ先輩! 大丈夫っすか! 起きて下さい!」


 倒れているミフユ達に近づくと、ミフユが必死に手でヤスタカの身体を揺すっていた。

 但し、それは仰向けに倒れたミフユが、ミフユに覆い被さるヤスタカに向けての行動だ。

 押し倒した、なんて冗談が通用するような状態ではなく、どう見てもヤスタカがミフユを庇って魔法を受けたのだろう。

 服がボロボロに破け、至るところに傷が見えている。


 ヤスタカは、カナタさんの様な装備をしていたわけでもなく、ナズナの様にレベルが高い訳ではない。

 そう考えると、ヤスタカはもう既に――――、


「ぐっ。い、痛ぇよ。すまん少し意識が飛んでた。今どく」


 案外元気そうな声を出してヤスタカが身体を持ち上げ、ミフユの横へカナタさんがしていた様な大の字に転がる。

 代わりにミフユが身体を起こし、ヤスタカの横に座った。


「なんで庇ったんすか? 守られなくてもいつも通りに躱して――――」


「いや、あの風魔法は範囲攻撃だった。必中攻撃ってやつだろ? ……約束もしていたしな」


 ゴブリンが変貌した怪物は、明らかにステータスの上限を突破していた。

 であるならば、例え必中攻撃でなくてもミフユに命中していた可能性もある。


「ヤスタカ、お前は凄いぞ。だが、どういう仕組みだ? 勝算なく動くタイプでもないだろ?」


 ヤスタカの考え方の基本はデジタルだ。

 必ず数値的な計算が入る。

 とは言え、客観的にヤスタカが冷徹や非情ではないのは、喜んだり喜ばせたりといった感情面も数値化して計算に含めている為らしい。

 但し、紳士的な行動や自己犠牲の様な類いは、ヤスタカにとっては価値が見出だせない様で、そのポイントは限りなく低かった筈である。

 そのため、今回の行動は何か死なない保証があったものと思われる。

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