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78話 『凶器』

『こっちに来るようだ』


 アルの言葉を証明するように、横一文字に斬られた壁から今度は刃物が突き出てきた。

 それは今度は縦方向にスルリと降りると、今度は勢いが上がり、縦横無尽に斬り裂かれる。

 バラバラと音を立てて壁が瓦礫へと変貌を遂げると、それを実施した人物が姿を見せた。


『ふむ。こやつか』


 その姿を見てアルが納得したが、俺も同じ気持ちだ。

 白い髪に白い肌、白い鎧を身に付け、白い翼を持つ人物は、体育館で治療を受けていた天使だ。

 手には死神を思わせる巨大な鎌を持っているが、それが壁越しにゴブリンの首を刈り取った凶器だろう。


「ハヤト? ハルノア ワ。クナミナ ワ カグラ」


 その天使は、また俺を見て驚いているが、知らない単語だらけで何を言っているかは判らない。


『お主を見て驚いたと。後は、あの小娘の気配を感じてこっちに来たらしいな』


 幸いにして、アルが通訳してくれたので意味は判った。

 だが、一度敗れたゴブリンを斬った事について何かコメントはないのだろうか。

 アルは無口だとも言っていたが、かなり特殊な思考回路をしている可能性がある。

 とにかく、天使の主目的は最初からハッキリしており、その対象については今なら俺の見解もある。


「とにかく、お陰で助かったみたいだ。で、多分お前が捜している相手は向こうじゃないか?」


 俺の言葉は恐らく伝わっていないだろうが、俺がしたジェスチャー――指を差す仕草くらいの意図は伝わるだろう。

 その指の先は、研修棟の3階を指している。

 そこには会議室があるわけだが、そこには人影が見える。


「カグラ……」


 どうやら当たりのようだ。

 天使は目線を上に上げたまま俺の横を通りすぎ、翼を広げる。

 恐らく一気に飛んでいくつもりの様だが、その行動を見てなのか該当の人物が慌てて窓を開けて叫んだ。


「避けて!! ヒルデ!!」


 そんな大声を出すイメージがなかった人物の叫びに驚くが、それについて考える間もなくヒルデと呼ばれた天使の背中に紫色の雷が衝突した。

 何があったか確認する間もなく、背後に感じた気配に向けてステータスボードを展開する。

 結果としてその判断は正解であり、ステータスボードには水魔法が着弾していた。


『同時に魔法を使用しおったな』


 そう。

 今、俺の防御が間に合ったのは、雷魔法の方が水魔法よりも速かった為だ。

 その発動自体は恐らく同時だ。

 そして、それを実行したのは――――、


「ゴブリン……リスボーンしたのか。こんなに早く」


 振り返って見えたのは、先程魔核になった筈のゴブリンだ。

 魔核は放っておくとリスボーンする。

 そして、その際にはリスボーン前よりも強化されるとは、ショウゾウ先生から聞いた話だ。

 単発でしかスキルを使用していなかったゴブリンが、2つの魔法を同時に使用し始めたのはこれが原因に思われる。


「まずいな。これは対処方が無くないか?」


 何せ、リスボーンまでに1分も掛かっていない。

 それならば、再度倒しても再び同じ時間でリスボーンしてしまう可能性の方が高いだろう。

 しかも、その都度強化されるのであれば尚更だ。


『いや、それ以前の問題だ。そもそも勝てぬやもしれぬぞ』


 アルがそう言う根拠は不明だが、そのヒントはゴブリンの姿にある。


 今のゴブリンの姿は異様だ。

 コボルトの様に上位個体に進化するのはまだ判るが、ゴブリンの姿は倒した時のままだ。

 つまり、胴体に首から上が無い。

 その頭部自体はゴブリンの横の空中に浮いているが、そこに意識が宿っているようには見えない。


『グギギギゲギギゴァァァァァ!』


 だが、その意識の無い筈の頭部から大音声の声が漏れ出した。

 雄叫びの様なものではなく、何かに苦しめられているような断末魔だ。


『来るぞ、気をつけよ』


 アルの注意とほぼ同時、ゴブリンの腹部からゴブリンよりも太い腕が突然生え、その腕を使用してゴブリンが俺に殴り掛かってきた。

 ステータスボードでその腕を受け止めるが、その腕の形状には見覚えがある。


「鬼の腕……まさか、鬼に身体を乗っ取られて……」


 強力なモンスターを補食したモンスターが、後から身体を乗っ取られるシチュエーションはゲームでも見た事がある。

 一度倒された事で体内の力のバランスが崩れたと考えれば説明はつくかもしれない。


『いや、それも違うな。更に来るぞ』


 アルの言うように、今度はゴブリンの背中から翼が生えた。

 鳥の様な紫色の羽毛に覆われたその形状は、まるでハーピィの翼だ。

 その翼が紫色の光を灯すのに合わせて、元々のゴブリンの両腕からも再び魔法の光が漏れ始める。


 どうやって捌くか。

 発動は同時だとしても、速度等に差があるのは先程も見た通りだ。

 恐らく、雷魔法と水魔法、そして風魔法だろう。

 であるならば、それぞれの雷魔法を受けた上で続いて水魔法も受ける、その後、範囲に効果が出る風魔法に対処する――それが最適解だと考えたが、どうやらそれは誤りであり、大きな失敗だった。


 雷魔法と水魔法、そして風魔法。

 それらは俺を無視し、後方へ飛んでいった。

 当然そっちに居るのはナズナ達だ。


 今のゴブリンの魔法は、リスボーン前よりも強力になっていた。

 ゴブリンもステータスの上限に引っ掛かっていたと考えていたが、今の威力はそれを否定するのに十分過ぎる。

 であるならば、ナズナ達には手が負えなかった可能性が高い。

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