73話 『集団』 (1999年3月24日 6日目)
「意外と壁が機能しているな」
体育館から出て研修棟の方に目を向ければ、そこにはバグモンスターが群れている。
群れているという事は、未だ建物の中へ侵入されていないという事でもある。
昨日電話した時は誰も出なかったので最悪な事態も予想していたが、実際のところ建物は無事な様だ。
不思議なのは、ショウゾウ先生と向かった倉庫では外壁を突破されたのにも関わらず、研修棟は未だ無事であることだ。
体育館を襲っていたモンスターも研修棟の方に向かうようになったので、体育館の方が無事だったのは理解できるが、これは理解できない。
「制御は放棄されたが、別に解除されたわけじゃないからじゃないか? 俺もそこから割り込んで制御を奪った訳だし、神様とやらもできるんじゃねぇか?」
ヤスタカの返答からすると、体育館が無事だったのは単に研修棟にモンスターが向かったからというだけでもなかったようだ。
そして神様であれば、何かしらのスキルや知識を持っているというのも納得はできる話だ。
「それで、肝心のゴブリンは何処に居るんすか?」
『左側だな。モンスターの動きを見れば判るだろう』
ミフユの質問に応えたアルの言葉通り、モンスターが左側へ流れていっている。
ショウゾウ先生の話では、モンスターは放置しておくと共喰いを始めてバグっていく話だった。
それならば全体的に発生する現象の筈だが、そこに流れが生まれているのであれば、他のバグモンスターより頭1つ抜けたモンスターがその先に居るだろう事が想像つく。
「食べ放題ね。いったい何体のモンスターを取り込んでいるのかしら」
新校舎で遭遇した段階で30体弱は捕食していただろうが、今はその2倍や3倍程度ではきかないだろう。
「っつう事は早速アル先生のお手並み拝見という事だな。俺は戦力にならんから後は頼んだ」
『まったくこやつは……』
ヤスタカが無力を宣言をした上でナズナやミフユの更に背後に隠れる様な位置に動いたのを見て、アルも呆れている。
尚、それでいてヤスタカがこっちに合流しているのは、研修棟ではヤスタカの能力が有効である可能性と、体育館での守りが必須ではなくなった事による。
ヤスタカが制御していた鎧武者であるが、段々とダメージを負い完全に機能停止してしまっていた。
にも関わらず体育館を防衛できていたのは、入れ替わりで会長が復帰していたからだ。
その会長はバグって3つ首となったモンスター――ケルベロスともキメラとも呼べるモンスターを改めて使役したが、それなりに強く、はぐれたバグモンスターにも後れを取る事もなかった。
もっとも、その首は犬や獅子や山羊ではなく、猪と虎と羊であったが。
とにかく、そんなヤスタカの提案であるが、まだその必要はないだろう。
「いや、リザードマンの時と同じだ。数は多いが1体1体は大したことなさそうだからとりあえず突っ込んで行こう」
多分強いのは率先してゴブリンが取り込んで居るのだろう。
バグモンスターとはいえそこまで脅威も感じない。
更に言えばリザードマンの様に連携を取ることもなければ、俺達に背中を見せているような状況だ。
特別警戒する必要もなく進んでいけるだろう。
そう思い、早速動き出す。
「え、ちょ。せんぱ――――」
なにやらミフユが呼び掛けてきたようだが、既に目標は直ぐ目の前に居る。
外から今この集団に合流するところなのだろう。
丁度体育館前を横切った黄色い花が咲いた大型の蛙をミフユと交換した鉈で切り裂く。
その一撃でそのバグモンスターは魔核へと変わったので、次に近い足の生えた巨大な茸へと向かい、こいつも一刀両断にする。
「バグモンスターの癖に異様に弱いな」
その言葉に反応した訳ではないのだろうが、地面が大きく揺れ、そこから大型のワームが顔を出した。
『ヒュロオオオオ』
太さにして3メートル程、そいつはバグっている様には見えないが、その巨大さや雰囲気から近くのバグモンスターよりは強そうではある。
そいつの頭部にある円形の口には牙がビッシリと付いており、それが俺を一飲みにでもしようと襲い掛かってきた。
「『水砲』!」
『ギッ。ヒュロオオオッ』
その口元へ水でできた砲撃が命中し、巨大ワームが一瞬よろける。
考えるまでもなくナズナによる水魔法だ。
「あたしも忘れないでくれっす」
巨大ワームがよろけている隙にミフユが接近し、鬼包丁でその身体を削り取っていく。
その都度、巨大ワームから肉片が飛んでいくが、それが何肉になるのかは深く考えない事にする。
『ヒュロオオオオ!!』
だが、巨大ワームは他のモンスターより体力が多いのだろう。
ミフユの攻撃にもめげずその身体を振り回してくる。
たまらずミフユが距離を取って戻ってきた。
「でかすぎっすね。時間が掛かりそうっす」
ミフユの率直な感想なのだろう。
だが、俺の見解は異なる。
見解は異なるのだが、その見解に対して疑問に思っている自分もまた存在している。
俺の見解はシンプルだ。
多少は強力なのかもしれないが、結局は雑魚モンスター。
そこまで脅威とは思えない。
だが、ナズナの水魔法やミフユの斬撃による耐久力をみると、俺の思い過ごしの可能性も十分ある。
「よし。試してみるか」
未だ首を振り回している巨大ワームに対し、徒歩で近づいていく。




