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71話 『隕石』

「あの隕石は貴方を核とした異世界そのものだったという事かしら」


『隕石などは知らぬが、我を中心に反転世界の地面が大きく削られたのは事実であろうな』


 ナズナの話とドラゴンの話をまとめると、ドラゴン自体は地中の奥底――いわゆるダンジョンの最奥部か何処かに居たが、何かの間違いでそこから球形に抉り取られてこの世界に召喚されたとかになるだろう。

 隕石の莫大なエネルギーによってバグったとか、異世界に繋がったものと考えていたが、隕石自体が異世界だというなら1つ疑問が残る。


「それなら、隕石がそのままぶつからず直前で弾けたのはなんでだ?」


『ふむ。それは我が目覚めた際に邪魔となった寝所を吹き飛ばした故であるが……。不思議な事に外部から働き掛けがあった様にも思える』


 ドラゴンは先程エネルギー源に利用されたと言っていたので、その反動で眠りに至っていたと考えるのが良いだろう。

 だが、半径20キロメートルにも及ぶ質量を吹き飛ばせる程の能力があるなんて、あのブレスの威力を見た後でもにわかには信じられない。

 だが、冷静に考えてみると質量が消える現象には見覚えがある。


「ダンジョンは崩壊すると消えるのか? 人がやられた時みたいに」


 黒い光に包まれて消える現象だ。

 他にもモンスターが魔核に変わる現象も質量が減っている。


『それは知らぬ。こちらの世界では人間は死んだら消えるのか? それについては神の世界の理だろうよ』


「なるほど、これは少し整理する必要がありそうだけれど、とりあえず名前は決まったわね」


 ナズナがさも当然な表情をしているが、その名前については俺も直ぐに思い至った。


「あぁ、そうだな。お前の名前はアルマゲドンだ。長いからアルとでも呼ぶことにする」


 アルマゲドンは、元々地球滅亡が予測された小惑星に付けられた名前だ。

 その核であったドラゴンであり、且つその小惑星を内部から破壊をしたシチュエーションを取ってみても、この名前で皆納得できるだろう。


『アル……アルとな。ふむ、そういうこともあろうな。好きに呼ぶが良い』


 何か似たような名前でも知っているような反応だが、特に拒絶することはないようだ。


「あ、そうだアルマ君。早速だけど手伝ってくれないっすか?」



  ◇  ◇  ◇



 ミフユに連れられてやってきたのは、同じフロア内で更に2つ奥のベッドだ。

 そこに目的の人物が座っていた。


「協力的なのか?」


「まぁ、襲ってくることはない。モンスターとも違うのだろう。だが、会話が困難でな」


 事前に話は聞いていたが、その人物を普通の人間と評するのは少し難しい。

 全身真っ白な姿は、日本人離れしているが外国人であると言われれば納得できるが、その背中から生えている翼は人間の特徴ではない。

 ワルキューレ――ゴブリンと戦っていた天使に違いない。


 何故こんなところに居るのかは先程ヤスタカから聞いた。

 昨日の夕方頃――結界が破れた辺りに新校舎から落ちてきたらしい。

 場所としては丁度塗壁と戦った辺りで、その際は全身傷だらけだったが、如月さんの治癒魔法によって回復しているとの事だ。


 その天使が、ヤスタカと話していた俺に気づいた。


「ハヤト? クルクア ド カグラ?」


 まただ。

 また俺の名前を呼んだ上で、前と同じ質問をしてきている。


「頑張って解読しているんだがな。『ド』が『あなた』、『ク』から始まる言葉が動詞なんじゃないかとは思うんだが、検証に協力してくれる様子はない」


 これまでの経験からある程度の法則がありそうなのは判る。

 残った言葉の『カグラ』というのは恐らく人名か何かだろうと考えている。

 つまり、『クルクア』はその人物に対する問いかけになると思うが、推測するより聞いた方が早い。


「アル、なんて言ってるんだ」


『なんだ、誰かと思えばあの小娘の取り巻きではないか。通訳はしてやるが、面倒だから我の事は話すでないぞ』


 こうしてここに来た理由は、アルがいれば話が進むと考えての事だ。

 しかし、アルに直接のやり取りを拒否されたという事は、小娘とされる人物が神様なのかもしれない。


『言っている事はシンプルだ。こやつも小娘を捜しているらしい。なのでこう言ってやれば良い。ネクルクアと。知らんという意味だ』


 つまり、『カグラ』は響きからしても人名、『クルクア』は『知っている』、『ネ』を付ければ否定と言う事だろう。


「えっと、ネクルクア ワ カグラ」


 アルの言葉も踏まえて天使に向けて答えてみる。

 多分、『ワ』は自分自身を差しているのでこの文法で合っているように思える。

 実際、アルからも指摘もないし、天使からも理解したような雰囲気が伝わってくる。


「ハルスア……。アヤモ クスミア ワ」


 天使がまた判らない言葉を発してきたが、その後天使は目を閉じてそれ以来動かなくなる。

 意味が判らないので、アルに再度確認してみる。


「なんて言ったんだ?」


『残念、じゃあ寝る、だと。まったく、相変わらず主と同じで無口なやつよな』


 どうやら会話が困難だったのは、非協力的というよりは単純に天使の無口さによるものだったらしい。


 その天使からは既に寝息が聞こえてきている。

 寝ること自体は、如月さんの治癒魔法では体力が回復しないことから必要ではあるのだろうが、座りながら寝るなんて器用な事をしている。

 もっとも、背中の翼があるので仰向けで寝るのは厳しいだろうから、もしかするとそれが標準なのかもしれない。

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