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69話 『封印』

「おい。待て、待ってくれ!」


 ドラゴンに声を掛けるが、ドラゴンは既にこちらに視線を向けておらず、ブレスを撃つことに集中している。

 完全にミスった。

 ドラゴンにゴブリンを倒して貰う事自体は問題ないし、それがブレスによる一掃でも問題はない。

 だが、その方向が問題だ。


 今ドラゴンは俺達へ背を向けているが、その口元付近に紫色の光が集まってくるのが見える。

 恐らくドラゴンは顎を開き、その口元にエネルギー球を生じさせているのだろう。

 その収束が収まった時、ブレスが放たれるのだろうが、その方向は以前より左向き――研修棟に向かっている。

 狙いとしては間違いないのだろうが、それに伴う犠牲は許容できない。


「くっそ、間に合え!」


 ブレスが放たれる前に止める。

 その為に全力でドラゴンに駆け寄っていく。


 恐らく、ナズナの魔法でもドラゴンを止めるには至らない。

 今、可能性があるのは俺――俺がバグ利用していたステータスボードだけだろう。

 今まであらゆる攻撃を受け止めていたステータスボードであるが、システムを壊す程のブレスに対しては少々分が悪い気はする。

 だが、やらない訳にもいかない。


 今の問題は向きだ。

 ドラゴンが背中を向けている為、ブレスの射線が視界入っていない。

 ステータスボードの設置位置は自由に制御できるが、見えていない場所だと流石に厳しい。


 一刻も早く射程に捉えるために最短距離で行く。

 レベルによる補正を最大限利用し、本来道でない道――ドラゴンの背中をも踏み台にして駆ける。

 尻尾を踏み、翼の間を通り、その頭部へ。


「見えた! 止まれ!」


 ドラゴンの頭部越しに見えるエネルギーは、今にも放たれる寸前だ。

 身体を支える為にドラゴンの角を掴み、ドラゴンの口元へステータスボードを展開する。


 いや、展開しようとした(・・・・・・)

 だが、失敗した。

 なにも、展開する事ができなくなったとか、なにかに妨害された訳でもない。


 唐突に、ドラゴンの方が消失していた。

 口元どころかその顎を含めた頭部、更には胴体を含む全身までだ。

 当然、ドラゴンの身体を足場にしていた俺も落下する。

 その途中、ドラゴンが溜めていたエネルギー球だけが残り、制御を失なったそいつは俺の目の前で破裂した。



  ◇  ◇  ◇



 目が覚めた。

 頭がぼーっとしていてうまく思考できない。

 どうやら俺は横になっているようだ。

 周りを見渡すと、パーテーションに区切られた壁があってその先は見えない。

 だが、天井が特徴的であるが故にそれがどこかは判る。

 学校の体育館だ。

 どうしてそこに居るかについては予測できるが、考えるよりも聞いた方が早いだろう。


「なぁ、ナズナ。起きてるか?」


 辺りを見回す前に気づいていたが、丁度腹の辺り、そこに重さがあった。

 そこにはナズナの頭があり、ベッド横の椅子に座りながらもたれ掛かっている。

 恐らくずっと横で見守っていたのだろうが、眠気にでもやられたのだろう。

 右手で身体を揺すってみると、浅く眠っていたのだろう、直ぐに反応があった。


「……ん? あぁ……起きたのね」


「あぁ、すまん。また、心配させた」


 命に関わる様な危険はこれで3回目だ。

 2回目の後は決して3回目は起こすまいと思っていたがこのザマだ。

 恐らく、エネルギー球の爆発に巻き込まれたが運良く生き残り、如月さんの治癒能力で助かったといったところだろう。


「いいえ、謝る必要はないわ。不思議な事に貴方は傷一つ負っていなかったもの。意識を失なったのは驚いたけれど、どう? どこか痛くない?」


 予想に反して無傷だった様だ。

 確かに如月さんの治癒の場合は傷は治るが、体力は戻らないとの話だったが今は普通に――むしろ絶好調とでもいう程に動く。


「特になんともないな。無傷なのは無意識でガードでもしていたのかもしれない」


 記憶にはないが、ブレスを防ごうとステータスボードを展開しようとしていたタイミングであったため、無意識に自分を守るように展開していたのだろう。


『違うな。それは、我が制御してやったのだ。我の功績を奪うでないわ』


「は?」


 声の感じは例のドラゴンだ。

 だが、周りを再び見渡してもその姿は確認できない。


「そこね」


 ナズナが指差した先は俺の胸元だ。

 確かに声はその辺りから聞こえてきていた。


「まさか……これか?」


 首に掛けた鎖を引っ張り、それを服の外に取り出す。

 父親の形見であるアミュレットだ。

 何故か神銀製でカナタさんに精錬して貰ったが、特に追加能力も得られなかったアイテムである。


『左様。しかし、何故に反転世界にこんな伝説級のアイテムが存在しているのだ。怒りを通り越して驚きの方が強いぞ』


 半信半疑だったが、実際そのアミュレットから声が聞こえる。

 当然スピーカーが付いているとか、口の様に動いている訳でもなく、ただ聞こえてくる感じだ。


「伝説級……」


『いかにも。封印のアミュレット――神の効果を受け付けぬ我であっても抗えぬその効果、実在すら疑っておった』


 形見のアミュレットにそんなアイテムだったなんてこちらの方が驚きであるが、とにかくドラゴンが消えた理由は判った。

 ドラゴンの角に触れた時、そのタイミングで封印が発動したのだろう。

 結局、俺が意識を失なった理由までは判らないが、俺が助かったのはこの封印されたドラゴンのお陰らしい。

書き溜めている分にほぼ追い付いてしまいましたので、今後は毎日投稿は厳しくなりそうです。

週2回程度の投稿は維持したいと考えておりますので、最終話まで付き合って頂けると幸いです。

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