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62話 『増殖』

「ピッチ――羨ましいっすよね」


 ミフユがヤスタカが最後に言った電話という言葉に反応した。

 昨日は研修棟にある固定電話へショウゾウ先生の携帯電話で掛けた訳だが、体育館には固定電話は無い。


「まだ持っている人は数人でしょうし、使い道がないわよ。それに今後を考えるのであれば、今をくぐり抜けないと――――『電光』!」


 ピッチ――つまりPHS、更に言うならパーソナルハンディシステムであるそれは、携帯電話の廉価版として最近広まってきてはいた。

 だが、これまで掛かっていなかった固定費が家計に掛かるため、学生の身分で親から持たされるのは一握りとなる。

 当然親がおらず生活費を切り詰めている俺やナズナは持っていないが、副会長は持っていた。

 問題等があった場合は、そこへ掛けて連絡する事になる。


「さて、連戦になるけど進むしかないな。ショウゾウ先生、リザードマンが湧き出しているのは、剣道場の方でしたね」


「えぇ。直接黙視した訳ではありませんが、方向はそちらです。恐らくそちらに元凶が居ることでしょう」


 なんでこんなにリザードマンが大量に居るのか、そして何故魔核を落とさないのか。

 更には、リザードマンを倒してもどうやら経験値はゼロか僅かしか入っていないらしい。

 その答えについては、体育館前で再び復活していたコボルトで思い付いた。


 取り巻き召喚。

 種族を率いる様なボスが持っている能力で、自分の周囲に数体モンスターを召喚するものだ。

 尚、中ボスくらいであれば周囲のモンスターを回復する様な能力を持っていたりする。

 黒毛コボルトはこの位置だと思われ、またリザードマンにしても装備が揃っている個体がトレントに捕食されていたモンスターの中に居た気がする。


「リザードマンの王――仮にドラゴニュートとでも言いましょうか。そいつを倒せば多分全部消えると思います。多分ですが……」


 普通、ボスが倒されると召喚された取り巻きも同時に消える。

 だが、通常ボスが倒されなくとも時間経過で消えたり、再召喚は行なわれないのが普通だ。

 そこがバグって無限増殖が起きているので、倒してもそのままである可能性は十分ある。


「『電光』! とにかくやってみましょう。このままいても切りがないわ」


 ナズナの言う通りだ。

 このまま居てもナズナのMPにも制限はある。

 いざとなればショウゾウ先生が水を取り出せるが、ペットボトルに入っている状態ではそれでも限りがあるし、取り出したり飲んでいる時間も隙になる。

 できるだけ節約するに越した事はないだろう。



  ◇  ◇  ◇



「『雷剣(サンダーブレード)』!」


 ナズナの詠唱により作られた紫色の雷の剣は、前方に群がるリザードマンの集団を扇形に切り裂いた。

 射程距離と速度を絞る事で中距離の範囲攻撃ができるように調整したらしい。


「リーダー格が1体居たわね」


 ナズナの言うように切り開いた範囲内に1つの魔核が落ちている。

 どうやら、ドラゴニュートの下には少し強めのリザードマンもおり、そいつが更にリザードマンを召喚するという構造になっているようだ。

 案の定、召喚者を倒すと召喚されたモンスターも消えたため、リーダー格のモンスターを倒すとその分リザードマンの数を減らせられる。


「『雷剣』!」


 だが、それも終わりは見えない。

 切り開いた先から次のリザードマンが場所を埋めるため、さっきからナズナが連続で魔法を使用している。

 恐らく、補給無しで使用した最高記録だと思う。


「『電光』!」


 リザードマンの集団の中に装備を着けているリザードマンが居たので、ナズナがそいつを射貫く。


「なぁ、連射しすぎじゃないか? 一旦戻って立て直すべきかと思うんだが」


 今はまさにリザードマンを蹂躙している状態であるが、まだ終わりは見えない。

 仮に逃げる場合でもそれなりにナズナに頼ることになるだろうから、あまり無理されると積む可能性が高い。


「あら? このまま行きましょ。MPの事なら心配いらないわ。減っていないもの」


 ナズナのレベルは100を超えている。

 それだけあればMPも大量にあるし、威力の調整等もできるようなので節約も可能なのだろう。

 だが、減っていないとなると、MPの自動回復の能力を知らず得ていたか、或いはMPの回復アイテムである水を知らず補給していた事になるのだが。


「まさか、水魔法か?」


「えぇ、MPを回復する魔法なんてバランス崩壊しているわね。ほら」


 ナズナはそう言うと、何かを嚥下する様子をあからさまに見せてきた。

 つまり、口の中に水を魔法で生成しそれを飲んだ。

 ただそれだけであるが、使用量より回復量の方が大きいようだ。

 バグと言うよりはバランス調整に失敗している様なものだが、不具合には違いない。

 とにかく、MP枯渇の心配が不要なのであれば、ゆっくりと時間を掛けて進んで行けば良い。


 どうやらリザードマンの集団は、剣道場を逸れてその横から湧いて来ている。

 その先には既に使用されていない屋外プール場の区画があった筈だ。

 人が立ち入れない様に封鎖されてはいるが、管理すら放棄されていたので、雨水が溜まり池の様になっていた記憶がある。

 近く撤去する予定があるとかないとか言っていた様に思えるが、ドラゴニュートの住みかと考えれば適当な様にも思える。

 

「――――っ!」


 突然それは来た。

 目的地のプールがある位置、そこから放たれた水魔法と思われる攻撃だ。

 それは、リザードマンを殲滅していたナズナへと向かい、俺が展開したステータスボードにより弾かれた。

 それを撃ったと思われる方向に目を向けると、そこにリザードマンの親玉と思われるモンスターが居た。

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