58話 『復活』
「リザードマンは魔核落とさないんっすね」
ショウゾウ先生達の戦力の確認をしようと思ったが、ミフユが別の事に気づいた。
窓で上半身しか出ていなかったリザードマンは別として、ショウゾウ先生が斧で斬り倒した2体の下には特別何も落ちていない。
横目で傍らのスライムを見てみるが、今回は特別動いた様には見えない。
そう言えば、事務室前でナズナが電光をリザードマンの集団に撃ち込んだ際は、集団に紛れて見えなかったと思ったが、その際も落としていなかったのだろう。
つまり、魔物系統とガードロボ系統の他に、別の系統があったという事になる。
今までのモンスターとの違いと言えば建物の外に湧いているくらいだが、トレントは魔核を落としていた筈だ。
後は恐らく水属性であるくらいだが、体育館に行く間にも、数匹は水属性と思われるモンスターは居た様に思われる。
「小日向、魔核ってのはなんだ? つうか、お前ら生きていたんだな」
男子生徒の1人がミフユを呼んだので、ミフユの知り合いかと思って改めて見てみると、どちらかと言えば俺の方が付き合いが長い人物だった。
やや長髪で目付きが鋭く長身のそいつは、モンスターと戦っていた姿は様になっていたが、実体はバリバリの文化部系、囲碁・将棋・その他部の部長である滝沢ハジメだ。
もう一方で眼鏡を掛けたこちらの人物は副部長の笹川ユキオは、まさに体力が無さそうな見た目だが、モンスターと対等に戦っていた。
「滝沢、それは、こういうやつだな。モンスターを倒すと出てきて……って、熱っ!」
滝沢に挨拶がてらに魔核を見せようとしたら、その魔核が急に熱を持ち始めた。
床に落としたそいつを見てみると、鼓動のような動きをしていた光が今は激しく点滅している。
「それは先程の……まずい。復活します。ハヤト君、それは元々どんなモンスターでしたか?」
「どんなって言われても……」
これは、職員室前で倒したモンスターの魔核なので何体かの姿は思い浮かぶが、結局はスライムが食べ残した残り物だ。
光の色が茶色なので土属性ではないかと思うが、そうすると岩亀かもしくは一角兎ではないかとは思う。
そいつがそのまま復活するのであればそれ程問題ないとは思うが、変なリスクを追う必要はないだろう。
「ほら、暴食スライム。喰っていいぞ」
『きゅお? きゅいい』
今にも魔核からモンスターが新たに生まれ出でようとする寸前であったが、その前にスライムが丸飲みした。
スライムにとっては魔核はご馳走の様なものなので、許可すれば直ぐにでも食い付くもにと思ったが案の定だった。
食欲が底なしのこいつには暴食の称号が丁度良いだろう。
「え? 喰った? まさか、あれだけ苦労していた復活を止めたのか?」
滝沢や、その隣に居る笹川からは特に反応はなかったが、後から入ってきた副会長が非常に驚いている。
「相談したい事が増えました。少しお時間良いですか?」
傍目には、副会長だけが特別驚いて見えた訳だが、どうやらショウゾウ先生も把握している共通の事象があるようだ。
◇ ◇ ◇
「結構しっかりした作りなんすね」
ショウゾウ先生との相談として使用したのは、例のプレハブ小屋だ。
プレハブと言いつつ、玄関から入ってしまえばそこはワンルームマンションの様な見た目になっていた。
冷蔵庫や洗濯機、温熱機が付いた簡易キッチンが付いており、部屋自体は高級な黒革のソファーや大きなガラステーブルが置かれた応接室の様な作りにしてある。
玄関横には扉があったので、ユニットバスも付いているのだろう。
「いえいえ、ここに持って来た時に掃除したのですよ。便利なもので、不要な物は一旦『ふくろ』に仕舞い直してしまえば良いものでしてね」
そう言ってショウゾウ先生自ら湯呑みにお茶を注いでいる。
「やっぱり電気も水も来てるんですね」
このプレハブ小屋は無造作に体育館に置かれているだけで、電気や水を外から供給されている様には見えない。
にも関わらず、カーテンを閉めきった室内には電灯が付いているし、お茶の為のお湯ですら水道と電気ポットから作っている。
「おや、その様子だとその原因まで掴んでいる様ですね。不思議な現象ですが、皆さんに浴場を提供出来たので助かりました」
「あれ、それだとわざわざここを設置した後に気づいたんですか?」
こんな事態では、どうしても風呂とトイレの問題は付きまとう。
トイレは体育館に元から付いているし、風呂を求めていた訳でないのであれば、わざわざプレハブ小屋を設置した理由が判らない。
小屋の中に目的の物があったとしても、ショウゾウ先生の能力なら直接取り出せそうな気がする。
「えぇ。浴場は副産物ですね。切っ掛けは先程のリザードマンです。件の窓が割れた時、初めは気づきませんでした。結果、溢れた訳です」
事務室前と同じ状況だ。
リザードマンによるモンスターハウス、それが知らず形成されていたのだろう。
「溢れたと言っても、少しずつ漏れ出てきた訳ではありません。幸か不幸か集団行動をする特性があるようで、いきなり集団で出現し襲い掛かってきました」
その時期であれば、モンスターへの対策がなんとか安定させた時だろうに、そんな集団で現れたらトラウマものだろう。
だが、今の話で何をしたかは理解した。
「それで、『ここ』を空中に取り出して押し潰したって事ですね。なるほど、流石です」
ショウゾウ先生は満足そうに頷いているが、そんな正解をいきなり引き当てたせいか、ナズナとミフユの視線が厳しかった。




