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54話 『悲鳴』

 開いた隔壁、その先にはモンスターが居た。

 それも1匹や2匹ではなく数体確認出来るが、それはそれでおかしい。


「なんか、思ったより少なくないっすか?」


 ミフユの指摘通り、実際少ない。

 蔦の生えた猪、角の生えた兎、岩でできた亀、巨大な雀等、7体程度だ。

 微妙にモンスターが組合わさった様なバグった姿をしてはいるが、その数体に100匹程の強さが集約されて居る印象もない。

 実際、隣でナズナが「『電光』!」やら「『水砲』!」と繰り返し唱えるだけでそいつらも消し飛んでいく。


「変ね。でも、とりあえず魔核が出るのは確認できたわね」


 ナズナが言うように床には7個の珠が転がっている。

 折角なので『修正パッチ』との違いはどの程度か調べようと、その1つに近づいて行こうとした瞬間その魔核が消えた。

 だが、別に驚きはしない。

 何せその瞬間は見ていたし、魔核が消えた要因もその場に残っている。


「おい。早すぎるだろ!」


『きゅい?』


 魔核は消えたと言うよりも食われたが正しい。

 つい先程までラスクを堪能していたというのに、次の獲物を見つけた途端直ぐに飛び付く辺り暴食具合が半端ない。


『きゅきゅい?』


 スライムはするすると2個目の魔核に近づくと、触手でそれをつつきながら聞いてきたので応えてやる。


「食べても良いが、1個は残せよ」


『きゅきゅい』


 そこからは一瞬で、スライムは次々と魔核に襲い掛かり、そして最後の1個はわざわざ俺の前に持ってきた。

 それを受け取り観察する。


 サイズ感は飴玉サイズで『修正パッチ』と変わらない。

 違いと言えばその内部から発する淡い光の光り方だ。

 『修正パッチ』の方は幾何学的模様が絶えず変化する、言わばスクリーンセーバーの様な動きをするのに対し、魔核は中央にある光が拡がったり縮まったりするまるで心臓の鼓動の様な光り方だ。

 そこに何か意味があるのか考えようとしたが、その思考は突如中断された。


『――――――――ォォォォォ!』


「――――――――ぁぁぁぁぁっ」


 この先の廊下の先、そっちから恐らくモンスターの咆哮と、人の声の様なものが聞こえた。


「え? なに? 悲鳴っすか?」


 そう、女性の声と思われる高い声の悲鳴だと思われる。

 それも命の危機にでも直面したような切羽詰まったものを感じる。


「直ぐに向かった方が良いわね」



  ◇  ◇  ◇



 数体のモンスターを蹴散らしながら、職員室と保健室の間の通路を通り抜け、校長室等に繋がる通路を横目に体育館へ通じる通路を曲がる。

 そこに体育館への入口があるわけだが、外から直接体育館に入る為の玄関や、その玄関フロアの2階にある柔道室へ向かう階段、体育準備室もあるのでそれなりの空間がある。

 そのフロアにたどり着くと、その体育館の入口が獣で取り囲まれていた。


 その獣は2足歩行の犬頭のモンスター――いわゆるコボルトの10体以上の集団であり、何かを警戒するように半円形に広がっている。


『グルルルル』


 コボルトの集団の中央には、他のコボルトより特徴的なコボルトがいる。

 他のコボルトより大型で黒毛なのも特徴的だが、その左腕はゴツゴツした石の質感だ。

 その石は状態異常の石化の様に硬化していると言うよりも、石のモンスターの腕が移植された様な印象を与える。

 恐らくこいつが咆哮の主であり、悲鳴の主はこの包囲の内側にいる誰かだと考えるのが普通だろう。


「てぇーい!」


 その黒毛コボルトに対し、内側から掛け声と共に斧が振り下ろされた。

 だが、その斧は何度かの攻防の末、ガッシリとコボルトの左腕で受け止められた。


「早く、ハルナ君を中に! そして扉も閉めなさい」


「で、でもそんな事したらショウゾウ先生が……」


「いいから早く!」


 斧の連撃により数歩黒毛コボルトが下がったため、斧を振るった人物が見えた。

 学生ではなく、ワイシャツにベストを着た初老の男性。

 既に白髪となっている髪をオールバックに固めているその人物は、高乃宮ショウゾウ――この学校の校長先生だ。


 恐らく周りのコボルトが数に物を言わせて襲い掛からないのも、この校長先生を警戒しての事だろう。

 実際、床には無数の魔核が散乱しているので、半数以上は討伐済なのだろう。

 だが、今の言動より校長先生をサポートしていた誰かが倒れ、今の絶望的な状況に陥ったと考えられる。


「『水砲』!」


 ナズナの水魔法が直撃し、黒毛コボルトが吹き飛ぶ。

 あの黒毛コボルトは他のコボルトを従えるだけあって恐らくレベルが結構高い。

 だが、それも鬼やゴブリン、果てはトレントと比べれば大して驚異を感じない。

 実際、今の1発で黒毛コボルトは魔核となり床に転がっている。


「む? おや、君達は……」


 校長先生は急に目の前の敵が居なくなり驚いていた様だが、俺達が来た事に気付いたようだ。


『グルル』『グルゥ』『グルルルルゥ』


 その校長先生への声掛けをする前に残ったコボルト達が反応した。

 灰色の毛並のそいつらはボスがやられて狼狽した様子はなく、逆に統率者が居なくなって解放された様な印象だ。

 自由になったコボルト達は、当面の驚異であるナズナに向かって一斉に走り出した。


 ナズナの魔法は単体魔法なので、集団で来られると案外厄介だ。

 だが、それもつい先程までの都合であり、今では別の選択肢が生まれている。


「ほら、餌がやってきたぞ。範囲攻撃だ」


『きゅきゅい!』


 俺の合図に反応したスライムは、先程の約束通りスキルを使用してコボルト達を殲滅した。

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